第10話 積分<微分

 人生の折返し点を過ぎて、これまでに出会い、触れ合った女性たちとの記憶が次々と思い出されてくる。まことに不思議なことに、思い出のなかでは、現実にお付き合いした女性と一瞬の接触に過ぎないフーゾク嬢がほぼ同じ重みなのである。実際の彼女たちとは短くとも数か月、長ければ10年程の時を過ごし、その中で食事もし、旅行にもいき、いろいろ語りあい、そして何度も抱き合ったはずである。にもかかわらず、わずか1時間足らず、しかもおカネを介して触れ合った嬢たちの印象が本当の彼女たちと同程度なのである。効用逓減の法則なのか? 記憶は累積ではなく上書きされるのか? あるいは現実世界でのお付き合いはプラスの出来事とマイナスの出来事が相殺されて印象が薄まるのか?

 好きという感情は積分(年月トータル)ではなく、微分(一瞬)であるということ。カネと身体の交換という経済行為ではあるが、その瞬間には純粋に相手を好きになったということだ。世の女性たちは、カネを払って好きでもないオンナを抱いて何て野蛮な行為か。とフーゾクに通う男性たちを非難する。しかしそうではない。やっぱり、好きにならなければ抱けないし、嬉しくない、楽しくない。家柄とか学歴とか属性にとらわれる現実世界の恋愛よりも、ただただ目の前の相手を感じる瞬間恋愛の方が、もしかすると純真なのかもしれない。

 

 

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瞬間恋愛 ふーぞく探訪記 猫乃なみだ @kanete2

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