第58話 meet again④~貴方にハッピーエンドを~


「いやぁ、ロードデビルは強敵でしたね……いたたっ」


「だめですよ、じっとしてください天ヶ原君」


 金髪美人の副会長に窘められたので、改めてじっと治療を受けることにする。

 ……あれからダンジョンから3馬鹿と副会長を無事に連れ帰り、今は保健室で伊禮先生と副会長に治癒の術をかけられていた。科学の発展した現代で治癒の術、というのもまた変な話だがダンジョンが世界に出現してから、“ダンジョン帰り”と呼ばれるダンジョンに入って戻ってきた人の中にはこうした超常の力が使えるようになる人が現れたのだ。ちなみに原理は科学の力をもってしても解析不能。そういうものだからそう、以上にないらしく世の科学者達を発狂させていた。

 救急車で運ばれて行った3馬鹿や、この2人―――そして俺やアルもまた、その一人だ。


「天ヶ原君とアル君には明日は反省文を提出してもらうからね?……まさか2人もダンジョン帰りだとは先生も思わなかったけど。でも、今回は命があったからよかったけどもうこんな無茶は絶対にダメよぉ?」


 伊禮先生が溜息とともに言ってくる。教師としての義務もあるだろうが純粋に心配しているのが伝わるので、先生には心配をかけて悪い事してしまったなと思う。


 学校に現れた新規のダンジョン―――“スクール・ダンジョン”と名付けられたそこは、ダンジョンの入り口付近こそ倒しやすい敵で済むが奥にはネームドモンスターやユニークモンスターがごろごろしている超級のダンジョンだった。

 詳しくは調査中だが、恐らく世界有数の、最悪に難度の高いダンジョンではないかということでダンジョンのランクの大幅な引き上げと、厳しい潜入制限が課せられそう。……まぁ俺には関係ないけど。


 そんな超級ダンジョンだったので案の定3馬鹿はユニークモンスター数体ににぶちのめされて瀕死になっており、俺達がかけつけたときには救援に入った副会長が回復をかけているのでかろうじて助かったが副会長も防戦一方という最悪の状況だった。


 俺は以前、汚馴染とのいざこざでダンジョンに潜入したときに目覚めていた“天剣”という防御のスキルがあったのでそれを使って戦いに割って入り、皆を庇った。で、横っ面からアルが持つ“勇者”というスキルが持つ『聖剣』の連射でモンスターの集団を吹き飛ばしてもらった。

 その後、自力で歩ける程度には回復した3馬鹿を叩き起こし、ついでに魔力切れで一時的に動けなくなった副会長を抱え、脱兎のごとく道をUターンしてここまで逃げ帰ってきた、ってわけ。

 帰り道はユニークモンスターのロードデビルに追いかけられて執拗に攻撃されて 、“天剣”を発動していても結構なダメージをうけていたのでここで治療してもらっている。……主に背中がいたいのぜ。


「また、天ヶ原君に助けられてしまいました」


「成り行きってやつですよ……副会長もお疲れ様でございました」


 申し訳なさそうにしている副会長にウインクしながら言うと顔を赤くして俯いてしまう。そんなリアクション返されると俺の方も恥ずかしいんですがっ……!


「……あの、天ヶ原君」


 副会長がなんか言いにくそうにしながら俺の方をじっとみているので、なんすかと声を返す。


「……できたら、副会長じゃなくてルクールって、名前で呼んでほしいなぁって」


「あ、そうか。ファルティの事はファルティって呼んでるからそのお姉さんを副会長呼びってのも変だもんな!わかるよー」


「違う、そうじゃない」


 何故か隣の伊禮先生からツッコミが入った。アルェー?……んー、間違ったかなー?わからないよー。


 その後、ファルティにも礼を言われつつ、今日は迎えの車を手配したというファルティと副会長……じゃなかったルクール先輩に見送られつつ別れて、アルと帰路を歩いた。

 これ明日もまた今日の事で話のネタにされるんだろうなぁ、なんて説明しようかねぇとアルと話しながら歩いて別れて少し歩いた所、ベンチに座っていた人影に声をかけられた。……間神さんだ。俺を待っていたのか?


