第2話 桃色アルバイト

 太陽が地平線の彼方に隠れ、月が昇り、スラム近くの路地裏は、桃色の光で照らされ始める頃、自分が指名手配されたことを知らぬフラムは自室でいびきをかいてスヤスヤ眠っていた。


「ぐおー……ぐあー…………すピー……や、やめろ‼ 俺はカブトムシだけは大嫌い……夢か」


 悪夢から目を覚まし、目をこすりながら自室のベッドで目を覚ましたフラムはふと外を眺めた。

 

 満月、というほど丸くない。少しだけ満ち欠けした状態の俗にいう、十三夜月と呼ばれるような中途半端な月をフラムはそのぼーっとした頭で眺めていた。


「ふぁぁ……んー、ふぁぁぁぁぁ……」


 わぁ、暗いなぁ……夜かぁ……夜、夜……


「あ、やべっ。もう夜じゃねえか⁉」


 ◇◇◇


 夜、それは俺にとってのもう一つの仕事の時間だ。

 パトリシアには言ってない、というか言ったら絶対に止められる仕事。


 カチャリ……


「戸締り良し。そんじゃまあ、行きますかね」


 そう言って俺はポケットに鍵を仕舞うと夜の歓楽街へと歩いていく。

 ピンクのネオンっぽい光に照らされ、見るのもはばかられるような格好で客引きをしている女、女……女?おかまの横を通り過ぎていった 

俺は、一軒の店にの裏口から入って行った。


 裏口から入ると、そこは嬢たちの準備室だ。

 出勤してきたばかりの子たちが、お着替えや化粧をして身なりを整えている。


 見慣れた光景であるが、やっぱり皆エッチで、可愛くて……眼福だ。

 まさに目の幸せというべきかなんというべきか。


「まったく、何時もながら人のことあんまりじろじろ見るものじゃないわよ」


 そんなことを考えて下心丸出しの視線を皆に向けている俺に声をかけてくる人物がいた。


 紫色のちょちょのような刺繍があしらわれたピチピチのドレスを着て、毛皮のフードを羽織った、青白い髭を生やした筋骨隆々な”漢”。


 そんな”漢”を目の前に、俺はニカッと笑って答えた。


「仕方ねえだろ、俺も男なんだから」


 そう言うと”漢”は呆れたような眼を俺に向けた。

 

 こいつの名前はティフェリア・アンドリュー、この店のオーナーであり、見ての通りの男であり、おかまである。

 好きな物はフルーツと細身の思わず母性をくすぐられる可愛らしい男性。

 尚、俺に関しては可愛らしすぎて逆に性的対象外だと、初対面でそう言われた。すっげぇ安心した。


「そうね、貴方も年頃の男の子……異性に興味を持つのは、正常な反応よね。まあ、性欲以外は年頃の男の子というより、女の子……だけど」

「……うっせぇ」


 そう言って、ティフェリアは俺を見てニコニコと笑いながらそう言った。


 ……こいつとは俺がこのスラムに来た時からの付き合いだ。なんつーか、母親目線って奴で俺の事見てる節があるんだろうなって薄々は感じてはいる。


 漢だが俺にとっては義理の母親みたいなもんだ。


「……さて、それにしても時間ギリギリ……というか遅刻よ、早く準備してきなさい」

「ははっ、了解~」

「あ、今日はメイドでご奉仕の日だから、メイド服着て出るのよ」

 

 ティフェリアにそう言われ、俺はニッと笑って自分のロッカーへと向かう。

 この店では定期的に、コスプレイベント? のようなイベントが開催されることがある。前はバニーガールとか、ビキニアーマーの女戦士なんかもあったが……今日はメイド服ってことらしいな。


「……しかし、少し丈が短すぎやしねーか?」


 ロッカーから取り出したメイド服を手に取り、ぼやいた。

 上は服というか、ビキニレベルの布しかない。

 下は、ミニスカートでパンツが見えそうで見えないくらいの長さしかない。


 まさに、エロ目的に作られた服としか言いようがない程の露出度の服を持ち、俺は少しジト目を向けたが『まあいつもの事か』と思い、苦笑いをした。


「さて、そんじゃ……”フラム”から超絶美少女”フレア”ちゃんになりますかね」


 そう言って気合いを入れた俺は、ニッと笑って着替えを始める。

 

 フレアというのは、俺の嬢としての名前だ。

 

 上を着替え、スカートを履き替え、靴下、手袋諸々を付けた俺は鏡に映る自分を見て、自信満々に大きく頷いた。


「完璧だな」


 金髪、赤目、貴社な手足に白く細いくびれ。

 肩は細く、どっからどう見たって女の子。


「相変わらず、貴方女の子よね」

「ひゃっ……って、ティフェリアかよ。びっくりさせんな」


 いきなり野太い声で声をかけられた俺は、思わず小さく悲鳴を上げてしまった。


「ふふ、『ひゃっ……』って、可愛らしいわぁ。まあ私の、好みには残念ながら入ってないわけだけど……」

「こっちからすればお前の好みに入ってなくて朗報……」

「ん? なんか言った?」

「……何でもねえ」


 なんか今ゾワッとした気がするが、気のせいだろ。うん。

 

「ティフェリアさーん、フレアちゃんまだかってお客さんがー!」

「あー分かったわー、もうフレアちゃん入るから……それじゃ、フレアちゃんお仕事……お願いね?」

「はいはい、了解」


 そう言って、呼ばれた俺は肩をすくめつつ表に繋がる扉に歩いていき……


「フレアちゃん、入ります」


 そう言ってティフェリアに軽くウインクをして俺は扉を開けたのだった。

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ラスボス越えの爆炎魔術師~モブ転生した俺は、推しと添い遂げる為に『主役』と『黒幕』を越えることにした~ 青薔薇の魔女 @aomazyosama

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