第21話 アイドル班の君と調理班の俺
「それじゃ、改めて! 文化祭の出し物について話し合います!」
クラス委員長、湊の声が飛ぶ。我がクラスは、クラス委員長、湊。副委員長は彩翔という完璧な布陣だった。
火花を始めたとした、チーム陽キャーズは、イベントにはノリノリだが、役は面倒くさがる。必然的に、彩翔と湊が牽引役となっている。
雑用係は下河空――、つまり俺がバックアップすることが大前提という交渉が、水面下であったことは、実は誰も知らない。
ちなみに湊が委員長な理由だけれど……。
――
言い方は辛辣だが、ごもっとも。彼女もち(彼氏もち)だというのに、二人に群がる連中が、ごく少数ながら存在する。
――ずっと憧れだったんです。
――ハーレムでどうですか?
――セフレで良いから!
理想のカップル。羨むのはわかるが、横恋慕は見苦しい。
幼馴染同士の恋だ。そこらの奴らがちょっかいを出しても、どうにかなるなんて思えない。
あと、ラブコメの読みすぎだから。ハーレムもセフレも
(ま、いっか)
こういうイベントは、チーム陽キャーズも協力的だ。俺が何かする必要もないでしょ。そう思ったら、一気に睡魔が襲ってきた。昨日、深夜までゲームを没頭したツケが今回ってきた気がする。
「ふぁ〜ぁ」
「……下河君」
囁くように、隣の本馬さんが起こそうとしてくれるが、むしろ逆効果で。余計に眠りに誘ってくれる。
――
耳元で、
――起きないと、イタズラしちゃうゾ?
うつら、うつら。こっくりこっくりするなか、一気に心拍数だけ跳ね上がる。
(マジ?)
MIKIMIKIにイタズラされるの? それ、役得すぎない? そんなことを漫然と思っていると。
――ふっ。
生暖かい風が、俺の耳をくすぐって。え? これ息を吹きかけられた?
――ちゃんと、起きないと。み、み、耳舐めちゃうゾ!
MIKIMIKIが、とんでもないことを言い出した。
いや、それは流石に!
嬉しいけど!
MIKIMIKIフォロワーに、俺、刺されない?
「やるね、美紀ティー。これで立派な痴女だね!」
「痴女じゃないもん! ただ、私は下河君が寝ないように――」
「ウチもこれは負けられないね」
「むしろ、負けて! 里野ちゃんにグイグイ行かれたら、私どうしよも無いよ!」
そんな本馬さんと矢淵さんの会話を、意味も分からず意識の内側で聞いていると――。
こつん。
頭に何かが直撃してきた。見れば、紙飛行機だった。寝ぼけ眼で、開いてみれば――。
――下河君のエッチ、スケッチ、ワンタッチ!!
そんなことが書いてあった。
(……小学生?)
振り向けば、天音さんがムスッとした顔で、あっかんべーと言わんばかりに、舌を出している。
(……俺、天音さんを怒らせるようなことをしたっけ?)
首を捻りつつ。再度、休憩タイム。俺は貴重な睡眠時間を確保しようと――。
コン。
また、頭に何かがブツかる。また、天音さんかよと、顔を上げてみれば――。
「空?」
湊さんが――いえ、湊様が腕組みをして、俺を見下ろしていた。机の上には、チョークが。なるほど……昔からチョーク投げ、上手かったもんなぁ――と感心している状況じゃなかった。
「あの、湊さん? 何か……?」
「今、何の時間か知っている?」
「えっと、ホームルームで。文化祭の、出し物を検討して……」
「そうそう」
ニコニコ、湊は微笑む。怖い、怖い。満面の笑顔の湊に、俺は恐怖しか感じなかった。
「私と
「いちゃこら?」
俺は首を傾げる。どこに、そんな要素があった?
「じゃあ、空からお願いね?」
「はい?」
「文化祭の出し物! その意見出し! 文化祭実行委員として、まずは空から意見をお願いね?」
実行委員?
それって、クラス委員――つまり、湊と彩翔の兼務だったよね?
「え? 空はイチャイチャして、お昼寝して。みんなが意見を出してくれているのに、自分だけ無関係みたいなこと、まさか言わないよね? ねぇ、そんなこと言わないよね?」
あ、これガチ切れしているヤツだ。
思わず彩翔を見れば、即座に目を逸らされた。黒板を見ると、収拾がつかない案の数々に、湊がご立腹ということらしい。
(でも、それ八つ当たりじゃない?)
そんなことを思っていると、また湊からチョークが飛んできた。
■■■
黒板に書かれていた案を一部、抜粋してみる。
・アイドル喫茶(発案者、火花煌)
アイドルに会えるカフェ。幸い、このクラスにはイケメンと、アイドル級の美少女が揃っている。軽食を食べていると、突然始まる文化祭限定ライブ。アバンチュールな時間をあなたと。
説明文はともかく、この案はなかなか良いんじゃないだろうかと思う。自分自身もアイドル枠と豪語する火花は置いておくとして。
・じゅうななさいカフェ(発案者、本馬美紀)
全員が「じゅうななさい」という設定。「しゆうななさい」みんかで、お出迎え。
担任も校長も保護者も「じゅうななさい」という設定は流石に無理がある。
ドレスコードはセーラー服。
いろいろ無理が――というか、俺たちそもそも中学生だからさ「じゅうななさい」は早いんじゃない、本馬さん?
