第二章 推し様と思いがけない急接近!?⑪
「駄目だよ、エリ。先週も言っただろう?
「見ず知らずの男と二人きりにできるか。これも治安を守るための立派な防犯活動だ」
歩き出した私を両側から
「いい加減、わたしを不審者
「フードを
「う……っ」
ジェイスさんの言葉に、私も言葉に
「いや、エリは別だぞ!? その格好はまじない師の制服みたいなもんだろうし……」
「きみはもう少し考えてから口を開いたほうがいいのではないかい? こんな
「何だと!?」
食ってかかろうとしたジェイスさんに、レイ様がぴしゃりと告げる。
「最近、もめ事が
今度はジェイスさんが言葉に詰まる番だった。もやり、とジェイスさんの
「あ、あのっ。私なんかじゃお役に立てないかもしれませんけど……。私にもできることは何かないですか? あ、そうだ! もめていた人の相談に乗ったりとか……」
「駄目だ!」
「すまん……」
しまったと言いたげに顔をしかめたジェイスさんが、頭の後ろに手をやってがしがしと
「……ここだけの内密の話だけどな。最近、もめ事が多いのは、どうやら
「邪教徒が……!?」
思わず
邪教徒とは、かつて人の世に争いと混乱を巻き起こした邪神ディアブルガを
「邪教徒が
独り言のようにレイ様がこぼす。
「邪神復活、ですか……?」
不穏なものを感じずにはいられない単語に、フードで
「邪神の力の源となるのは、
澱みとは、私の目には黒い靄として見える負の感情に違いない。あんなものを集めて、邪神を復活させようと
と、心を読んだかのように、フード
「そんなに
「そうだよ、エリ。きみの
さっとジェイスさんの手を頭の上からどけたレイ様が、私の片手を
「もちろん、もし何かあったとしても、きみのことはわたしが守るけれどね」
「っ!」
心臓がぱくんと
お願いだからレイシェルト様そっくりの美声で、そんなことを不意打ちで言うのはやめてほしい。いくらレイシェルト様とはほとんどお言葉を
そんなの、レイシェルト様にもレイ様にも失礼よ。心頭
「エリ? どうしたんだい?」
「お前が
ジェイスさんがレイ様が握っていた私の手をもぎ取る。
いえあの、二人とも身を寄せ合ってくると、間の私は
と、道の先から何やら
「くそっ、またもめ事か……」
ジェイスさんが私の手を握ったまま舌打ちする。
「ほら。警備隊長、仕事だ。エリのことはわたしに任せて、職務に
ジェイスさんが目を
「いいか!? 俺は行かなきゃなんねぇが、不安なら待っててくれていいんだぞ?」
「待つ必要なんてないよ。エリはわたしが責任を持って送り届けよう」
私が答えるより早く、レイ様が力強い声で
いえあの、流れで
「お前には言ってねぇ! むしろ、お前が一番危険人物なんだよ! いいか、絶対に油断するなよ? もし何かあったら大声で
心配そうなジェイスさんの不安を少しでも取り除こうと、こくりと頷く。
「私なら
道の向こうから聞こえてくる声はどんどん大きくなってきている。
「おう、大丈夫だ。いいか!? ほんと気をつけろよ!」
フード越しに頭をひと撫でしたジェイスさんが、身を
「彼は強い。毎年行われる神前試合でも、優勝候補のひとりだからね。そうそう
王家が勇者の子孫であり、
伝説によると、最後の戦いで大聖女は命と引き
なお、邪神の魂を封じた大聖女の遺体は、何百年も
神前試合は大勢の貴族達が観戦するので、私もレイシェルト様やジェイスさんの勇姿は何度も見たことがある。去年は準々決勝で二人が戦うことになって、会場中の貴婦人達や
結果は、ジェイスさんが接戦を制して勝利を収めたんだけど……。
戦いの後、
「エリ? どうかしたのかい?」
レイ様にいぶかしげに問われ、はっと
「そ、そうですか。でしたら安心ですね」
神前試合の観客はほとんどが貴族で、
「まあ、次は負ける気はないけれどね」
低い声で何やら呟いたレイ様が、不意に私の手を取る。
「さあ、ジェイスに心配をかけないように、わたしに送らせてくれるかい? というか、いつもこんなに遅い時間に帰っているのかい? 心配だよ」
騒ぎを
「あ、ありがとうございます。けど、いつもは警備隊の皆さんが巡回してくれていますし、騒ぎに遭うこともありませんでしたから……」
公爵家まで送ってもらうわけにはいかない。うまく断らないといけない、のに。
「やっと二人きりになれたね。きみと、もっと話したいと思っていたんだ」
お、落ち着け私……っ! レイ様はレイシェルト様じゃないんだから! ちょっとお声がそっくりで、フードをかぶっていてさえイケメンオーラがあふれてて、つないだ手があたたかくて
レイシェルト様以外にときめくなんて、オタク失格──。
「エリは……」
「はわっ!?」
どきどきが止まらない
「な、なんですか……?」
「その……。
「っ!?」
ためらいがちに問われた
考えるまでもなく
やっぱり私にとって、心に決めた
「誰だい!? 幸運
飛び出しそうな心臓をマントの上から押さえると、レイ様に
ち、近いっ! お
「こ、婚約者っ!? そんな方いませんよっ!」
ぶんぶんとかぶりを
「だが、先ほどの反応……。誰か、きみの心に
だとすれば許さないと言いたげにレイ様の手に力がこもる。
「へ? どうしてジェイスさんの名前が出てくるんです? そ、その、推……えっと、
きょとんと首をかしげ、視線を
あの、やっぱりこの
「憧れの人? その者の名前を聞いても……。いや、ぜひとも誰か教えてくれないか?」
「レ、レイシェルト
憧れっていうより、正確には推し様なんですがっ!
「レイ、シェルト……?」
レイ様が
「そんな、まさか……。信じられない……」
「
勢いのまま言い切ってから、はっと我に返る。
し、しまったぁ……っ! 推し様への
鼻息も
「ありがとう……っ」
不意に、ぎゅっと
「きみにそう言ってもらえるなんて……! 嬉しくてたまらないよ」
「えっ? えぇっ!? あ、あのっ、放し──」
びゅぅっ、と強い夜風が
「あ……っ」
あわててフードを押さえようとするも、抱きしめられていてかなわない。
それは、私を抱きしめるレイ様も同じで──。
ぱさり、と風にあおられたフードがめくれる。路地に差し込む
……え? なんでレイシェルト様が私の目の前にいらっしゃるの……?
「ありがとう、エリ。嬉しいよ」
レイシェルト様がとろけるような笑みを
待って。この笑顔、尊すぎる。今すぐ心のカメラのシャッターを一万回くらいきって永久保存したい……っ!
っていうか、ほんとにレイシェルト様が目の前にいらっしゃる? 私、あろうことか推し様ご本人を前に、そうと知らずに熱く推し語りしちゃった……っ!?
無理。待って。ちょっと無理……っ!
「エリ?」
ぎゅっと抱きしめられたまま、砂糖
私は、
◇ ◇ ◇
続きは本編でお楽しみください。
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