【物語の欄外】大熱唱・続「お隣のトロルさん」



「ねぇ、なんで俺にばっかり、歌わせようとするのさ?」

「良いから、良いから」


 と、湊にマイクを押しつけられた。早速、曲が再生。容赦ない。


「俺も一緒に歌っちゃおうかなぁ」


 冬希兄ちゃんにそう言われたら、反論のしようがない。


 こう考えてみると、みんな歌が上手いんだよなぁ。いや、冬希兄ちゃん勝とうなんて思わないけどさ。


 兄ちゃんは、本当に人に寄り添うのが上手い。さり気なく歌って、いつの間にか、ハモっていて――絶妙なコーラスになっていて。


「さぁ、それでは。空が歌っている間に、みんなと一緒にコメントに返信をしたいと思います!」


 姉ちゃん、またとんでもないことを言い出した。


「……なんだって?」

「ほら、空。ちゃんと歌って、もう始まっているよ?」


 姉ちゃん、にっこり笑顔。明らかに、冬希兄ちゃんを盗られたと言いた気ですが? いや、むしろこれ、兄ちゃんの優しさだと思うけど?

 小さく息をついて、歌い出せば。



 ――好きだよ、好きだよ、君のこと。好きすぎて。隙だらけなキミのこと、好きすぎて。


「……」


 あの皆さん……【君】という歌詞のところで「つ・ば・さ」って、たたみかけるの止めてくれない? 翼も顔真っ赤にして、カスタネットを打たなくて良いから!


「それは、気を取り直して。いただいたコメントに返信をしていきます!」


 拍手がわきおこる。いや、俺と冬希兄ちゃんの歌も聞いてよ?




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


翼ちゃんが気になる空くん。

自分の気持ちに気付き始めたら、ぜひ自分から動いて欲しいところ。


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


思わず、ムセこみそうになった。


「空君、良いところだから、頑張って歌って!」

「下河君、難しい曲だけれど、がんばれー!」

下河シモ、ここでシャウト!」


 バラードにシャウトはないだろう?


「空って、結構、意気地なしだからね」

 話は本題に――別に戻さなくて良いんだけれど?


「お姉さん、それはどちらかと言うと、優しいから気を遣って――」

「翼ちゃん、空を甘やかしちゃダメ。優しさと行動しないをイコールにしちゃダメだからね」


「まぁ、もう過ぎ去ったことだけれどさ。空の鈍感力は、尊敬に値するよね」


 彩翔、お前は黙って。


「それじゃ、次のコメントです!」





▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


オーダー品を持ってきた空気読まない臨時バイトの小豆さん。「あれ、そこの二人、ちょっと顔色悪いねえ?部屋の外に……」って連れ出してあげたいです!


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥



「はい、このコメントを採用しました!」

「……どこまでも他力本願の作者め……」


「空君、他力本願って決して悪い言葉じゃないんだよ? 自分ではどうにもならないことが、もっと上の力で解放される。こえ、もともとは仏教用語でね――」


 さすが、編集者担当。言葉の意味に対して、丁寧に拾ってくる。でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。


 兄ちゃん……今のこの状況、俺たちを誰か救ってくれても良いんじゃって、思うんだよね?


「はい、次のコメントです。空は次の曲ね。歌う曲は、【宮城越え】です!」


「演歌じゃん! しかも不倫の歌だよね、これ?」

「頑張ろう、空君!」

「なんで、冬希兄ちゃんは、そんなにポジティブなの?」



♪♪♪




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


空君、見ないふりはもうやめよう!

笑ってる顔がいいと思うなら、自分がそうさせたいって思ってほしいです!


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


 またしても、思いっきムセこんだ。


 タメて。声をタメて。

 あぁ~あ~。宮城越えぇ~! って歌い出した直後で、このコメントをチョイスするの酷すぎる。


「あ、でも。その……空君は、いつもちゃんと見てくれていて……。みーちゃんが言ったら、すぐに駆けつけてくれたし。それが、すごく嬉しかったんです」


『お、おぅ。そりゃ、だって。友達だし。何かあったら、すぐ駆けつけるよ……』


「それがね、私は本当に嬉しかったの」

『ん。うん。だって、翼のことだし――』


「あの……マイク持って、そのまま会話するの止めてもらえない?」


 だから、湊。冷めた目でこっちを見るなし。

 別に当たり前のことしか言ってないから。むしろ、次の曲を入れるのを、本気で勘弁して欲しいんですが?



♪♪♪




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


結論:カラオケは少人数で気の合う人と行くのが良い


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥



「これは、間違いないよね」

みーの言う通りかな。クラス全員でカラオケも悪くなかったけれど、やっぱり苦手な人がいることも想定して、配慮すべきだよね」


 独り身のことも考えて、カラオケ中イチャつくのは止めろと、彩翔と湊、そして姉ちゃん達に言いた――って、何だよ、彩翔?


「空達も大概、距離感バグっているからね?」




♪♪♪




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


へたくそとデュエットとか地獄


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


「私自身、歌は得意じゃないから、あれなんですけど。あの時は本当に辛かったの。そういう人に限って、マイクを離さないから」

「翼ちゃん、今は? 決して空は上手とは言いがたいけれど?」


 うるせぇ。姉ちゃんの誘導尋問が酷すぎる!