・女装男子カフェ、精霊王の
……これ、主人公がヒロインよりヒロインらしいことで有名なアニメのパロディーじゃん? 誰が主人公役をやるんだよ……って、彩翔? なぜ、俺の方を見る?
・土下座カフェ(発案者、海崎湊)
何件かに一回、注文した通りにオーダーされない。そのことを店員さんに指摘すると店長(担任)登場。全力で、土下座をしてくれるカフェ。
……なんなの、それ?
「
人任せの提案、学級委員としてどうなのさ?
ところで、小豆さんってあのカラオケ店の店員さん?
・8回目の告白もウソ告白でしたカフェ(発案者、天音翼)
これもアニメ。【8回目の嘘コクはメインヒロインから】のパロディーってすぐ分かった。
だって、これ主人公のプロローグでの、名セリフだから。あのニヤニヤが止まらなくて、そしてホロリと泣かせるラブコメを、天音さんも知ってたのかと思うと、かなり嬉しい!
「ねぇ、
「お、お、思ってないよ? そんなこと、ぜ、全然、お、思ってない、か、ら――」
途端に動揺する天音さんだった。あの子にそんな風に想われるヤツって、いったい誰なんだろう。自分がそんなことを思う資格なんかないけれど、妙に胸がざわついてしまう。
・ソープランド
えっと……
「「「却下っ!」」」
湊、天音さん、本馬さんの声が見事に重なった。
・お昼寝カフェ(発案者、下河空)
忙しい現代社会。そんなにセカセカしなくても良いと思うんだ。このカフェでは、お客様も店員もゆっくりお昼寝を。上質の
「「「却下(文化祭、一緒に回れないでしょ!)」」」
え?
そんなに全力で却下しなくても。まだ、説明は続くんだけど?
セレクト可能な上質の枕、極上の布団があなたを待ってます。さらには安眠コンサルも承ります。俺は寝るけどね――。
「「「却下っ! 却下! 却下!」
そんなに全力で拒絶しなくても、さ。
凹んじゃうよ、俺?
■■■
「それでは、我がクラスはアイドルカフェで、いきたいと思います」
半ば、ゲンナリとした表情で、クラス委員の湊がそう宣言をした。微妙にイヤそうなのは、彩翔とともに、アイドル要員が確定だから。
それぞれ席を立ち、今度は役割分断を決めるらしい。
と、天音さんが俺に近づいてきた。
ふんわりと、微笑を浮かべて。
「楽しみだね、下河君」
にっこり笑って、そう言う。
――また、引っ越しになるかもしれないけれど……。
それは、転校初日。天音さんが、初めての挨拶で漏らした言葉だった。
あの時は、どこか諦めて。少し達観して。そして寂しそうだったけれど。
今は、そんな翳り一切かき消えて。今を楽しもうという姿が見れて、思わず嬉しくなってしまう。
だから、俺も笑みを溢しながら「うん」と頷くより、早く――。
「「……あ」」
それは、ほんの一瞬だった。
あっという間に、陽キャ達が、天音さんを攫っていってしまう。
歓声が混じって。火花が、俺を見てニヤリと笑んだように見えたのは――きっと、気のせいだ。
■■■
話し合いの結果――。
天音翼はアイドル班。
俺や本馬さん、矢淵さんは調理班に割り当てられたのは、予想通りだった。
________________
【参考文献】
今回、劇中物語として書いた各作品は、私の大好きな作品に対してのオマージュです。
きっとフォロワーさん達が許してくれると信じて!
・じゅうななさいカフェ
恋に恋する乙女たち ~恋する小学生とじゅうななさいの聖女~(音無雪先生)
https://kakuyomu.jp/works/16817330656300670006
・女装男子カフェ、精霊王の
精霊王の末裔~ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~(綾森れん先生)
https://kakuyomu.jp/works/16817330649752024100
・土下座カフェ
【カクヨムコン9】多分、エッセイ。(豆ははこ先生)
https://kakuyomu.jp/works/16817330666437305578
・8回目の嘘コクはメインヒロインから
8回目の嘘コクは幼馴染みからでした(東音先生)
https://kakuyomu.jp/works/16816927862126832290
もっと、この物語のなかで取り上げたい作品があったのですが、それだけで10万字を越えてしまいそうな勢いなので、今回はこのへんで。
フォロワーも皆さん!
そして、いつもお読みくださる皆さん! 本当にありがとうございます!
今日から文化祭編開始です。引き続き、応援よろしくお願いします!
作者のyukki@フユ君大好き×大好き('□'* )だ ('ㅂ'* )い ('ε'* )す ('ㅂ'* )き♡
でした!
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