第56話 meet again②~転校生の間神さん~


 というわけでアルやファルティと登校し、3人で教室に入ると皆が一斉にこっちを……主に俺とアルをみてきた。漏れ聞こえる話から察するに俺達の事で話題は持ちきりだった模様。……GWの間に男子2人がNTR発覚だからそうもなるよねぇ、多感な高校生の話題としては極上だろうし。

 席に着くまでの間、男子に慰めの声をかけられたり、アルは女子に心配される一方で俺は女子達から顔に生気がないとかデカくて怖いとヒソヒソ話をされた。……どさくさに紛れて女子に酷いことを言われているような気もするけど気にしたら負けなのだよ。


 「まぁ、そういうのは人の好みだと思うわよ」


 そんな有様にファルティも慰めになってるのかなってないのかわからない声をかけてくれるがその優しさが……泣けるぜ。


 そんな話をしながら席に着くと、程なくして予鈴が鳴り担任の伊禮(いれい)先生が入ってきた。うむ、今日も今日とて暴力的な胸部装甲をお持ちの美女である。

 そのあふれ出る色気から教師生徒問わず男子(おもにおっぱい星人)に圧倒的な人気を誇るえちえちな先生だが、恋愛相談や男の扱い方が上手いので女子からも尊敬されている学校の三大美女の一人だ。ちなみに伊禮先生は未婚だけど子供がいるようで、以前買い物の最中に伊禮先生とその娘さんと会ったことがある。

 どうも実の娘ではないようだけれども血のつながりなんて気にしないくらいに仲良い親子っぷりだった。……色白で可愛らしい女の子だったなぁ。


「はい皆、おはよう~」


 伊禮先生の言葉に皆が元気に返事をする、もちろんこのクラスでも先生は人気がある模様。その後は雑多な連絡事項を告げた後、言いにくそうな顔をしつつ俺の隣の空席を視ながら口を開いた。


「……社内さんの事は残念だったけれど、皆、気を引き締めていかなきゃダメよ?」


 俺の隣の空席に座っていたのは、俺の幼馴染で元カノの社内(しゃない)。……GW中に退学RTAをキメたので今はもう学校にはいないし、引っ越していったのでどこにいったかもしらないが。

 そんな伊禮先生は微妙な空気を吹き飛ばすように、努めて明るく声を挙げつつクラスの皆に聞こえるようにゆっくりと話をした。


「それと、今日からこのクラスに仲間が増えるわよ~。転校生が編入することになりました」


 転校生、と聞いて先ほどまでの重い空気からうって変わって、クラスの皆が騒めく。現金な話だが、まったく予想だにしていなかったし本当に唐突な話だからさもありなん。


「はい、それじゃ入ってきて~。転校生の間神つかささんよ」


 ―――そんな伊禮先生の言葉に従って教室の扉が開かれた後、黒い髪を揺らしながら歩く一人の女子が入ってきた。


 その子の登場で一斉に教室が静まり返ったのは、ありえないほど人間離れしている、圧倒的な美少女だったから。整形だとか化粧だとかそんなチャチなもんじゃねえ。もっとヤバいものの片鱗を垣間見たぜ。

 黒い長髪にどこまでも深く飲み込まれるような印象の瞳、顔立ちからスタイルまでそこら辺のアイドルだって太刀打ちできないほどに完璧に整いすぎている。


「間神つかさです。今日から宜しくお願いしますね」


 そういってにこりと―――口元だけうっすらと笑う、何とも言えない微笑みを浮かべたその子、まっすぐに俺を見ていた。……何でまた俺を?と思ったところで気が付いたけど、朝通学路であったのはこの子か。


