第57話 meet again③~日常と隣り合わせの非日常~


 そしてその日の昼休みは、間神さんを学食に案内しにつれていったファルティと別れて、屋上でアルと食事をとっていた。


「凄く綺麗な子だったね」


 あの間神さんの様子にそんな感想で済ませられるアルはやっぱり大物なんじゃなかろうか。俺としてはいきなりとんでもない美人さんにねっとりと執拗に絡まれて、正直対応に困るんだけど。


「……わ、わからん。なんであいつ俺にまとわりついてるんだ??」


 わけわかんねぇよと言いながら弁当をつまんでいる所に、底抜けに陽気な声が飛んできた


「天ヶ原とアルじゃ~んウェーイ!」


「よう佐藤、今日も元気だな」


 茶髪にピアス、に日焼けした肌。校則に真っ向から反逆するどうみてチャラ男なこいつは隣のクラスの佐藤。同じ中学から進学した友達でアルとも顔見知りである。


「やぁ、佐藤君もお昼?」


「モロのチン……じゃなかったモチのロンっしょ!」


 そう言って俺達のベンチに腰掛ける佐藤、今日も楽しそうで何よりだ。上機嫌にコッペパンをパクパクと食べている。


「やっぱ昼はコッペパンっしょ!かーっ、パクパクですわーっ!……ってそんな話じゃねンだわ!なんか噂になってるけど天ヶ原もアル君も彼女NTRたんだって?マジドンマイすぎるやん??」


「おー、やっぱり噂になってるか。まぁそんなところだ」


「あはは、うん。でも気にしてないから大丈夫だよ」


 俺とアルの言葉に、カーッと顔に手を当てて天を仰ぎ見ながら立ち上がる佐藤。


 「ファーッ、これは俺が一肌脱ぐしかないっしょもう全裸よ全裸?パーリィしてテンションブチあげるしかねーから!おめーの席あるから!!ってわけでちょっとダンジョンいって一儲けしてくるべ!!」


「いやいいよ別に、そんなに気にしてないし」


 なんかやる気出してる佐藤の提案を固辞する。……そういえば佐藤はダンジョン探索の許可持ちだったっけ。

 俺にはあまり縁のない世界だがダンジョン探索というのは儲かるらしく、中にはダンジョンから配信をしている奴もいるらしい……知らんけど。


「なんかGW中に学校の敷地内にダンジョンへの入り口出来てたんよー、聞いてないん?俺のランクなら入れるダンジョンだったから、いつメン誘って金策してくらぁ!!できらぁ!!ってわけで今夜は俺の奢りな!!後で連絡するから……楽勝さ、なぁにすぐ戻る!」


 そう言ってビッ!と俺達にサムズアップしてダダダッと走り去っていった。


「今日も佐藤君は元気だねー……」


「そうだな、あのバイタリティには学ぶところがあるよな」


 まったりとそんな事を言いながら俺達は昼食の続きをとるのだった。そうか、学校の敷地にもダンジョンが出来たのかー。そういえば副会長も結構ランクが高いダンジョン潜入許可持ちだってファルティがいってたっけな。


 ―――そしてその日の放課後、昼休みに帰ろうとしたところでファルティが職員室から戻ってきた。何だと思って声をかけると、ため息とともにファルティがぼやいた。


「……はぁ。学校の敷地内にダンジョンの入り口が出現したってのは聞いた?」


「あぁ、そういえば昼休みに隣のクラスの佐藤から聞いたな」


「その佐藤と羽仁(はに)と茶屋(ちゃや)の3人が授業すっぽかしてダンジョンにいって戻ってこないらしいのよ。それでダンジョンの資格持ちの姉様が救援にダンジョンに迎えに行くことになったみたいでその話をしてきたの」


 マジか。佐藤達大丈夫だろうか?あと副会長も大変だな。というより教師が行けよって感じだけど副会長って教師たちよりもダンジョン潜入のランク高いんだっけ?俺もあんまりダンジョン周りとやらはくわしくないんだけど。


「学校にできたダンジョン、結構ランクが高くて入れるの佐藤達意外だと姉様くらいだったみたいなのよ。救援呼んでも近くに入れる潜入許可持ちがいないみたい。

 佐藤達はぶっちゃけどうでもいいんだけど姉様が心配だわ。私、ちょっとダンジョンの入り口で姉様の帰りを待つから今日は2人とも先に帰ってて」


 佐藤も羽仁も茶屋も俺の友達なんだしそんな事言わないでやってくれ……。

 帰ってこない連中は皆俺の知り合いばかりだし副会長の事も心配なので俺もファルティに付き合う事にした。話を聞いていたアルももちろん一緒だ。


 ファルティに先導されて歩いていくと、校庭の隅にダンジョンの入り口があった。地面が隆起して洞窟のようになっているが、GWの間に発生したらしい。出入り口は見張りの教師の他、野次馬の生徒達が集まっていた。副会長は既に

