なぞなぞ・後編
ほのぼのした空気が広がるあたしの部屋。
でも今から出すなぞなぞで、凍りつくかもしれない。
だから、前置きはしておく。
「あのね、今から出す問題はすごく難しいの。あたしもだけど、いっちゃんもふーちゃんもみーちゃんもわかんなかったから」
「そんなに?」
「なんかね、意地悪なの! 冬夜にもこの気持ちをわかってほしくてさぁ」
「そういうことか。よし、受けて立つ!」
頼もしい冬夜。でもこのなぞなぞはとけなくても仕方ない。一緒にグチグチ言いたいのもある。正解したらいっぱい褒めよう。
「問題です。魚屋さんとじゃんけんをしました。最初に出すのはなんでしょう?」
面接みたいに真剣な顔で向き合う。
でも冬夜の目線が上に行った。考えてる。めちゃくちゃ考えてる。
「最初はグー……は、普通すぎるか。魚屋って言い換えると……」
だよねだよね!
最初はグーくらいしか思いつかないよね!?
魚屋さんが引っかけすぎる。いや、答えさせる気なんてないのかも。
「………………今日の目玉商品。目が拳のグーに見えるけど、実は引っかけ。カタカナのメに直す。だから答えはチョキ」
!?
冬夜の邪魔をしないように黙っていたけど、思わず身を乗り出しちゃった。だって、想像以上の答えだったから。
「たくさん考えてくれたね。でも、答えは本当にそれでいい?」
冬夜はただ、頷くだけ。
だからあたしは姿勢を正して、真実を伝える。
「不正解です!」
「あぁー! やっぱりー! 正解は?」
「実際にじゃんけんをしてみないとわからない、でしたー!」
「えーー!? そりゃあ……そうだけどさぁ。問題になってないよー」
「だよねだよね! なにこの問題! だよねー! でもさ、間違ってると思ったんだよね? なんでパスしなかったの?」
緊張がとけて、いつも通りの会話が続く。だから普段通りの顔で、冬夜はサラッと答えてくれた。
「だって柑奈が出してくれた問題だもん。答えたいよ」
あぁ、そっか。
うん。そうだよね。
「ありがとう。冬夜のそういうところ、すごく好きだよ」
あたしが冬夜をずっと好きでいられる理由。それを改めて実感して、関係を進展させたくて焦っていた自分が恥ずかしくなった。
「どうしたの?」
嬉しそうに笑っていた冬夜が驚きつつもあたしを見てる。大切なことを伝えたいから、ピタッとくっつくように隣へ移動する。
「最近さ、部屋で話す時間が少なかったでしょ? だからね、冬夜と一緒に楽しく笑い合えるこの時間が本当に大切だなって思えたの」
冬夜、つらそう。そんな顔しないで。
「だからね、このままの関係で頑張る。冬夜がいつもあたしを大切にしてくれるのは、わかってたのに。もっと恋人らしいことしたいなって、焦っちゃって。だから試すようなドッキリばかりして、ごめんなさい」
頭を下げようとしたのに、冬夜はあたしの頬を包み込んできた。
「謝らなくていいから。一緒にいたいのに一緒にいられなくて、つらくて、でも、どうしようもなくて。だからね、焦らせちゃって、寂しい思いもさせちゃって、ごめん。でもね、ドッキリはかわいいから続けてほしいな」
いつも冬夜は笑って許してくれる。あたしだからっていう理由で。どうしてそんなことをするんだろう? って、考えてくれてるんだろうな。
それだけ、あたしと向き合う努力をしてくれているんだ。
そう思ったのもあって、冬夜の温もりを感じる頬に熱が集まり続ける。
前までなら迫っちゃってたけど、今日はこの空気がくすぐったくて、話題をそらす。
「お互いごめんなさいしたし、この話は終わり! だからね、最後に問題を出します。冬夜はわかるかな?」
冬夜の両手を膝の上に移動させながら、窺うように首を傾げる。頷く彼の顔は赤いけど、ちゃんとここにいてくれる。
「では、問題です。普段は見えないけど、あたしの中で大きくなってるものってなーんだ?」
なんて答えてくれるんだろう?
悩むかと思ったけど、冬夜はすぐにひらめいた顔をした。
「それは簡単。僕への想い、だよね? 普段からちゃんと見えてるよ」
驚きすぎて声が出ない。まさか当てちゃうなんて。
「なーんて、自惚れすぎ?」
キュン!!
不意打ちもいいところ。しかも冬夜はもつと頬を赤くしながら、はにかむように笑ってる。
痛い痛い、胸が痛い!
かっこいいのにかわいいって、ずるい!
「正解は?」
「大大大正解!!」
思わず抱きついちゃったけど、冬夜からも抱きしめ返されて。ずっとこのままでいたいなって、心から思えた。
***
週末の夜は恒例のお食事会。
家族みんなで、どちらかの家でご飯を食べる。今日はうち。それで、大人たちがお酒を本格的に飲み始める頃に、いつもあたしたちは自室へ撤退する。今もそうだけど、いつも通りじゃない。
「………………」
「………………」
静かに並んで座ってるだけ。
その原因は、お互いの両親のせい。
『もしかしてだけど、冬夜たちってまだ約束守ってるの?』
『当たり前だ。そうだよな、冬夜? せ、先輩睨まないで下さい!』
『律儀ねー! もう高校生だし、冬夜くんが柑奈のことを不幸にするなんて考えられないから、いいのよ?』
『俺は許さ――、母さん! 笑顔でお酒奪わないで!』
あたしたち、すごく悩んでたのに。
いざ許可されて、はい、そーですか! なんてできないし!
でも、気まずいままは嫌。だから動き出そうとすれば、冬夜が距離を詰めてきた。
「親はああ言ったけど、僕は柑奈が大切なんだ。だからね、今まで通り、でもゆっくり、進んでいこう?」
冬夜の表情と声の優しさから、彼の想いがたくさん伝わってくる。だからあたしは笑顔になれた。
「うん。これからも、よろしくお願いします」
「はい。ずっとよろしくお願いします」
くすりと笑い合って、いつも通りお互いの頬にたくさんキスをして。
これからも続く幸せを想像しながら、抱きしめ合った。
冬夜くんと遊ぼう ソラノ ヒナ @soranohina
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