エピローグ後編 白河さんから水野さんへ
「おかえりなさい!」
家に帰るとすぐに
「ただいま」
俺は
朝と夜のこれは完全に日課になってしまっていた。
「えへへ、今日もお疲れ様です!
「情報早くない?」
「お昼に本人から直接メッセージ届きました」
可愛らしい絵文字がいっぱい付いている。
「今度お祝いしないとですね!」
「うん、部門でも何かやりたいなぁって思ってる」
「私も個人的に何かしたいです!」
空のお弁当箱をキッチンの洗い物のところに置いた。
「今日もありがとう、美味しかったよ」
「いえいえー。値下げの大根どうでした?」
「煮つけになってて美味しかったよ。値下げって言わなきゃ分かんなかったと思う」
「やった!」
料理に関しては本当に凝るようになってしまい、もうお店でも開けるんじゃないかってくらいのクオリティになっている。
値下げで買ってきた商品をどこまで美味しくできるかを追求しているらしい。
「あれれ、もしかしてお悩み事ありますか?」
「分かるの?」
「なんたって
「うーん……」
本当はもうちょっと自分一人で考えたかったんだけどな。
……というか俺の中ではほとんど答えは決まってしまっているんだけど。
「
「あるにはありますが……」
「えっ? なに? 教えてよ」
「料理が好きなのが分かったので調理師さんもいいかなぁと。あっ、でも保育士さんにも興味が! 他にも色々!」
「いいじゃん、いいじゃん。スーパーの社員とか言ったらどうしようかと思った」
「もちろんそれは選択肢としてはありますが!」
「あるの!?」
大学ってそういうものを探す場所でもあるらしい。
そこは思う存分悩んで欲しいし、自分の納得できる職業についてほしいと思っている。
「で、誤魔化しましたよね! 何かあったんですか!?」
「うっ」
見抜かれた。
ちょっとずつ……本当にちょっとずつだが
「いや、俺にも昇進の話があってさ……」
「
「うん、三つ選択肢があってさ。店長コースか、バイヤ―コース、それとも現場に残るエリアチーフかって話みたい」
「エリアチーフ?」
「地域全体のチーフみたいなやつ」
「すごい!」
「
「私ですか?」
「うん、二人のこれからの人生に関わることかもしれないから」
「うーん……?」
「
……が、あまり間を置かないで
「プロポーズしてくれた日のこと覚えてますか?」
「そりゃ、もちろん」
「私、ちょっとだけ考えることがありました」
「考えること?」
「
「……仕事を好きになる人間は中々いないと思うよ」
「でも私はそんな
「今の私はスーパー店員の
「そっか」
急に気恥ずかしくなり目線をそらしてしまった。
「まぁ、実は決まっているんだけどね」
「エリアチーフでしょう? 知ってます」
「なんで分かるのさ!」
「
「
エリアチーフ。
俺が尊敬していた人がついていた役職。
俺もその役職になって仕事をしてみたい。
みんなとまだまだ仕事をしたい。
みんながおじいちゃん・おばあちゃんになっても一緒に何かをやっていたい。
「けど、
「分かってるよ、ありがとう」
結局、
「思えば白河さんが値下げをミスってから色々変わったなぁ」
「それはもう言わないでくださいっ!」
「ううん、あのとき
「チーフが値下げを間違えて良かったって言っていいんですか!?」
「ダメ」
「さて、そろそろご飯にしましょう!」
「うん」
「あっ! でも――」
そして
働いていれば、みんながみんなそれぞれの特別なドラマを持っているのだと思う。
俺は現場に残ってそんなみんなのことを応援したいと思っている。
――それが最後までできれば。
いつか師匠に勝ったと言える日が来るんじゃないかなぁ。
隣にこの子がいてくれれば、それができるような気がしている。
「私、今度は赤いシールじゃなくて白いベールが欲しいです!」
「分かってるよ。だって、
「はいっ!」
自分で言っておいて照れくさくなってしまった。
俺の顔は、きっとあの日の値下げシールみたいに真っ赤になっていたと思う。
スーパー店員の白河さんは値下げシールをよく間違える
~FIN~
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おわりに
ここまでこの作品をお読みいただき本当にありがとうございました。
たくさんの応援をいただき、なんとかここまで書き切ることができました。
そして皆様のおかげで何よりも私がこの作品を楽しんで書くことができました!
白河さんという女の子を通して一人の青年がお仕事に前向きになる話でした。
誰かに優しくなれるような、そんな作品になれれば幸いです。
この作品にお付き合いいただき本当の本当にありがとうございました!
スーパー店員の白河さんは値下げシールをよく間違える 丸焦ししゃも @sisyamoA
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