ファッション

〈Ｄ〉より〈守屋〉こと高村黎宛のＥメール

差出人 : D〈desire@*****.co.jp〉

送信日時 : 四月二十一日 木曜日 二十一時五十分

宛先 : moriya〈nopain@****.jp〉

件名 : 無題

まず、このアドレスは今回限りの使い捨てです。お返事をくださっても、私に届くことはありません。

モリヤ、あなたからミオを引き離したことは、申し訳ありませんでした。ただ、私の本意でなかったことは、わかってほしいと思います。私はあなたにもともに来てほしかったので、それがかなわなかったことを心から残念に思っているのです。

ミオは元気です。食欲が旺盛で、よく食事を摂っています。今は私の管理下において、狩りは小鳥や野良猫までしか許していませんが、おそろしく無邪気に人間の温かい血を欲しがります。

主もそうでした。

百年以上この姿で彷徨っていますが、初めて人間に堂々と正体をあかしました。髪も瞳も隠すことなく、まったく何のカモフラージュもなしで街を歩いたのなど、最早いつ以来だか思い出せないほどに久しいことです。

映画（フィルム）のなかのドラキュラ伯爵が着ている服装を真似てみたときには私もずいぶん昂揚して、あなたがたの楽しみが少し理解できたようにすら思えました。あの「正装」用のジャケットと、フランス語の店のマントは気に入っています。実際にあんな装いをしている仲間には、残念ながら、私は出会ったことがありませんがね。

すべてが虚構にすぎなかったことはわかっています。それでも私は、あなたがたの前で吸血鬼だと名乗ったとき、そしてそれを束の間でも受け容れられていたあのひとときを、忘れないでしょう。

私たちは遠くへ行きますが、いつかどこかでお会いすることもあるかも知れません。

そのときにはどんな服装（ファッション）でお会いできるか、楽しみですね。

お元気で。さようなら。