第15話 おっさんボランティアをする

主催団体の人手不足で急遽ボランティアスタッフとして駆り出されることになった。

スタッフの主な仕事は選手の誘導・タイムキーパー・組手のポイントの表示(卓球などで使うめくるタイプ)や結果の記録などだ。



とりあえず本部席に行って指示を仰ぐことに。

「○○館の佐々木です。館長にこちらでお手伝いをするように言われたのですが・・・。」

「ありがとうございます!××会の黒川です。宜しくお願いいたします。お子さんの試合もあるのに本当に申し訳ありません。助かります。」


坊主頭のいかつい先生が恐縮して挨拶する。黒いスーツなのでとても堅気に見えない・・・。

「午前中は型試合の誘導をお願いします。午後の組手の試合はタイムキーパーと

得点係をお願いします。いやあ、経験者の方がいると心強いです。うちは流さないので時間の管理が慣れてないと難しいんですよ。」


組手の試合でポイントが入ると一旦選手を止めて開始線から仕切りなおすのだが、

その時に時間を止める止めないは大会によって異なる。時間を止めない、所謂流す試合の場合は審判の指示以外で時計を止めないが、流さない試合はポイントが入るたびに止めなければいけない。慣れていないと結構難しいのだ。


「承知いたしました。先取で時間は流さないという認識で良いですか?」

「おっしゃる通りです。話が早くて助かります。」


そんなこんなでまずは型試合の誘導に。この日の試合は3コートに分かれて行われる。私の担当するのはAコート。小1・小5・中学生有段者の部の試合だ。息子のでる小5に割り当てられたのは、主催者側の配慮だろう。


順調に試合は進み、息子の出る小学5年生の部だ。正直な所、型に関してはあまり期待していない。元々器用なタイプではないし、なにより同じ道場にハルキ君という型の上手い子がいる。入って1年だが、他道場でやっていたので経験値はかなり高い。

今回も優勝候補筆頭だろう。

ちなみに元々剛柔流でやっていたので、松濤館ではなく剛柔流の型で出場している。



選手はコートの左右に赤白で別れ、勝ち残った子はトーナメント順に応じて再度赤白に分かれる。私は赤側の誘導だ。幸いなことに息子も赤だ。

誘導の時に軽く声をかける。

「細かいとこは言わないから、気迫だけは負けないようにな。」

「はーい」



間の抜けた返事を返してくる息子。こりゃあ1回戦も怪しいな・・・。


順番が進み息子の番だ。息子の方は平安四段。相手の子も期せずして同じ型だ。

これは実力の差がはっきり出るな・・・。


平安四段は静の動きから始まり、蹴りや飛び込んでの打ち込み、膝蹴り等の大きな動きを行う。私個人の認識では切れが大事な型だと思う。


いざ始まると息子の動きがいつもと違う。いつもは重心は高いわ切れは悪いわで、ダメダメなのだが、今日は切れも重心も申し分ない。しかも相手の子は黄色帯、あまりうまくない。帯の色から考えてもまだ低級者だろう。


型を覚える速度は道場によってまちまちだ。一般的には小学生なら松濤館や糸東流でいえば平安初段~5段、剛柔流なら撃砕第一か第二がメインだ。だが、私が昔いた道場のように茶帯まで基本動作しかさせないところもあれば、小学生で観空大やセイパイといった指定型までさせるところもある。


相手の子は小学校高学年ということもあってバタバタ平安4段まで覚えたのだろう。

型が終わり判定・・・。3人の審判全員が赤い旗をを上げた。


ほっとした顔をする息子。まあ、一応これで面目は立つだろう。


次は2回戦。ハルキ君も順当に勝ち上がった。小学5年生の部の出場選手は16人丁度なので、準々決勝だ。これに勝てば入賞も見えてくる。


息子の次の相手は同じ地区にある道場の広川君。以前別の大会で見かけたが、相当上手い。ハルキ君と並ぶ今回の優勝候補だ。今回は息子は白なので正面から型を見守る形だ。


広川君はセイパイ。剛柔流の指定型、小学生だとかなり上級者でないと難しい。

いざ試合開始。やはり上手い。息子も1回戦につづき上手にこなしているが、これは分が悪い。


結局2-1で広川君が勝利となった。旗が1本上がっただけでも健闘したと言えるだろう。後ろに下がった息子は私の方をみて肩をすくめる。悔しさは見えない。

このやる気のなさが、入賞できない原因なのだろう・・・。



結局小学5年生の部はハルキ君と広川君で決勝が行われ、ハルキ君が2-1で勝利した。二人とも小学生と思えないクオリティで、会場からは大きな拍手が起きていた。



午前中の型試合は無事に終わった。うちの道場の子達も何人か入賞したようだ。


昼休憩のため会場を出ようとする私に黒川先生が声をかけてきた。

「ありがとうございました。午後も宜しくお願いいたします。あ、ボランティアの方にはお弁当を用意していますので、どうぞ持って行ってください!」

「ありがとうございます。」


ラッキーなことに昼食をゲット。元々パンを用意していたが、お弁当の方がやはり良い。午後も試合ので息子にいるか聞いたら、いらないとの答えが返ってきた。

どうやらハンバーガーと菓子パンの方が惹かれるらしい。


そうこうしているうちに午後の部が始まる。午前中と違い、タイムキーパーと記録係は試合の結果に直接関わるので、気は抜けない。


ただ、この組手の試合で大きなトラブルが発生してしまう・・・。

次回へ続く







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おじさんがフルコン空手を始めてみた @yongmoon

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