第4話 オタクに優しいギャルと意気投合してしまった件について



 職員室から放り出された僕らは、仕方なく元葉先生が示唆する部室に向かうことに。場所を知っているのは僕だけなので、必然に星見は僕の後ろをトテトテと着いてくることになった。


「はぁ……どうしてこうなった」

「まぁまぁ。旅は道ずれっていうじゃん?」


 どちらかと言えば地獄に道ずれって感じだけどな。

 ともかく彼処に行かなきゃいけないと考えると気が重い。というか、ギャルである星見と行動するのも苦痛だ。彼女はとにかく目立つし、いつ注目を集めてしまうか気が気じゃない。


「オタク君と話すのなんか久しぶりだね、元気してる~?」 


 その筈なのに、当の星見ほしみ星奈せなは能天気に鼻歌を口ずさんでいるまである。


「前も言ったけどオタク君はやめてよ」

「? オタク君はオタク君じゃん」

「さいですか……」


 また彼女はキョトンと首を傾げた。可愛いのがまた憎たらしい。しかも何となくだが、彼女からは話を聞いてくれないオーラをひしひしと感じる。


「でもなんでオタク君がアタシの悩みに適任なんだろね?」

「さぁてね。まったく……今日はおねロリキ◯セク帝王先生の作品の更新日だったてのにいい迷惑だよ」


 しかし、僕がぼやいた言葉に対する星見の反応はあまりにも予想外なものだった。


「あれ? おねロリキ◯セク帝王先生ってもしかして『ロリ勇者』のこと!?」

「えっ、星見も知ってるの!?」


 まさかもまさか。

 おねロリキ◯セク先生は『しいていうならお前の隣を歩くのが勇者』という作品を投稿しているウェブ作家だ。作者名から想像出来ないほど緻密な設定により織り成されるファンタジー作品になっており、現在ウェブ小説界隈にて絶大な人気を誇っている。

 ちなみにロリ勇者とはこの作品の愛称で作者名と作品名を捩ったものである。


 そこから始まったまさかのウェブ小説談義。


「やっぱり私は『ゾンビ★ファンタジー』が最近だと好きかなぁ」

「あーあれね。確かに面白いけどなぁ。でも最近は読者人気を意識したのかハーレムになってきてるのが残念なんだよなぁ」

「あれはやっぱそういうこと? 妙に女の子の新キャラ出るなぁと思ってたんだよねー」


 彼女は驚くほどウェブ小説を読みこんでおり、ギャルであるにも関わらずその造詣にも深い。なにこのギャル怖い。


 ひとしきり話して満足したのか、星見はウーンと背伸びをした。


「は~楽しかったぁ。オタク君って案外話すんだね!」 


 おいこら。それオタクに言ってはいけないワードの上位だぞ。


「正直、教室でスマホ見ながらニヤニヤしてるのキモかったし。うん、今の感じのが全然良いよ!!」

「いや、それは言ってよ……」


 それで時々、教室でヒソヒソ言われてたのか。今後は控えるか……。



「まぁ色々話したけど私は『暗黒騎士は明けの明星にて佇む』が一番好きかなー」

「……え?」



 唐突に彼女の口から飛び出た言葉に思わず凍結フリーズした。


「あ、もしかしてオタク君でも知らない? これが知るぞ知る人の名作でさぁ。最近は更新が停止しちゃってるんだけどね。作者になんかあったのかなー」


 知っている。僕はその作品を

 まさかここでその名前を聞くとは思わなかった。


「ん? どしたん? 顔色悪いけど体調でも悪い?」


 気がつけば僕は彼女に超至近距離で覗き込まれていた。純粋無垢で何一つ混じり毛のない綺麗な瞳が真っ直ぐと僕に向けられている。


「うおっ」

「わっ、ビックリした!」 

 

 僕は思わず飛び退いてしまった。

 その唐突な行動を誤魔化すように、僕は話題をそらした。


「そ、それで単刀直入に聞くけど悩みってなんなのさ」


 まぁ、大方予想はついているけど。

 あの先生がわざわざ僕を指名して、なおかつ例の場所に連れていけとなれば答えはほぼ一つだ。


「えっ、あーっと……」


 彼女は頬を染めて指をくっつけてモジモジ。

 うーん、やっぱり違うのかなぁ。彼女みたいなカースト最上位でかつギャルがあんなことをするとは思えないんだよなぁ。


 彼女は少しの間だけ、目をつむりウンウンと唸りだした。

 そして、何かを決意したのかその目を勢いよく見開いた。


「わ、笑わないで聞いて欲しいんだけどさ……」


 彼女にゆっくりと頷く。安心して欲しい。人を嘲笑うなんて行為はもちろん心の中でしかしない。

 まぁ、そもそも僕なんて笑われるほうが多いんですけどね。この前なんか電車で立ってるだけでギャルにクスクスと笑われたんですけど。アイツら死んでも許さんからな。


「あ、アタシさ。実はウェブ小説を書いてるんだ。だけどそれが全然読まれなくて……コメントとかも厳しいのがついてて」なるほど。やっぱりそういう感じか。


「あ、あれ? アタシ的には一世一代の告白だったんだけど……あんまり驚いてない?」


 まぁ、予想通りだった。

 僕を通して、かつあの部活を紹介するぐらいだ。自ずと答えは絞られる。


「着いたよ、ここが件の場所。電海渡航記録部だ」


 何せここは名前こそ大仰だが、まさにこの悩みにうってつけ。ウェブ小説作家が集まる場所だからだ。

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