第11話 戦いはこれから?

 わたしがクロイツ家当主から受けた仕事は、令嬢クレア様を嫁ぎ先のウィザルタル市まで護衛すること。そしてもう一つ、ウィザルタル市に醜聞があれば全て報告すること。

 それが嫁ぐ娘を心配する親心などではなく、外戚を利用した都市の乗っ取り計画なのはわかりきっていた。わたしにとっては興味のないこと。

 だから、さっさとウィザルタル市を後にして、クロイツ家に報告を済ませて仕事を終わりにするつもりだったのだが・・・。

 わたしたち3人は、ウィザルタル市を後にして王都に繋がる街道を歩いていた。

 少女はイリヤの左手を握って歩き、わたしは少女の左側を少し離れて歩いている。


「怒ってる?」

 わたしはイリヤに訊いた。

 バーダルの軍隊が、ウィザルタル市に侵入したことで町は悲惨な状況になった。バーダル兵は、イリヤが見つけた抜け道を通って町に侵入。奇襲だった。

 混乱したウィザルタル兵たちは、なんと守るべきはずのウィザルタル市の住民を襲い略奪し始めた。

 統制の取れていない軍隊の兵は、戦争を略奪のチャンスとしか考えない。ウィザルタル兵のレベルの低さは、さすがに想像を超えていた。

 それに少女の前で人を殺しすぎたかも知れない。正義感の強いイリヤはどう感じたんだろう?

「いえ、感謝してます。この娘を守ってくれて」

 イリヤは穏やかに笑っている。

「僕は聖人君子じゃあないですよ。もし、この娘と1000人の命・・・どちらかを選べと言われたら・・・迷わず、この娘を選びます」

 ふーん、そう言う正義感だったのか?

 見損なってたのか、見直すべきか・・・少し複雑な気持ちになった。


「ねえ、ねえ。あの剣、わたしに頂戴よ」

 わたしなら、あの剣をもっと上手に使いこなせる気がする。

「駄目です。この剣は、この娘の素性を捜す唯一の手がかりなんですから」

 にべもなくイリヤは拒否する。

 あの剣は、イリヤのフードの下で、腰に吊り下げられている。

「故郷にあれと同じ剣があったんだ。わたしの故郷へ行けば、この娘の手がかりあるかも知れないからさ。わたしがこの娘を引き取って故郷へ連れてくよ」

 悪くない提案だと思った。王都へ行くより少女の素性を探れる可能性は高いと思う。

「そうすれば、イリヤだって故郷に帰れるじゃん?年下のお義母様に、もうすぐ弟か妹が生まれるんだから帰った方がいいよ」

 少女の後ろから腕を回して抱き寄せようとしたら、ピシャンと掌を叩かれた。口元を尖らせた少女は、わたしの腕を振り払ってイリヤにべったり寄り添った。

「じゃあさー」

 いつの間にか少女も言葉がわかるようになったんだろうか?

「イリヤが、わたしの婿になるんだ。それでこの娘を養女にしてさ、3人でわたしの故郷へ帰ろうよ」

「僕みたいに、生っ白いのは相手にしないんでしょう」

 ちぃ、憶えてたか。

「女戦士の一族の長になれるんだよ?ハーレムだからさー」

 イリヤは、わたしの方をチラリとも見ない。心なしか歩くのが速くなってる気がする。


 -終わり-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女戦士、放浪の薬師を拾う~聖女の神託を受けた少女はどこに?~ 星羽昴 @subaru_binarystar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