十二話 私たちの名前
私がマッドを倒してから、二日ほど経った。
マッドが倒れた途端に、崩壊をはじめた天空塔。それから逃げるのには、さゆみのプライベートジェット二号を使った。
そして現在は放課後。今日の部活では大事なことを決める。
「祭華ちゃん、その……嬉しいよ? 嬉しいんだけどね、そろそろ離してくれたら、嬉しいな〜って」
「嫌だ。私、ずっとここいるから」
そう言って、再びフォミラの胸に顔を挟み込む。
「そういうたまにすっごい甘えんぼさんになるところも、かわいいんだけどね」
フォミラは私の頭を優しく撫ではじめた。
それに何も言わずに、ただおとなしく瞳を閉じる。
あったかくて、柔らかくて、いい匂いがして、すっごい心地いい。
本当に、眠りに落ちてしまいそうになる。
「祭華、どうしてその女にばっかりくっつくの?」
けど、私は簡単に寝れるような状況にいなかった。
「邪悪な気配!」
綴とかいう嫉妬深い変態幼馴染みが、私にはいるんだった。
「よし、祭華も起きたことだし、はじめるぞ」
「そうですわね。綴さんも、席に戻ってください」
さゆみの一言で、おとなしく自分の席へと座る綴。
それを眺めて、私は黒板に目を向けた。
黒板には『チーム名を決めよう!』と大きな殴り文字で書いてある。
そう、今日の部活内容は、私たち魔法少女のチーム名を決めることなのだ。
「まずマジカルとかつけたいよな。わかりやすいし」
「先輩、マジカルという名前をつけると綴さんの技名と被ってしまいますわ」
「確かに。それはいけないな。ならアルティマはどうだ?」
「先輩、アルティマだと特撮ヒーローの最終フォームみたいな感じになってしまいますわ。わたくしたちは魔法少女で女児の憧れ。そこをしっかり配慮してください」
「……そ、そうだな。ミラクルなんてのを思いついたんだが、それはどう思う?」
「先輩、ミラクルだと小学生が考えた安易なものになってしまいますわ。もう少し知能を絞ってください」
「…………悪い。あたしはもうネタ切れだ」
さゆみの毒舌に磨きがかかったような気がするのは、私だけなのだろうか。
「他に何か案はないのですか?」
力尽きた茜先輩に代わって、さゆみが仕切りはじめる。
さすがに、あの毒舌のあとだと手を挙げる気にはならない。
そんな誰もが勇気を欲している中、一人の勇者が手を掲げた。
それは、フォミラだ。
さすがのドM。伊達じゃない。
「はい。フォミラさん」
さゆみが発言を許可する。
そして、フォミラは一呼吸置いてから、こう言い放った。
「あの、『カレイド・ガールズ!』……って言うのは、どうかな?」
「……カレイド」
「ガールズ……」
先輩と、さゆみが呟いた。
カレイド・ガールズ。
すっごいいい響きだと、そう思えた。
「リングの名前もカレイドだし、みんなカレイド・ネクサスとか、カレイド・コネクトとか、必ず最初にカレイドがつくでしょ? だから『カレイド・ガールズ!』なんだけど、安直すぎたかな?」
少し恥ずかしそうに頬を赤くして言うフォミラ。
そんな自信なさげなフォミラに、私はこう告げる。
「めちゃくちゃいい。すっごい魔法少女って感じするし、何より、私たちって感じがするから」
「ああ、あたしのさっきのトゲが全部抜けた気がするぞ」
「わたくしも、茜先輩のアイデアよりすごいかわいらしくていい名前だと思いますわ」
「わたしも、文句はない」
私に続いて、他の三人からも好評だ。
すると、こんなに褒められるとは思っていなかったのか、頬をより赤く染めて、言った。
「それなら、すっごい嬉しい」
フォミラの満面な笑み。
その笑顔に、少し心臓の鼓動が速くなっている自分に気づく。
あれ、どうして私、フォミラにドキッとしてるんだろう。
「さて、じゃああたしたちの名前は『カレイド・ガールズ!』ってことでいいな!?」
先輩の問いかけに、全員が頷いた。
こうして、私たちの名前が決まった。
これからまた魔法少女の出番が必要になるかなんて、私たちにはわからない。
だけど、もしもまた戦う時が来たら、こう名乗るんだ。
そう思うと、なんだか胸がすっごい高鳴ってくる。
私たちのチーム名……。めっちゃ興奮する!