「こんにちは、天ヶ原くん。お疲れ様です」


「おー、ありがとう?」


 帰り道が同じ方向なのか、間神さんは立ち上がると俺の隣に並んできた。やはり俺を待っていたようだ。何か用かな?変な事言われないといいなぁ。


「間神さんも転校初日お疲れ様。すごく話題になっていて学園に“女神”が来たなんて呼ぶ声もあるみたいだけど」


「それはやめて欲しいのですが」


 この子にしては珍しく心の底から嫌そうな顔をしている。なんだろう、女神という言葉がそんなに嫌なのだろうか?


「そうか、ならそう呼ぶのは辞めておこう。……でもあらためて聞くけど、どうして君は俺にそうも固執するんだ?以前どこかであったっけ?」


 そんな俺の言葉に、間神さんは瞳を伏せて考え込むそぶりを見せた後、空を見上げながら訥々と語りだした。


「……私、以前は別の世界で魔神をしていたんです、と言ったら信じてくれますか?

 その世界は滅びを待つだけのどうしようもない世界で、そんな中でラウ―――前世の天ヶ原くんは、私の……この世界の言葉を借りるなら“推し”でした。

 天ヶ原君は、滅びゆく世界の果てに、世界を諦めて滅ぼそうとした女神を倒して世界を救い命を落としたのです。私は旅の同行者としてそれを見届けていました」


 どこか遠い昔を懐かしむような苦笑を浮かべる間神さん。こういう所はなんだか浮世離れしているというか、同じ歳の筈なのにずっと年上に、大人びて見える。だからだろうか、そんな突拍子もない話に対して、不思議と茶化すような気にはならなかった。


「そして私自身も寿命を迎えた後、神の世界に戻って―――それから、報復に燃える女神と戦って勝ち、天ヶ原くんや旅の仲間たち、その友人達を、争いのない平和なこの世界に転生させたんです。中には転生にしがみついてお呼びじゃない女達も2人ほどついてきてしまいましたが。……実は私、この世界の神様だって言ったら驚きますか?」


「それは―――中々壮大な話だな。でもその話が本当だとして、俺は間神さんの事を覚えてないんだが、それって……寂しくないのか?」


「寂しい?……そうですね、そうかもしれません。でもそれ以上に、推しを推せるという事が嬉しいですから。推しは推せるときに推さないと―――いなくなってしまってからでは遅いんです」


 話のスケールが大きすぎるけれど、間神さんの真摯な様子を見ていると、おシャブシャブだとかおハーブだとかお電波だとかそういうものとは何だか違う様にもみえる。実体験が伴っているような雰囲気だから、どうにも否定しにくいのである。


「……ありがとう」


 俺が思わず零した呟きに対して、間神さんは不思議そうに首を傾げている。


「何故、私に感謝を?」


「間神さんが言っていることが本当か嘘かっていうのは俺にはわからないからな。だけどもしそれが本当だったなら、それは間神さんがすごく頑張ってくれたっていう事だと思ったから、お礼を言うべきだと思った……んだな」


 そんな言葉に、暫し目を丸くして驚いていた後、


「その一言で報われました」


 ふふっ、と愉快そうに笑っている。こうしていると、ただの美人の女の子って感じなんだけどね。


「ひとつ、聞いてもいいですか?」


 この子にしてはおずおずと、覗うような物言いに対して俺の方が首を傾げてしまう。


「なんじゃらほい」


「今は、毎日楽しいですか?」


 また不思議な事を聞いてくるなぁ。でもそうか、毎日楽しいか、かぁ。それなら答えは決まっている。


「……あぁ、楽しいよ」


「それは―――頑張った甲斐がありました」


 夕日に照らされながら、にこりと笑う間神さん。その姿は幻想的で、それと同時になんだか無性にもの悲しさを感じるものでなんだかドキっとした。

 そしてそんな話していたらもう俺の家の前である。


「それじゃまた明日、間神さん」


「……はい、また明日、天ヶ原くん」


 そう言ってお互いに手を挙げてから俺は自分の家へと入っていく。


「―――また明日、ラウル」


 扉が閉まる間際、そんな声が聞こえたような気がした。

 ガチャリ、という扉の音を聞きながら―――明日も明後日も、楽しく賑やかな毎日が続くといいなぁ、とぼんやりと思うのだった。

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勇者が死んだその先で サドガワイツキ @sadogawa_ituki

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