 同じ中学出身の男子の顔があったので話しかけるとどうも3人がダンジョンに潜っていくところに居合わせたらしくその時の様子を聞かせてくれた。


「茶屋が『俺達にいかせてくれ。ここらで寝取られの傷には焼肉ってとこをみせてやりたい』って自信満々にダンジョンに飛び込んでいったよ」


 それどう見てもや…、ムチャしやがってになるでしょうが!そんなことより自分の命を大事にしてくれ茶屋ァ!


「あ、羽仁くんからのメッセージが届いた。送信は随分前だけど時間差で届いたのかな」


 アルがスマホを見ながらそんなことを言うので、みせてもらうと羽仁からメッセージが届いていた。


『アル、いいかい、よく聞いてくれ。

 俺達はダンジョンに潜ってアイテムを回収してくるから、今夜は特等の焼き肉が食べれると思う。

 お前の元カノがざまぁだとか、間男死すべし慈悲はないとか、いうんじゃないんだ。

 うまく言えないけど、お前や、天ヶ原に焼肉を奢ってやりたくなったんだ』


『俺もネトラレ仲間だからなのか、理由は自分でもよくわからない。

 もし、運よく高額換金アイテムが手に入ったらさ、今夜は皆に焼肉を御馳走するよ。飛騨牛をな、約束だ。そろそろ潜入だ、じゃあなアル。良い子で待ってろよ!天ヶ原によろしくな』


 そんなメッセージは最後に敬礼のスタンプで締めくくっている。


 羽仁ィ!!嘘だと言えよ羽仁ィ、じゃねぇんだよなぁ!!何だよこの死亡フラグの塊みたいなメッセージィィィィ!人に焼肉奢る金策のために死地に行くの辞めてくれないかなぁ?!


「これもうミンチより酷い事になるビジョンがみえるんだけど駄目だろ、羽仁と一緒にいた佐藤はどうなったんだ?」


「あ、佐藤君は後ろに向かって背中を反り返らせてこっちを見ながら『今夜は焼肉しかないっしょ!』って言ってダンジョンに飛び込んでいったんだよ」


 同中の男子がトドメにそんなことを言う。

ああああああああ何だよもう、またかよおおおおおおおお!それは『今夜』焼肉食べられない死亡フラグでしょうがぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 あの3人は何故そろいもそろって死亡フラグを建てちらかすのよ!……というか人に焼肉奢る事に全力疾走なんだッッッ?!!!お前らのBボタンめり込みっぱなしかよ!!!!


「幾つ死亡フラグ建てたら満足するんだあいつら」


「でも僕たちの事を元気づけようとしてくれてたんだよね……放っておけないよ」


 うん、アルならそう言うと思ってたよ、知ってた。……そいじゃいっちょやりますか。


「ファルティ、俺達で3馬鹿と副会長纏めて連れ帰ってくるから、ダンジョン入り口の皆の気を引いてくれ」


「ヴェッ?!?!」


 急に無茶ぶりをされてファルティが驚いている。


「大丈夫だよファルティ、僕達に任せて」


 そう言ってアルが力強く頷く。ファルティが視線で『え~、本当でござりますかぁ~?』とでも言いたそうな疑わしそうな目で見てくるが、俺も無言でうなずく。


 ……俺達はダンジョンに興味があるわけじゃないし、日々慎ましやかに暮らせればそれでいいんだが、―――多分そんじょそこらの奴らよりもずっと、はるかに、確実に、強いから。……それは、もしかしたら世界中の誰よりも。

 そして親しい人たちが危ないというなら、そこに首を突っ込むことに躊躇はしないのだ。


「……わかった。姉様を頼んだわよ」


 俺達の確信を持った反応にとりあえず納得したのか、ファルティが皆の注目を集めるように俺達から離れたところで声を張り上げる。


「ねぇ、なんかあっちでチュパカブラとモケーレ・ムベンベがランバージャック・デスマッチしてるんだけど!!セコンドにサスカッチとかピッグマンとかもいるわよ!!」


 ファルティのセンスもどうかと思うけどとりあえず言葉のインパクトに皆の視線がそちらに集まったので、俺達は躊躇なくダンジョンへと飛び込んでいく。俺達に気づいた教師の声が背後に聞こえるが時すでに遅し。しーましぇーん!

 ……まったく、ダンジョンなんてものがなんで現れだしたのか知らないけど、勘弁してほしいよね。

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