そんな時だった。
「おい祭華! 今度は何をした!?」
「…………へ?」
私以外にも、興奮しているのが入ってきた。
「先生、職員会議で遅くなると……」
「その職員会議で、お前がやったことを聞かされたんだよ!」
さゆみの言葉を無視してぐいぐいと私に顔を近づけてくる先生。
私、何かしたっけか……。
「祭華、何したんですか?」
綴が訊ねる。
すると、先生は深く息をして、ゆっくりと口を開いた。
「お前、校長室に呼び出しだと」
「…………は?」
ただ、その一文字だけがポロッと溢れた。
「お前、いったい何したんだ?」
先生の問いかけに、呆けている私の代わりにフォミラが答えた。
「祭華ちゃん、確か火事でもないのに勝手に消化器ばら撒いてたよね」
「あ、それあたしもさゆみから聞いたな」
「あの戦いに行く前のことですね」
さゆみの天然が炸裂し、私たち三人は顔を見合わせた。
一方のさゆみは、まずったと口元を抑える。
「あの戦い……?」
やはり、先生が声を上げた。
やっばい。
魔法少女……カレイド・ガールズ! のことは先生には内緒なのに。
「いいや! 戦いって言っても下痢との戦いで……」
「そうだ! 祭華、だから道草食うなって言ったのに!」
「なんで私のせい!? はじめて慣用句以外でその言葉聞いたんだけど!?」
「祭華さん、慣用句って言葉知っていたのですね」
「わたしも驚いた」
「私そんなにバカじゃないんだけど!?」
なんでこんなに私をバカにしたがるわけ!?
感情のままに、言葉をぶつけまくる。
ぎゃーぎゃーわーわーとまるで猿みたいに。
「あ、やっべ。バカみたいに言い合ってる暇ないぞ、祭華」
「何!? 今忙しいんだけどっ……」
「校長室、行くんだろ」
「あっ」
先生のその一言で、私の勢いは殺された。
それから数分、校長に先生ともどもこっぴどく叱られた。
カレイド・ガールズ! の話なんてできるわけないし、誤魔化すのも本当に大変だった。
その疲労が、どどっと私の肩を重くする。
おかげで今すっごい猫背で歩いてる。
「なあ、祭華」
隣を歩く先生が、声をかけてきた。
「ん?」
私たち以外は誰もいない、静かで穏やかな廊下。その静けさの中、先生はゆっくりと口を開き、こう告げた。
「お前はバカだ」
「喧嘩売ってる?」
隣にいるのが先生だなんてことはいっさい忘れて、結構キレ気味の声が出る。
「そうカッカすんな。まだ続きがあるから」
私の頭をぽんぽんと撫でて、先生はこう続けた。
「お前はバカだからこそ、できることがある。バカだからこそ、勇気がある。だからな、もしもその小さな脳みそが擦り切れるくらいに悩んだり迷ったりした時は、私を頼れ。これでも先生だからな。力になることはできなくても、話を聞いて、諭してやることはできる」
私の頭を撫でる先生の手は、言葉を放つごとに優しく、柔らかくなっていく。そして顔に目を向けてみれば、先生はすごい穏やかな顔をしていた。
子を見守る母のような、そんな目。
「うん。頼ってみるよ。また何かあったら」
私は優しい先生の目を見据えて、そう答えた。
それとそんな穏やかな言葉や瞳に包まれていた罵倒を見逃さなかった。
「小さな脳みそは余計じゃない?」
「はっ! 確かに。けど本当のことだろう? お前はバカで、かわいくて、強い。成葉女学園の問題児なんだからな」
「はぁ……。問題児か」
せっかく上がってきた肩が、またがくんと落ちた。
「私は好きだぞ、問題児。だから見捨てない」
優しく撫でていたと思ったら、次は私の髪をぐしゃぐしゃにしてくる先生。
だけどなぜか嫌な感じはしなくて、私は自然と口を開いていた。
「うん。先生が見捨てないなら、私は問題児でいい」
この一ヶ月。魔法少女頑張って、普通になろうと頑張って、得たものが成葉女学園の問題児っていう最強に不名誉な称号だなんて。
ちょっとヘコむ。
でも、それが私らしい気がして、誇らしく思えたりもする。
複雑な気分。その複雑さが心地良くて、私はこのままでいいんだって、そう感じた。
フォミラや綴、茜先輩、さゆみ、先生。みんなが好きでいてくれる私のままでいよう。
私は胸を張って、先生に並んで歩きはじめた。
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カレイド・ガールズ! 山内拓斗 @hyamauchi4182
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