なぞなぞ・前編
「柑奈ちゃんいいよなぁ」
「わかる。相手に合わせてくれそーっていうか、自分色に染まってくれそーな感じ?」
「ヤベー彼氏がいなきゃ――げっ!!!」
僕の最愛の人の名前が聞こえて素早く近づいた。案の定、柑奈のことを狙うゲス野郎共がいたから、当然叩きつぶす。
でも暴力はいけない。犯罪はよくない。だから心を砕くまで。
この前、愚か者に対してちょっと脅しをかけようとした。手が滑って、改造リストバンドを床に落としてメリ込んだという失態を犯してしまったけど。
今度はそうならないようにこいつらにしっかりキャッチさせる。
「俺がいなきゃなんだ? 言えよ」
「い、いえ……」
「お前ら、隣のクラスだよな? せめて同じクラスになってから言えよ。その時点で、運命からも見放されてんだからな」
同じクラスでも許さないけどな!
柑奈の運命の相手は僕しかいない。生まれた時からずっと一緒。僕以外、柑奈の隣にいちゃいけない。
そう思わないと不安なんだ。だって柑奈の魅力は誰が見てもわかるから。
いてくれるだけで、空気が変わる。ほっとするし、癒される。自分の良い所をたくさん教えてくれる。笑ってくれると、こっちも嬉しくなる。あんなにかわいい子、他にはいない。
大切にしたい。
だから、自分のやましい気持ちを隠したい。最近、本当につらい。柑奈がかわいくなりすぎて、理性が消え失せそうになる。
なので、実は八つ当たりでもある。遠慮なくぶつけられる相手に感謝しながら改造リストバンドを外そうとした。
「冬夜くーん! 待ったぁ?」
「は?」
「なにしてんの。行くぞ」
「え?」
「お騒がせしましたー! でも冬夜くん怒らせたらいかんぜよー」
「お、おいっ!!」
高校から友だちになった男子たちにすごい力で引っ張られる。待って! まだ目的は果たせてない!
「「「ありがとうございました!」」」
えっ??
柑奈を狙うゲス野郎共が綺麗な角度でお辞儀してる。お礼を言われることなんてしてない。
「なんでお前らが得意げな顔してんの?」
「いやー、冬夜くんを犯罪者にしたくないからさー」
「少しは頭冷やせ」
「そんな冬夜くんにはこれこれ!」
なんだろ――。
「っ!! かわいい!」
「だよなー。やっぱこれが冬夜だよ」
「冬夜がかわいい」
「このギャップ、よきかな」
なんか話してるけど聞こえない。
だって渡されたスマホには、僕が知らないフワフワロールちゃんのぬいぐるみが映ってる。ぱっと見は垂れ耳うさぎみたいな、真っ白なわんこ。いつもかわいい。柑奈の次に。
新作発表ついさっきじゃん!
柑奈が好きなマイソングちゃんも!!
お揃いの服着てる……。
絶対にほしい!!!
そう考えたら、柑奈に会いたくなった。
さっきまでのモヤモヤした気持ちも嘘みたいになくなった。
***
「あのさあのさ、なぞなぞに答えてくれる?」
「いきなりどうしたの?」
冬夜と新作のぬいぐるみの話題で盛り上がりながら帰ってきた。こういう時間が好き。
それなのに、あたしはまだモヤモヤしてる。
だって友だちから出されたなぞなぞが難しすぎたから。このなんとも言えない気持ちを共有したくて誘った。
あと、思いついたこともあったし。
「なぞなぞ、冬夜はすぐにとけるかなって思って」
「どうだろ? なぞなぞって引っかけ問題みたいなやつ?」
「そうそう! だから気を引きしめてね!」
冬夜はすぐに正座した。あたしのハートのクッションは抱えたままだけど。
「まずは簡単なのから! みんなが食べない食べものがあります。なーんだ?」
少し考えたらわかると思うけど……。
でも実際、あたしはわからなかった。洋梨だと思ったのに。
「柑奈のだから?」
「えっ。なにが?」
「その食べもの」
「いやいやいや! 違うから! 答えはペットのだから、でしたー!」
「あーなるほど! すごいなぁ」
どういうこと?
冬夜の言ってることがよくわかんない。なんでなぞなぞにあたしが登場するの? 思わず答え言っちゃったし。でもなぜか冬夜は拍手してるし。
「次は?」
まぁ、いっか。冬夜、楽しそうだし。わざとらしく咳払いして、気を取り直す。
「海に来ました。でも誰も入りません。なんで?」
これもよく考えたらわかりそうだけど、さっき不思議回答だったからなぁ……。
クラゲがたくさんいるから! ってあたしは答えて、正解にしてもらった。
「柑奈の許可を待ってるから」
「は?」
「え。だって柑奈のプライベートビーチじゃないの?」
「なにがどうなってそうなったの?」
「んん? だってこのなぞなぞ、柑奈が作ってるんでしょ? だから答えに柑奈は絶対入るでしょ?」
「違うから!!! これはちゃんとサイトに載ってるなぞなぞ! あたしは作ってない! 答えはサメがいるからだよ!!」
冬夜の思考回路はどうなっているんだろう? 頭の良い人はやっぱり考え方が違うのか。そう結論づけたあたしに、冬夜から催促がきたので念を押す。
「今からはしっかり考えてね? 少し難しいの出すからね?」
「大丈夫! 次こそ正解するよ!」
「では問題です。りんご、もも、みかんを乗せたトラックがカーブでなにかを落としました。それはなに?」
これもよく考えたらわかるはず。
最初、果物の種類に惑わされるんだよね。
でもさ、普通に考えたらりんごが一番上にありそうだからりんごが落ちた、って考えない? あたしだけ?
「スピード」
「正解! すごーい! よくわかったね!」
早い! 冬夜賢すぎる!
さっきのがちょっとおかしかっただけで、やっぱり頭良いんだね。なんて、感動しちゃった。
「想像しながら聞いてたからこれかな? って思って。なぞなぞ、面白いね」
楽しそうに笑う冬夜にキュンとする。
もしかしたら、冬夜にならとけるかもしれない。
誰も正解できなかった、めちゃくちゃ意地悪な問題が。
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