エピローグ

エピローグ

 久々の月明かりが視界に沁みる。


 僕はふと振り返って、石碑を見つめる。なんだか眠っている間に一回り大きくなったような身体で石碑の裏に回り込んでみる。

 石碑には、たくさんの名前が刻み込んであった。僕の名前もある。添えられた数字は、今から五つ前の年のものだった。

 短い名前が多い中に、いくつか苗字と名前がセットになった異色を放つものもあった。


 浅田有樹 宮田咲月 小石桜子


 どうやら僕と同じ年に亡くなったらしい。聞き覚えのある名前ばかりだった。

 身体を見渡せば、眠る前と色が全然違っていた。全身が真っ黒になっているのだ。

 腕を舐めようとすれば、牙が妙に長くなっていることに気づいた。


「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ」

「ミャァァァァァァァァーッ!」


 と、低い声と猫の悲鳴があちらから聞こえた。振り返ってみると、見覚えのあるロッカールームへ繋がるドアが開いていた。

 僕は唐突に、土の中で眠る前、僕を眠らせた犯人がなぜか優しく諭され、許されるというのを目撃しているのを思い出した。

 そのことを思い出すと、体中から沸々と“ニンゲン”への憎悪が巻き起こる。

 と、開いたドアの奥から白く妖しい二つの光が伸びる。

 出てきたのは、毛が良い感じに乱れた、まるで勇者や王様のような風貌の猫だった。口には小さな猫を食らえている。

 その後ろから、また数匹の猫が付いてくる。

 ただ一つだけ、異色を放つものがあった。

 ゴロゴロと転がってくる、猫の頭部だ。

 ペロペロと、数匹の猫が僕の身体を舐めてくる。どこか懐かしくて、くすぐったかった。


「ヒさシブりィィィ」


 と、高音で、閉まりの悪いドアを思わせる混濁とした声がした。

 みんなが一斉に声の聞こえる方を向く。

 石碑の前に、真っ白くいくつか血の滲んだ個所のある装束を着ている女性が立っていた。

 その女は、首が変な方向に曲がり、口からは大量の血液、目は白濁としていて腕には全く動かない黒猫を抱えて、ウフフフフと不敵に、三日月を見上げて笑っていた。


「サぁ、ふクしュウヲはジメまシヨウ」



(完)

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イエロー・アーモンド・アイ連続殺猫事件 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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