エピローグ前編 その後の鮮魚部門
エピローグ
それから少し時が過ぎて一月下旬――。
休憩室のホワイトボードに人事異動の紙が貼りだされた。
“
お店自体は今と一緒なので、しばらく
「
「おめでとう。多分、最速じゃない?」
有言実行の女、
仕事の飲み込みも素晴らしかったが、やはり評価されたのはその性格だと思う。
気が利いて、明るくて、とても前向き。
そして助けてあげたくなるようなキャラクター。
それが
「あれれー? チーフ、涙ぐんでますか?」
「うるさいなぁ」
「でも、そうですよね。私も寂しいけど嬉しいです」
そしてもう一人、昇進が決まった人がいた。
“
女性では珍しい鮮魚チーフの誕生だ!
「
その
「あ、あははは~、
「年数は関係ないです! 本当に頑張ってくれたと思います!」
二人が評価された最大の理由。
それは間違いなくリニューアル店舗を軌道にのせたことだろう。
当初の一・二ヶ月は厳しい状態が続いていたが、近くに住むお客さんたちはうちに戻ってきてくれた。
リニューアル前よりも客単価は高くなり前よりも良い数字を残すことができている。
きっと継続して良い売り場を作っていたのが分かってくれたのだと思う。
そしてその良い売り場を作れたのは間違いなく部門のみんなのおかげだ。
「本当に
「そんなことないですよ! チーフのおかげで私も頑張れました!」
「いやいや! 頑張ったのは
自分の昇進よりもはるかに嬉しい。
誰かの昇進でこんなに晴れやかな気持ちになるのは初めてだ。
「しかし
「こらこらー! 優秀なサブチーフがここにいるじゃないですか!」
「優秀……?」
ほんのり目には涙が浮かんでいた。
これから
チーフに昇進……これはつまりお別れをしないといけないという意味でもあった。
「ここから近くのお店ですね。困ったことがあったら何でも相談してください」
「はい! そのときは頼りにさせてもらいます」
人事異動の紙を見てこんなになってるっての俺たちだけじゃないかなぁ。
「
「あ、ありがとうございます!」
「発注ミスったらこっちに相談してください。余ったやつは全部
伝票移動の話は……今どきじゃないもんな。
そもそも真面目な
「これからもチーム
「なんですかそれ?」
「
「うっ」
その聞き方はズルい。
そんな風に言われたらダメだって言えないじゃん。
「ま、まぁ……」
「あっ、照れてる」
「
「でも、
「
「えへへへ、私たちでチーム
「恥ずかしいからやめて!」
二人につい大きな声をだしてしまった。
「よしっ! じゃあ
「その宴会部長もお祝いされる側にいるのですが」
お祝いって他に何ができるかなぁ。
何か個人的な贈り物でもしてあげたいな。
「あの……
「どうしました?」
「個人的に言っておきたいことがありまして……」
なんだろう?
「私、
「いいなぁ?」
「そ、それだけです!」
そう言って、
「……」
「……
「知りません」
「気になるなぁ。
「気にしちゃダメでしょう!
……あえて知らないフリをした。
実は結構前から、
でも知らないフリをした。
「
「あれ?
ふと
※※※
「とりあえずお店から二人の昇進おめでとうかな?」
「あははは、それは俺ではなく二人に言ってあげてください」
つい嬉しさで笑みがこぼれてしまう。
バイヤーに改めて言われるととても嬉しいな。
「今日はどうしたんですか?」
「うん、
「俺? 何かありました?」
なんだろ? バイヤーと話さないといけないことなんてなかったはずだけどなぁ。
しかもかなり形式ばった言い方をしている。
「本部はね、今回のリニューアルのこととても評価しているよ」
「ありがとうございます」
「つらい状況の中、よく数字を持ち直してくれたって。だからね、
「……はい?」
びっくりしすぎて変な声が出た。
エリアチーフ……店のみならず地域全体の鮮魚部門の数字を見ないといけない役職。
もっと熟練の人がやっているイメージがあった。少なくても二十代でその役職についた人を俺は知らない。
「それでね、
「意向?」
「チーフの上となるとね、店長・副店長か俺みたいなバイヤー、そして現場に残るエリアチーフって選択肢があるんだけど
「えっ……?」
「あっ! もちろん、ゆっくり考えていいよ! すぐにはの話ではないから! 多分、次の人事異動かな? それくらい本部は
「あ、ありがとうございます」
俺にも新しい選択肢がやってきた。
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