「間神さんはこの学校の編入試験を満点で編入してきたのよ。なんだか凄いわよねぇ~。席は……天ヶ原君の隣が空いてるから、とりあえずそこを使って?」


 そんな伊禮先生の言葉に静かに頷き、こちらに向かって歩いてくる間神さん。

俺の幼馴染、もとい汚馴染がGW中にスピーディに退学になっていた事で席が空いているのでそこが間神さんの席になった模様……まぁ、そうなるな。

 その圧倒的な存在感と美貌に誰もが目を奪われているが、その視線はじっと俺を見据えている。


「こんにちは、たかまがは らうる と 君」


 俺のすぐ近くで足を止め、にこり、と笑顔を浮かべる間神さん。何で俺の名前を??なんだか発音イントネーションと区切りが違うような。それよりも……なんだ?俺の本能が告げている。


―――避けろ、と。


「……なんとぉーっ!!」


 その瞬間、全力で左右にステップを踏みながら回避すると同時に俺のいた空間を間神さんが予備動作0でダイブしながら通り過ぎて行った。


「……読まれていたのですか?!」


 俺に向かって両手のを伸ばし、抱き着くように飛び込んでダイブしてきた間神さんの突拍子のないな行動に教室が騒めきの声を上げる中、俺の後ろの席のファルティがその小さな身体で間神さんを受け止めていた……ナイスキャッチ!!

 

「ちょ、ちょっと何なのよもう?!?!?」


 そして困惑しながらも間神さんが倒れないようにきっちり反応してるあたり、さらに出来るようになったなファルティ……!いや、それはさておきいきなり俺に飛びついてくるとか何なんだこの子。


「フフフつれませんね……これが焦らしというものですか」


 いきなり飛びついてきたと思えば回避されても何故か喜んでいる(?)間神さん。……何なんだこの子!?


「何を言ってるんだ、まるで意味がわからんぞ!というか俺と君は面識ないよな?!」


 正直こんなとんでもない美人と知り合いになった覚えはない。

 教室の皆も固唾をのんで事の成り行きを見守っているが、俺はこんな風に注目を集めることは好きじゃない。植物のように平穏で静かに暮らしたいのだ……ッ!!

 だが警戒心をマックスにする俺とは反対に、嘆くそぶりを見せる間神さん。


「あぁ、つれない……私と貴方は前世からの縁ではないですか」


 ぜ、前世ェ?おっと電波ちゃんですか……?それともおハーブとか決めてらっしゃるタイプですか??


「……あんた、この子と何があったの?」


 ファルティがジト目で俺を見てくるが知らん、俺は何もしちゃいない!本当だ!!信じてくれ!!


 ―――だがそんな俺の想いもむなしく、その日は午前中いっぱい転校生にまとわりつかれることになった。


 隣の席だから教科書を見せる時も休み時間もニコニコしながらじっと俺の顔をじっと見ているし、はてはトイレまでついてこようとする。

 そして俺が間神さんに話しかけるたびにパァッ…と嬉しそうな顔をするので後ろの席のファルティからは訝しむような視線がグサグサと背中に刺さり続けている。……なんだってんだよォーッ!?

 この子は俺みたいな図体でかいだけの陰の者に絡んで面白いんだ?!そしてそんな間神さんの様子に皆が興味津々で話しかけてくるがマジで俺知らねえんだよなぁ。俺の方が聞きたいよ!


 そんな間神さんは気づくとぴっとりと傍にいるので、俺は油断なく距離を取るのだが、その度にショボーンと顔文字みたいな顔をして凹む。そして女子達が俺の事を責めてくるのである……その中には面白いネタみつけたという興味からの声もあるんだろうけど、理不尽すぎやしませんかねぇ?!


「―――何故でしょうファルティ、ラウ……天ヶ原君が私を避けるのですが」


「間神みたいな美人にグイグイこられたらそうもなるでしょ」


 一方でファルティとは何かウマが合うようで短時間でとても仲良くなっていて、間神さんの嘆きに対してため息交じりに慰めている。

 一瞬知り合いかと思うような気安さで会話をしているのだけどファルティ曰く今日が初対面、ということ。……まるで数十年、数百年来の友人だとでもいわんばかりにツーカーで話が合っていて、いつのまにか間神はファルティを下の名前で呼んでいるしファルティも転校生の事を間神と呼び合う仲になっていた。

 ……女子には女子のシンパシーでもあるのかな?知らんけど。

 

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