第3話 オタクに優しいギャルが出現した件について



 呼び出された美少女はギャルと言って遜色のない風貌をしていた。サイドテールに纏められ、派手な金色に染められた毛髪。隙間から谷間やら腹部の窪みが見えるほど着崩された制服。まさにギャル。

 というかずっと待機していたのか。他に生徒がいるのは気づいていたが、てっきり他の先生に呼び出されたのかと思っていた。


「彼女は星見星奈。ちょっと今、とある相談に乗っててなぁ」


 星見ほしみ星奈せな

 彼女は僕のことをろくに知らないだろうが、僕は彼女のことを知っている。

 別に僕が彼女に好意を寄せているとか、ストーカー行為に勤しんでいるわけでもない。

 シンプルに有名なのだ。クラスこそ違えど、その評判たるや凄まじいもので嫌でも耳に入るほど。容姿、ファッション、コミュ力。その全てを余すことなく兼ね揃えた存在であり、クラスどころか学校単位でのカースト上位に君臨する。しかも、これだけでは飽きたらずファッション雑誌のモデルまでやっているらしい。


 そして何より重要なことだが、彼女は僕が現在進行形で毛嫌いしているオタクに優しいギャルである。彼女は上位カーストには珍しくオタクにも分け隔てなく接する稀有な存在なのだ。


 本来は天地がひっくり返ったとしても関わることはないはずなのだが。


「あれ? オタク君じゃん。おひさ~」

「……僕のことなんか覚えてたんだ」


 まさかの認知されていた件について。あとあれ。オタク君とか言うな。失礼だろ。


「そりゃ覚えているよ~! 去年同じクラスだったじゃん!」


 あ、そういえばそうだった。去年同じクラスで、しかも渾名で呼ばれている。これで僕も陽キャの仲間入りかな。違うか。違うな。



 ていうかオタク君とかいう渾名なんて陰キャなら誰にでも通じるし、名前が分からないから使ってる可能性まである。なにそれ狡猾じゃん。


「えっと、先生。でもなんでオタク君が……?」


 彼女はどこかバツが悪そうだ。

 そりゃそうだ。職員室にいたということは何らかの指導か相談関連だろう。それでいきなり関係ない第三者を出されれば困惑の一つもするわ。


「安心しやがれ。こいつの自己保身やら はたいしたもんだ。まぁ、そもそも秘密を共有する相手もいねぇよ」

「いや、普通に口が堅いって言って下さいよ」


 しれっと罵倒された件について。いや、まぁいないことは本当なんだけどさ。

 高校二年の春の時点でろくに友達がいないとか、色々と察せれるものがある。


 いいんですー。一応SNSとかには友達とかいるから。よくリプを送る相手の名前は『リア充絶対滅殺マン』……うーん。ちょっとは自分の状況を鑑みたほうがいいな、これ。


「……ふーん」


 彼女は僕に見定めるよう視線を走らせた。

 過去、類を見ないレベルで女子の視線がぶつけられている。これは過去最高を越してるんじゃなかろうか。


「うん! オタク君なら確かに詳しそうっ!!」


 彼女は何を思ったのか、嬉そう両手を叩いた。僕に向ける視線も心なしかキラキラしてるんですけど。なにこれ。やっぱり嫌な予感がする。


 流石に視線に耐えきれず、元葉先生に視線を向けた。


「えっと、何なんですか……?」

「彼女はとある悩みを抱えていてなぁ。ちょっとお前に手伝ってもらおうと考えたわけだ」

「何でわざわざ僕なんですかね」


 悩みの内容は知らないが、僕じゃなくてもいいんじゃなかろうか。


「この件に関しちゃお前以外の適任を私は知らねぇよ。ま、泥船に乗った気分ってやつだな!」


 それ沈むんだよなぁ。


「まぁそう不満な顔をすんなよ。何せお前らにこれから行ってもらうのは例の部だからなぁ!!」


 は?


「……例の部?」


 星見は元葉先生の不明瞭な言い方に可愛く首を傾げる。

 対する僕はその言葉に凍結フリーズしていた。


「……先生、どういう事ですか」

「さぁて、どうだろうなぁ」


 相手が目上の教師にも関わらず、思わず視線が強ばった。だが元葉先生は気にする素振りすら見せず、どこか飄々としている。


 何故この教師がこの件に僕を指名したのかようやく理解した。例の部かつ僕と来たら、彼女星見星奈の悩みは一つしかない。

 何故カースト最上位の彼女がそんな悩みを抱えているのかは疑問だが今は置いておこう。とはいえ別の疑問は当然ある。


「やっぱり僕、必要あります……?」

「いや、流石の私も彼女こいつを彼処に一人で放り込むのは不安に思うだろ。お前にも分かんだろ?」


 まぁ、うん。

 元葉先生と僕が想像してい場所が同じなら、そのあんまりな言い様にも納得出来る。

 僕が言うのもあれだが、彼処の住人はまともじゃない。


「あ、あはは……アタシはこれからどこに連れてかれちゃうんだろ」


 星見は僕らの会話を聞いて、若干だが引いている。逃げるなら今のうちだぞ。ていうか逃げてくれ。


「それにな私はお前達が、特にお前が今回の依頼には最適解だと思ってんだ。いや、信じていると言ったほうが正しいか」

「……買い被り過ぎですよ」


 あんまりにも真っ直ぐな言葉に、思わず虚をつかれしまう。僕は込み上げてくる羞恥心を誤魔化すように、後頭部をかきむしることしか出来なかった。


「まぁ、大変個人的な理由なんだけどよ。どうにも彼女を放っておけなくてなぁ。後、アレ。このままだとお前の提出物に最低評価をつけるからよろしく」

「まさかの横暴!?」

「この時期に主要科目で内申点下がると色々大変だかんな。無事卒業したいなら分かってんだろ?」


 元葉先生は邪悪と言っても過言ではない笑みを浮かべた。もはや暴走族のソレだ。

 き、鬼畜にほどがある……それが教師のやることかよ。

 良い話かなって思ったら、まさかの脅しだった。なんだこの鬼畜教師。そんなんだから結婚できないだぞ。


「……おい。なんか失礼なことを考えてんだろ?」

「い、いえ。しょ、しょんなことはありません……」


 怖いよ。あと怖い。

 あまりにも怖すぎて噛んじゃったよ。


「つーわけで。とっとと行ってこいや」


 元葉先生は話しはここまでだと言わんばかりに、強制的に会話を終了させる。

 そして、僕と星見は問答無用で職員室から放り出されてしまうのだった。

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