「空君の声は、聞いてて落ち着くから。ずっと聞いていたいって――あ、いや、違う。なんでもない、その、何でもないですから――」

「一生聞いていたいってさぁ」

「姉ちゃん?! そんなこと言ってないだろ?!」


「一生聞きたくないなんて、言ってないもんっ!」

「翼も、そういうトコに反応しなくて良いから?!」




♪♪♪




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


隣に座ることだけが独占ではないとは恐れ入りました


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥



「まぁ、ね。最近、気付いたんだけれど、下河シモって結構、エッチだから」

「そ、そうなんだ……」


「ちょっと、矢淵さん。本馬さんに何を言ってるのさ?!」

「いや、だってさ。この前、ゲームのフレンド、見せてもらったけど……みんあ、おっぱい、でかいじゃん! しかも、男のフレンドが少なくない?」


「あくまで、ゲームの容姿スキンでしょ?!」

「ふぅーん」


 翼、目が怖い。本気で、怖いから。


「それに興味ない素振りを見せながら、視線はしっかり追っているよね」

「そう思うなら、着崩さないで――痛い、痛い! 翼も本馬さんも痛い! なんでダブルで抓ってくるの!」


「でも下河シモって、そういう時マジマジと見ないっていうか。すぐに視線を逸らすんだよね。むしろ、他の男子の視線が注がないように、自分の立ち位置を変えたりね。ウチ的には、そういうのかなりプラスだけどね?」


 そう思ってくれるのなら、ボソッと小声で言わないで。俺の名誉のために、はっきりと伝えて欲しいんだけれど?


「まぁ、雪姫のコレクションの方がもっとアダルトだけどね」

「ちょ、ちょっと、冬君?! 違うもん、ちが、そんなこと――」

「別に悪いとは思わないよ? だって創作の資料でしょ?」


 冬希兄ちゃんは、姉ちゃんに対して、そういうところが本当に、甘いって思う。やっぱり年齢制限は守るべきだと思うんだ。


「……あ、あのね。創作だけじゃないから。その……冬君に喜んでもらうために、その……ね?」


 アウト! 姉ちゃん! もっと、アウトだよ!




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


【もし、小豆姐さんがここで直接妨害に出たら】

小豆 「カラオケ店員の嗜みですわ♥」


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥





「これはぜひ、コメント欄を読んで欲しいよね」

「冬君の言う通りかな。皆さんのコメント欄を含めて、一つの作品になっている気がします。それから、注ぎに紹介するレビューコメントも本当に、嬉しかったんです!」




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


「箱庭に、もう一輪の花が咲く」


不器用だが心根がまっすぐで芯の強い空と、自ら嵌めた枷では気持ちが抑えきれなくなっていく翼との距離が、温かい友人達の力もあって徐々に近付いていく様は、まさに王道の恋愛ロマンスと言えるのではないだろうか


▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥


「……別に俺は不器用ではないいと……結構、上手く立ち回っていると思うんだけれどなぁ……」


 ボソッと俺が呟けば――。


「不器用」

「不器用」

「不器用」

「不器用」


「不器用です」

「めっちゃ不器用」


「空の辞書に不器用という文字以外はない」

「うるさいよ、湊!」


 ウチの幼なじみは酷すぎじゃないだろうか?


「でも、この時はちょっとだけ……距離、近づけたもんね」


 あの、翼?

 今、この瞬間、心底嬉しそうに笑うの――それ、ちょっとズルいから。目が、逸らせないじゃんか。本当にそういう笑顔、ズルい――。


「はい、ここからは作者の次回予告タイムです。雪姫、どうぞ」


「あ、はい。冬君、ありがとう。次回からは、文化祭編に突入します。火花君達、陽キャチームが企画したのは、アイドル喫茶。アイドルに会える、期間限定喫茶店。裏方になる空と、表舞台の翼ちゃん。二人は、文化祭を満喫できるのでしょうか――」


「そして、虎視眈々と空の童貞を狙う美紀ティーと……」

「ちょっと、里野ちゃんっ?! このタイミングで、そういうナレーション入れるの、酷い! それを言ったら、里野ちゃんがでしょ?!」


「え? そりゃ、もちろん! 文化祭、誰もいない教室で、二人っきりの後夜祭、教室に紅く滴る跡となれば――」

「その方向にプロット変更するね、矢淵さ――」

「バカ姉! そんな事実、ないから! 事実を歪ませるなって!」


「まぁ、教室に赤い血が滲んだのは事実だもんね」

「冬希兄ちゃんも、そういう予告はしなくて良いから!」


「ということで、ラストはタイトルコール行きたいと思います!」

「マジでやるの?」


「マイクに向かって、せーので言うからね?」

 冬希兄ちゃん、ノリノリ過ぎませんか?


「フォロワーの小豆お姉さん、音無先輩、あすれいさん、綾森さん、東音さん、ロッチさん、矢口さん、桜蘭舞さくらんさん、他――応援してくれた皆さんを、このカラオケルームにお呼びしています! それでは、せ~のでいきますよ!」



  …

 ……

 ………。


「せーのっ!!」


「「「「「「「あの空へ、君の翼で!!」」」」」」






「ありがとうございました! 引き続き、文化祭編をよろしくお願いします。本当にこれが、本日、最後ラスト。みんなで、一緒に『お隣のトロルさん』を歌ってお別れです。いつも、応援ありがとうございます! それで作者のYUKKIでした! みなさんのこと、大好きっです! これからも空と翼ちゃんのこと、応援よろしくお願いします!」




※なおライブ感いっぱいですが、あくまでコメント返信と近況ノートによる報告でした。




________________



あの空へ、君の翼で

第20話公開時点:レビュー数 ☆74

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