第二章 推し様と思いがけない急接近!?⑩
「誰だお前は?」
ジェイスさんがいぶかしげに
「彼女に以前、相談に乗ってもらった者だ。それより、彼女から手を
息も乱さず駆けてきた青年が、私の頭の上にのったジェイスさんの手首を掴む。
「はぁ? 別に嫌がることなんざしてねぇよ。っていうか、客じゃないなら邪魔するな」
「なぜ客ではないとわかる?」
青年の低い声に、はんっ、と小馬鹿にしたようにジェイスさんが鼻を鳴らす。
「決まってるだろ? こいつは
ぐっと青年が
「あの、二人とも私の頭の上から手をどけてくれませんか!? 重いんですけれど!」
私の声に、
「あの、どうかなさったんですか? また
青年の
「いや、悩みというより、きみが無事に帰れたのかと、心配で仕方がなかったんだ。先週は、結局送ることができなかったからね。あの後、何事もなく帰れたかい?」
言葉と同時に、
「おいっ!? お前こそ何してやがる!?」
ジェイスさんが青年の手を引きはがそうと掴みかかる。
「エリに手を出すんじゃねぇよっ!」
「エリ……。きみの名前はエリというのかい?」
引きはがそうとするジェイスさんを
「
「あ、ありがとうございます……っ」
瞬間、顔がぼんっと熱くなる。
レイシェルト様そっくりの美声で、前世の名前を呼ばれるなんて……。み、耳と脳が
「あ、あの、私もお名前をうかがっても……?」
今だ! チャンスは今しかないっ! おずおずと問うた私の質問に、青年が一瞬、ためらうように口を引き結ぶ。と。
「レイと……。そう呼んでくれると
レイだなんて……っ! 前世の推しの
「おいレイ! いい加減、エリから手を離せ!」
レイ様の腕を
「というか、きみにまで名を呼ぶことを許してはいないが。警備隊の見回り中なんだろう? 最近、もめ事が
ジェイスさんに顔を向けたレイ様が、冷ややかな
「何でそんなことを知っている? というか、顔を
「不審者とは失礼
「いきなり手を
額に青筋を立てそうな勢いでジェイスさんが叫ぶ。その肩にはさっきまでなかった黒い靄が
「や、やめてください、二人とも! 会ったばかりなのに、
知っている人達が目の前で喧嘩をするところなんて見たくない。なんとか止めないと、と声を
「す、すまない」
「す、すまねぇ」
しゅん、と二人そろって肩を落とす様子は、叱られた大型犬みたいだ。二人が落ち着いてくれてほっとする。
「きっと二人とも
ジェイスさんに向き直る。
「目を閉じて、ジェイスさんの大切な人のことを心に思い
手を
「あなたとあなたの大切な人達に幸せが来ますように……」
いつもお仕事お疲れ様です、という気持ちを込めて黒い靄を祓う。
「どう、ですか……?」
目を開けたジェイスさんにおずおずと問うと、ジェイスさんがなぜかうっすらと
「お、おう……。おまじないをしてるのは何度も見たことがあったが……。実際にやってもらうのは格別だな」
「エリ。わたしにもしてもらえるかい?」
レイ様が身を乗り出すようにして片手を差し出す。
「あ、はい。でも手は……」
「前にしてくれた時は手を握ってくれただろう? そのほうが、よく効く気がするんだ」
「じゃあ……」
別に手を握っても握らなくても、祓うのに変わりはないけれど、レイ様が効く気がするというのなら、かまわない。
差し出された手にそっと指先を重ねると、包み込むようにぎゅっと握られた。
「目を閉じて、大切な方のことを思い描いてくださいね」
ジェイスさんと同じように、レイ様の肩の黒い靄も祓う。
「どうでしょうか……?」
「ありがとう。とてもいい気分だ」
にこやかに
「っ!?」
「おま……っ! てめぇっ! いい度胸だなっ! 成敗してやる!」
ジェイスさんが
「ジェイスさん!? どうしたんですか!?」
さっき、確かに靄を祓ったはずなのに!
レイ様の手をほどいてジェイスさんへ一歩
「ひゃっ!?」
よろめいた
「何の
ジェイスさんと私の間に腕を差し入れたレイ様が、私を引きはがそうと後ろから抱きしめる。
えっ!? ちょっと何これ!? 私いつの間にサンドウィッチの具になったの!?
「は? お前こそ放せよ。割って入ってくるんじゃねぇ」
「というか、二人とも放してくださいよっ! いったいどうしちゃったんですか!?」
私の声に二人ともやけにゆっくりと
「二人とも、お店の前で喧嘩だなんて、ご
「きみが、そう言うのなら……」
「おう……。努力は、する」
二人ともやけに不満そうだ。まあ、年下の
「じゃあ、私はそろそろ帰るので……」
「「送っていこう!」」
二人の声が見事にハモる。
「ジェイス、きみはいい加減、職務に
「はぁっ!? 身元も知れねぇお前に送らせられるワケがないだろ!? 見回りなら送りながらでもできる。エリだって、俺のほうが安心だろ?」
「えっ、いえ……。私はひとりで帰るので……」
「「ひとりでなんて
またもや二人の声がハモる。
何この一体感。さっきは相性が悪そうって思ったけど……。実はこの二人、
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