第127話 切れぬもの無し
レンとオルビスはどんどん迷宮を進んで行く。
数多くの魔物達が立ち塞がるが全く気にすることも無く進む。
まるで軽い散歩をするようなノリで次々に討伐していく。
そして今49階層でリッチを燃え上がらせて討伐していた。
「目玉君・・・サードアイは優秀だな。製作者として自慢できる逸品だ」
「観測用ですよね」
「そうだ。しっかりと魔物の生態観測の役割を果たしてくれた」
「まるで自爆兵器のドローンと同じですよ」
「向こうの世界に自爆兵器のドローンがあるの?」
「あ〜こっちの世界に来た時にタイムラグがありましたね。僕年代では兵器として使われてますね」
「へ〜凄いね」
「いやいや、サードアイが異常ですよ。リッチが跡形もなく燃える・・いや溶けるのがおかしいでしょ。迷宮の地面まで溶けてますよ」
「形あるものはいつか壊れる。すべての世界の真理だ」
「温度がおかしいでしょ。一体どれほどの高温なんですか」
「さあ、測ったことはないな。数個一緒に使ったプラズマ放電が発生したこともあったよ」
「まさか核融合ですか・・・」
「ハハハハ・・・そんなわけないじゃん。たまたまだよ。たまたま」
「そのたまたまが一番怪しいのですが」
「そんな事よりさっさと50階層に行こうぜ」
オルビスはさっさと50階層への階段を降りていく。
仕方なくオルビスの後を付いて行く。
50階層への階段を降りるとオルビスが立ち止まっている。
「どうしたんですか」
オルビスの視線の先を見るとまるで城の中の玉座の間のような作り。
奥の中央の高くなったところに一際豪華な椅子があった。
そこに若い男が座っている。
「ちょっと遅かったかな」
「もしかしてグラーキの分身ですか」
その男から漂ってくる魔力ととてつもなく強力である。
そして気持ち悪くなるほど邪悪である。
普通の人間や魔力の弱いものなら卒倒して倒れるほどだ。
サードアイが高速でその男に向かって飛んでいく。
強烈な爆発と超高温が発生。
爆発の炎が収まると無傷のままの男が玉座に座っている。
「ちょうどよかった。贄が二人。しかも神の使徒。クククク・・・お前ら二人を喰らえば完全復活できる。僥倖僥倖」
「ヘェ〜、俺たちを食えるつもりかよ。お腹が空いて目が覚めたなら、その辺の魔物でも食って寝てくれ。できたらそのまま永遠に寝てくれないかね」
「よく吠える贄だ」
「オルビスさん。サードアイはどうなんです」
「奴にたどり着く前に先ほどのように撃ち落とされる。最低でも今の3倍以上の速度が必要だな」
オルビスは異空間より魔剣を取り出す。
その魔剣は赤い光を纏っている。
レンはそれを見た瞬間、オルビスの異空間屋敷で見た剣を思い出した。
赤い光を放ち魔物を呼び寄せると言われる剣。
「ちょっと、その剣はまずいでしょ」
「異空間屋敷で見たものとは違うよ。これは立派な完成品さ」
オルビスがそう言った瞬間、姿がブレたと同時に消え、一瞬でグラーキの前に移動して剣を振り下ろす。
グラーキは横に大きく飛び退いて剣を避けた。
オルビスの剣は玉座を切り裂く。
「残念。逃げずに受け止めてくれたら真っ二つに出来たんだがな」
切り裂かれた玉座に驚くグラーキ。
「貴様、魔鉄の玉座を切り裂くとは、なんだその剣は」
「こいつか。これは長年の研究の末に完成したあらゆる物を切り裂ける剣さ。こいつに切れぬもの無しさ。あまりの切れ味に鞘が作れなくてな。結果異空間が鞘になっちまった」
「そんな出鱈目な剣があるはずない」
「そうか、ならその身で証明して見せてくれ」
オルビスが高速移動を繰り返しながら切り掛かる。
グラーキも高速移動でその剣を避けていく。
「ハハハハ・・どうした。避けてばかりだぞ。悪魔の力はこの程度か」
オルビスとグラーキの攻防を見ていたレンは思わず呟く。
「これ、見た目の善悪が逆転してないか」
「レン。誰が見てもオルビスが悪党に見えるよ。どうしてかな」
水の大精霊ウィンがレンの疑問に答える。
「儂にもウィンの言った通りに見える。どうしてかの」
「ノーム。余計なことは考えない方がいいんじゃないかな。悪魔は悪魔だよ」
フェニックスのラーは何故か冷静に状況を見ていた。
徐々にグラーキに傷が増えていく。
「馬鹿な、いくら分身とはいえ一方的になぶられるとは・・貴様、その剣はただ切れるだけではないだろう。傷が治らん。何を仕掛けた」
グラーキが慌て始めた。
よく見るとグラーキが叫んだ通り、オルビスの剣による傷が消えずに残ったまま、新たな傷が増えていた。
「悪魔は悪魔らしくしていろ。肉体を手に入れて現実に出てくるなんて、俺に言わせれば馬鹿にしか見えん。殺してくれと言っているようなもんだ」
「ただ切れるだけではないだろう」
「この剣はいくつもの魔法を纏わせて使うことができる。今回あんたには特別に神聖魔法の浄化を剣に纏わせている」
「なんだと」
「つまりこの剣で受けた傷は、治らずにどんどんひどくなることになるぞ。大人しく俺様に討たれな」
「舐めるな」
地面から黒い人が湧き始めた。
「呪いビトなんて無駄だよ」
オルビスが呪いビトを剣で切るとあっという間に消滅する。
「なら、これでも喰らうがいい」
グラーキが口を大きく開けると漆黒のブレスを口から放った。
「あ、やば」
漆黒のブレスがオルビスを飲み込む。
激しい爆発が起き、その衝撃が収まるとそこには何も無かった。
「ハハハハ・・うっかり消し飛ばしてしまった。せっかくの贄を惜しいことをした。次は貴様らだ」
「そんな、オルビスさんがやられたなんて」
グラーキの手が漆黒の爪に変わっていく。
身構えるレン達。
「さあ、儂の糧・・・」
グラーキの背後から剣による突きが放たれ、背後から正面に剣が突き抜けた。
「ば・馬鹿な・・」
「油断大敵だぜ。暗殺術Lv10は伊達じゃないぜ。気配を消した俺様を見つけられる奴はいない」
オルビスの剣がグラーキの心臓と魔核を突き破った。
そして、グラーキは灰色の砂と変わり崩れ消滅したのであった。
スキル【木】と異世界転生 大寿見真鳳 @o-masa
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