第2話 何故だか職員室に呼びだれた件について


「なぁ、明星よぉ。この糞の掃き溜めみたいなポエムはなんだよ、おい」


 社会教師の元葉キャルは額に青筋を立てながら自席を軽く叩いた。

 現在、僕は何の因果か高校生それも第二学年にもなるのに職員室に呼び出されていた。本来優等生であるはずの僕は縁もゆかりもない場所のはずだが、何かの間違いか呼び出されていた。なんでだろね。


「ポエム言わないで下さい。あ、あれです。僕はこの世の真実をですね……」


 相対する教師は、机の上に置いてある一枚の紙ペラを今にも引き裂きそうな勢いだ。

 悲しいことにそれの名前欄にはハッキリと「明星影人」と僕の名前が刻まれている件について。やべぇ。

 元葉先生は今にも暴れだしそうな自分を抑えるようにふーっと一息ついた。


「私は『現代社会の文化について』というテーマの作文を出したはずだよなぁ。それがなんでこうなるんだよ、おい」

「い、いやですねぇ。オタク文化の変動だって立派な社会文化なわけでして。一概に否定するのは如何なものかと……」


 僕は誰もが目をそらしている事実を白日の元に晒しただけであり、なんら非難される謂れはないはずだ。あれですか、教育機関特有の隠蔽ってやつですか。


「仮にそうだとしてもなんで最終的に犯行声明になってんだよ。おかしいだろ」


 言われてみれば確かに。ぐぅの音も出ないや。


「まぁ、その若気の至りといいますか。かわいさ余って殺意千倍といいますかね」


 だってアイツら表面上優しいだけだし。

 なんだったら、ちょっとでも馴れ馴れしく話しかけようものなら「は? ちょーしのんなし」と世紀末覇者レベルの覇気を飛ばしてくるわけで。

 つまり、彼女らは周囲の異性(イケメン)に自分は誰にでも優しい人間だとアピールしているだけなのだ。結局はあーだこーだ言われたところで彼女らの青春の盛りのダシに使われているだけでしかない。なにそれ殺意の波動に目覚めそう。


「お前はそう言うがなぁ……案外、ギャルも悪くないもんなんだぞ」

「はぁ……」


 そんなこと言われましても。


「だいたいおかしいんだよ。ギャルは苦手だとか言うから、こっちはおしとやかにしたのになんだ、コラ。最近はオタクに優しいギャルとか言い出しやがってっ!!」


 この先生、まさかの元ギャルかつ元ヤンだったのか。見た目は黒髪ロングの残念清楚だから予想外だ。ちなみに元ヤンであることは本人は隠しているつもりらしいが、その口調のせいで周囲からはモロバレだったりする。


「しかし、お前は本当に腐った魚の目をしてるよな」

「そんなこと言われましても。文句はこの現代社会に言ってくださいよ」


 ほら現代社会って僕みたいなボッチオタクにほんと厳しいと思うの。自由恋愛がスタンダードになったせいか、女子とかに見向きもされないし。昔は良かったなぁ。お見合いとかで結婚できたらしいし。


「社会のせいにするんじゃねぇ。まったく、あぁ言えばこう言いやがって。お前は本当にひねくれてんな」

「そうですかね。目を背けて自己弁護するよりはましだと思いますけど」


 基本的にこの世は欺瞞で溢れている。金だけが全てじゃないというが、金で解決できることは大いに多い。顔が全てじゃないというが、容姿に左右されないことのほうが珍しい。

 結局、世の中なんてそんなものだ。厳しい現実から目を背けて当たり障りの良い欺瞞に縋る。でも僕はそんなの御免だ。


「……」


 元葉先生は僕の顔を見て目一杯の深い溜め息を吐いた後、思案するように腕を組む。そして何か思いついたのか勢いよく顔を上げた。


「時にお前、ウェブ小説は読んでんのか?」

「え、はぁ。そりゃ人並みには読みますけど……」


 嘘だ。本当は滅茶苦茶読む。なんだったら最近は授業中もこっそり読んでる時があり、成績が低下し始めているまである。

 僕の哀愁漂う成績事情はさておき、なんで急にそんなことを聞いたんだろうか。何かとても嫌な予感がする。


「お前、今暇だよな?」

「いえ、今日は滅茶苦茶忙しいです。えぇ本当に残念なぐらい滅茶苦茶忙しいです」


 かー! 残念だ! 今日がおねロリキメ◯ク帝王先生作品の更新日じゃなきゃ暇だったのになー! かー!


「よぉし! やっぱり暇だったかぁ!」


 いや、話を聞けよ。忙しいっつてんだろ。


「よし! 星見、ちょっとこっちに来やがれ!」

「あ、はい」


 突如、呼び出された少女を見て我が目を疑った。

 何せこの学校で彼女を知らない人間はいない。人の目を引くその風貌や容姿はもちろん、彼女はこの学校で全学年を含めてのカースト最上位存在。

 そして僕の目下の天敵、オタクに優しいギャルでもあった。



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