第5話 電海渡航記録部が来た件について
意を決して『電海渡航記録部』と標識が取り付けられた部屋に飛び込むと、僕らを待ち受けていたのは想像を絶するものだった。
部室にしてはやや広めな部屋で、壁面にはびっしりと本が詰められた棚が並んでいる。中心に五つの机が向かい合うように設置されており、その上にはそれぞれノートPCが置かれていた。
そんな中。
「あああああああああああああああ!!!!!!」
そこには地べたにあお向けになり咆哮を上げる化物がいた。人類とカテゴライズするのもおこがましいと思うレベルの存在だが、大変残念極まりないことに僕の知り合いだ。あれと知り合ったのは僕の人生でも最上位にあたる過失と言っても過言じゃない。
この状況で放置する選択肢など存在するわけもなく、渋々と声をかけるために近くずく。心の底から嫌だけど。
「何やってるんですか、本格院部長」
「新作を投稿したのに全然読まれなあああああああああああああああい!!!!!!!!!!」
挙げ句の果てに、今度は両手を器用にジタバタ動かし始めた。もうどうしようもねぇし、本当に勘弁して欲しい。
「何。何あれ」
当然、星見はドン引いている。
しかもアレ呼ばわりときましたか。もういっそ哀れだ。
この状況を見かねたのか、同室にいた部員の一人が近づきソレの肩を叩いた。
「部長、部長……客人が来たみたいですよ」
「おんぎゃああああああ……あぁぁ……ぁぁ……ん? む、そうか」
彼女はひとしきり叫んだことに満足したのか、スカートを数回叩き立ち上がった。急に正気になるなよ。ビビるだろ。
「え、あ、は???」
必然、また星見は困惑して頭上にハテナマークをいくつも浮かべている。うんうん、それが普通の反応だよね。僕は悲しいことに多少なりとも耐性があるが、こんな狂人ムーヴ見せられたら誰でもこうなるわ。
「元葉教諭から何やら悩みを抱えた客人が来るとは聞いていたが……随分と珍しい暇人も来たみたいだね。なにか。今日は空から槍か龍激砲でも降ってくるのかね?」
それどこのモンスターをハントする世界だよ。
星見は未だに信じられないもの目にしたような
それは彼女が目の前で繰り広げた狂行が原因だけではない。
「え、は、ちょ。まじで??? もしかして生徒会長???」
「そうなんだよ。世界七不思議の一つに登録してやりたいぐらい謎なんだけ、紛れもない事実なんだよね……」
そう。嘘だと言っておくれよ、ほんと。残念なことに揺るぎない事実だ。
容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備。彼女を褒め称える言葉を挙げればキリがないほどであり、その全てに偽りはない。
そんな完璧超人である生徒会長本人が、先ほど地べたに五体投地して暴れ狂っていた化物と同一人物なのだから世も末だ。
「おいおい随分なご挨拶だね明星君。君みたいな粗忽者がそんな綺羅びやかな少女を連れてくるほうが天変地異有為転変の前触れだと思えるほど信じられないがね」
ほっとけ。
「あらあら駄目ですわよ部長。そんな厳しい言い方ですと彼はまた来なくなってしまいますわ」
困惑していると部室に元々いたもう一人が声を上げた。こういう言い方は大変失礼極まりないがとてもエロく見えるお姉さま系美少女だ。
「……明星先輩が来るなんて、珍しいこともある」
先ほど我らが生徒会長に声をかけた少女も言葉を続けた。
総員の視線が僕と星見に集まる。
部室には僕と星見を除き、彼女ら三名しかいない。
総勢三名。これが電海渡航記録部のメンバーだ。
「おぉなんか凄い部だ……って、オタク君どしたん? 何か顔色悪いよ?」
「いやぁ、まぁね……」
そりゃまぁ。
そもそも僕がここに来たくなかった理由の一つが彼女らそのものだからだ。彼女らの人格や行動に重大な欠陥があることは一度置いておくとして。シンプルに女性率が高過ぎるというか、男性が存在しないのだ。
パッと見、ハーレムっぽくて羨ましく思う人間もいるだろう。でもねハーレムの大前提って自分に少なからず好意を持っていることなんすよ。
現実問題、そんなのないからね。なんでわざわざ容姿の良い彼女らが陰キャである僕に好意なんて持つ必要があるんたよ。頼まれても嫌だろ。
そんな中で過ごすのは中々に苦痛だったりする。そもそも女子となんて会話するのかよく分かんないし。
そんな僕の苦悩を知るよしもなく、生徒会長はどこからともなく取り出した扇子を鼻歌交じりに口前で広げた。それやる意味ある?
そしてもう片方の手を前に突き出し広げた。
「ようこそ電海渡航記録部へ。改めて歓迎するよ星見星奈君」
オタクに優しいギャルに陰キャオタクの僕がネット小説を教えることになった件について 灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ @zakiiso09
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