番外編 brand new world
第55話 meet again①~いつも通りの朝、の筈~
PIPIPIPI、というスマホから響く目覚ましの電子音に起こされて、いつもと変わらない朝が来た。
なのでいつもと同じように手早く着替えて朝食をとり、鞄を持って学校への道を歩く。
GWが終わって学校が始まったといっても世界は今日も今日とて変わりはないし、歩いている最中も欠伸をしながら街ゆく人の話題に耳を傾けれる程に心にゆとりもある。
同じ学校の制服を着て歩いていく同じ年頃の奴らの話は、アイドルの話だったりSNSの話やアニメだったり、はてはなんとかチューブの配信者だったり千差万別だ。
「……あぁ、平和なのはよきかな、よきかな」
「―――なーに朝からじじむさい事言ってんのよ」
俺の独り言に溜息まじりの声をかけながら合流してきたのは、金髪をツーサイドアップにした女子だ。
「おぅファルティおはよう」
その名前を呼び、手を挙げて挨拶をしながら横に並ぶ。
130㎝程度しかない小柄な身長にお人形さんみたいに可愛らしい見た目が人目を惹くこいつはファルティ・翠(みす)。北欧系のハーフで何やらいいところのお嬢さんらしいけれどそういったお上品さを感じさせないのもあり、こうして気安く話せる友人として付き合いがあるが知りあったのは高校に入ってからだったりする
「はいおはよう。……今日も朝から覇気がないわね」
「低燃費で生きてると言ってくれ。SDGsってやつだ」
それ違うんじゃない?とジト目で見るファルティにハハハと笑いつつ、一歩のストロークが小さいファルティに歩調を合わせて並んで歩く。
「ハァ~……姉様はなんであんたみたいなのを……」
「姉様?……副会長がどうかしたのか?」
ファルティが姉様というのは一つ年上のお姉さんで、学校の副会長をしている先輩の事だ。妹とはうって変わって長身でスタイルも良く、学校でも3大美女なんていわれてるが、たった一年の差でこうも発育に差があるとは……現実は非常である。
ちなみにファルティと知り合ったのは副会長が面倒ごとに遭遇している所に俺が首を突っ込んだからだったりするので、俺とファルティがこうして砕けた喋りをしているのは副会長が結んだ縁だったりするんだよね。
「フン、なんでもないわよーだ」
んべっ!と舌を出すファルティ。……まぁ好奇心は猫を殺すと言うしな、気にしないでおこう。
「……はぁっ、それよりアルは大丈夫かしら」
そう言うファルティはもうすぐ合流してくるであろう俺の友人―――そしてファルティの想い人でもある少年の心配に思考を移行していた。……まぁ、このGWは色々あったからなぁ。
「大丈夫だろ、あいつは……あれくらいで再起不能になるようなメンタルじゃないさ。
それに知ってるか?幼馴染っていうのは息をするように浮気NTRをするものなんだ、それは天によって定められた理(ことわり)らしいぞ」
「何その嫌な理」
ドン引きするように心底嫌そうな顔をしているファルティ。
なんだよ、幼馴染っていうのは寝取られてざまぁされるまでが様式美らしいぞ?言ってて泣きたくなるけどな!!!!チクショーメーッ!!
「幼馴染に浮気ブチかまされたばかりの俺が言うんだ、間違いない」
「幼馴染を寝取られた男だ、面構えが違う……って言わせるんじゃないわよ!!
……言ってて哀しくならない??
まぁ、あんたも元気出しなさいよ。世の中には……一人ぐらいはあんたに惚れてる年上の女子がいないこともないでしょうから、うん」
そう言って慰めてくるファルティ。……なんかやけに限定的な範囲だな??まぁいいけど。
なんでこんな話しているかというと、GW早々に俺は幼馴染の浮気が発覚したのだ。間男をコテンパンに制裁して幼馴染に別れを告げたので解決はしたけれど傷心の身だったりする、テンション低い低燃費コスパマンなのは元からだけどね。
……そしてもうすぐ合流してくる、俺の友人の男子もまた幼馴染の恋人に浮気をされて中々に酷い失恋をしたばかりなのだ。
俺としても大事な友人なので心配する気持ちはあるけどあいつなら大丈夫だろうと確信しながら歩いているとその姿が見えて来た。ふわふわの茶色い髪に子犬みたいな雰囲気の男子が俺達を待っていた。
「よっ、アル」
「おはよう、アル」
「あっ!おはよう2人とも!」
柔和な笑みを浮かべて返事を返してきたのは有部利久(あるべりく)、俺やファルティのクラスメート兼友人で、俺含め親しい間の友人の間はアルという愛称で呼んでいる。
アルは穏やかで人の好い奴だけど、これで中々に頑固で芯が強いところや時々見せる凄い行動力があるので俺も一目置いていて、同じ中学から高校に進学した事に加えて不思議とウマもあうのでよくつるんでいる。
「折角のGWの終わりだったのに、2人とも変な事に巻き込んじゃってごめんね。……僕はもう大丈夫だから」
そう言って申し訳なさそうに謝ってくるアル。アルの幼馴染のあのクソビッ……彼女とのごたごたに巻き込まれたことを悔やんでいるようだ。
別に気にしなくてもいいんだけどな、何せ幼馴染NTR失恋には俺に一日の長があるのだから。一週間くらい先に俺は幼馴染を寝取られてるからなハハハ……笑えよ野菜王子ってね。
「なーに気にするな―――俺も同じ目に遭ったばかりだからな!!相談愚痴ぼやきなんでもウェルカム」
「だからアンタのそれは笑えないわよもう!……でも、何かあったら1人で抱え込まないで相談してよね?と、友達、なんだからさっ」
俺の言葉に続いて、ファルティが顔を真っ赤にしながらアルに一生懸命に言っている。傍から見てるとわかりやすいんだよなぁ。くそっ……じれってぇな。俺がちょっとやらしい雰囲気にしてやればいいのか?!
……とまぁそんな話をしながら俺達3人は学校へと歩いていく。
何年か前に世界の各地にダンジョンが発生したこと、そして俺達が住むこの街にもダンジョンが発生したという変化はあったけれども、概ね穏やかな毎日を送れている。代わり映えがない毎日というのはそれだけで十分ありがたいよね。
俺―――天ヶ原潤人(あまがはらうると)は植物のように平穏な生活を送れればそれでいいのだ。
「―――ラウル」
誰かに呼ばれた気がして立ち止まって声のした方を向くと、大通りを挟んだ歩道に同じ学校の制服を着た黒髪長髪のえらく綺麗な女子が立ってこちらを見ていた。名前を呼ばれたわけじゃないけど、何故か名前を呼ばれた気がしたんだよな。……あんな子いたっけ?遠目に見ても美人ってわかるけどあれだけ綺麗なら話題になってる気がするけど。
「おいてくわよー天ヶ原ー」
ファルティが呼ぶ声に返事をしてから視線を戻すと、さっきいた女子はいなくなっていた。なんだったんだろう?まぁ、いいか。
さぁ、今日も変わり映えのない毎日をエンジョイするとしましょうかねー。
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