第7話 モブと裏処理(科学ってスゲェ)

江藤家、多くの功績者を世に次々と生み出す

エリートの家系。

現在の江藤家ではトップの江藤州一えとうしゅういち

が全権力を保持している。


そんな江藤家の所有する地で起こっている出来事に、

当主や幹部達も少しずつ後処理を進めていた。



「…何?賢咸が複製体を回収した…?」

「正確に言うと、まだ未発達のモノだけどね。」

江藤家の屋敷では、家族内で緊急会議を行っていた。

長男の江藤しゅん長女の江藤夏那かな

そして、島の所有権を譲渡された、縄樹と束南。

「取り敢えず、今この島で起こっている事態を止めろ。」

「…残念ながら、この家もそろそろ不味い。

賢咸の本体がこっちを襲撃しに来てる。逃げ道は今のうちに…」

縄樹と束南が命令し、船を襲撃してから音信不通になっている

専用メイドであり、元殺し屋の芝山の帰りを待っていたところ、

この島に研究物を残している兄弟たちが予定よりも一日早く来たのだ。

といっても、長女と長男の二人が来ているだけで、その他の兄妹達は

先に自分の与えられた賢咸の捕縛、及び殲滅に向かっているのだ。

「…春兄様は何が起こってるか知っているのですか?」

「そうだな、簡単に述べれば快楽殺人鬼の複製体の暴走、

そして異常な速度で成長する子供を産む女性…我々江藤家の

永年追い求めていた研究資料が自ら来てくれた…とでも言うか。」

(…全然簡単に言ってないじゃない。)

言っていることがほぼ違う兄の話を聞きつつも、

自分が優雅にティータイムをしている間に、島の中で多くの研究員が

殺されているのは報告が回ってきたので知っていた。

しかし、それを巻き起こしているのが謎のテロ組織だけでなく、

事実として受け入れがたいクローン人間によってのものとは

誰も予想しなかった。

沈黙が続く中、縄樹が立ち上がった。

部屋にいる全員の視線が集まる。


「どうしたの?縄樹?」

「…ここにいる全員に話さなきゃいけないことがあります…」

「…?」


「賢咸の狙いは、私達じゃない。

__________私達をエサにして、茂を捕らえることです。」


「…根拠はあるのか?」

「島の中に設置されたカメラの捉えた映像で見たのは、

私達とは関係なく、ただひたすらに何かを狙っているようでした。

財産や快楽的殺人のようなものとういより…あれは異常です。

人として持っている独占欲を、で満たしているような_」

「憶測とは思い難いが…そうか、ならば話は早いな。

おい、連れてこい。」

春が部屋の扉を向き、机の上に置かれたベルを鳴らす。

ベルがチリンと音を立てたと同時に、一人の少年が扉の向こうから

放り出された。

「痛ッ…。」

「…春、何なの?この子。」

「賢咸の最も覚醒の難しい感情というプログラムを理解させるために

屋敷に何回か足を運んでいた西木田茂から血を密かに採取していた。

そして、賢咸と同じ複製遺伝子に繋がれ、一滴の血液によって

生み出された茂のクローンだ。」

前髪で覆われた目元と、少し気だるそうな声。

細い腕と脚、その全てが縄樹と束南の幼少期に見た茂と全く同じ姿だった。

春以外の兄妹達が茂のクローンを警戒して見守る中、

コンコンと部屋の扉を叩く音がした。

「誰だ?」

「春様、ご報告があります。

賢咸の生体反応が、この6時間の間で異常なスピードで減少。

オリジナルの再現度の高い初期番号のクローンも、残り3体となって…

今島の中で行動に出れる個体は_残り12人とのことです。」

「…なんだと。」

夏那がパソコンに送られてきた賢咸の生体反応の資料を開く。

部屋のスクリーンに映し出されたのは、島全体の地図と、島の中で動き回る

賢の動きを赤い点で表したもの。

約6時間前まで海の隅まで広がっていった筈の賢の反応は

1分間で1000体単位で消え続け、ついには、孤島のみ反応が残っていた。

「一体何が…何が起こっている…」



遡ること3時間前_


「茂、少し協力してほしいことがある。」

「?荷物運びとかか?」

「そうだね、簡単に言えばそんな感じ。

私はオリジナルの監視から逃れられる、そういう特殊な能力がある。」

「…つまり?」

「向こうには気がついていないだろうけど、私はオリジナルと偶々

支配細胞っていうクローンを操る細胞が体の中にあるんだ。

だから、幾つかの場所にトラップを仕掛けることで、一気に潰したい。」

39番がトラックを運転している中、茂が頼まれたのは、

厄介なクローン体の一斉排除。

本来賢咸本体しか保持していない支配細胞を偶然受け継いだ彼女は

支配細胞の効果の打ち消し合いによって監視から逃れ、今日までの間に

計画を立てることができたのだ。


つまり、本体が茂を捕らえる命令を一斉に出せたように、

支配細胞を持っている39番にも、その影響が、他個体にも影響させられる。

そのために、茂を地下から連れ出してきたのも、自分たちが脱出し終わったと同時に

地下にいくつもの罠を仕掛けておくためだった。

「私が仕掛けたトラップは2つ。

6秒間以上触れた者が粒子単位までに分解されるもの、

そして、一番シンプルな毒ガスのトラップ。」

「やりたいことは分かったけど…荷物運びっていうのは?」

「多分、私の影響の出ない本体が何人か刺客を送り込んでくる

と思うんだ。だから、その場合は私が直接潰すから、その後処理…

死体運びってやつさ。」

「…軽く言うな、お前。」


39番の仕掛けたトラップは、ハッキリ言うと大成功だった。

最初は疑いつつも協力していた茂だったが、

車内のモニターに映し出された島の各地の映像で、39番が支配細胞で

命令を出した瞬間、島で彷徨っていた賢のクローン達がそれぞれ

設置されたトラップの中へと吸い込まれていった。

そうしていく内に、続けること6時間。

合計で生体反応が完全に無くなった個体は計59987体。

血の濃い賢のクローンの大半も嵌めることに成功し、残るは、

アジトに残った5人の最強格の賢、そして本体と最近造られた

5人の反応のみとなった。


「す…凄い…。」

「はぁ…はぁ…これやると疲れるんだけどね…

後は本拠地を潰すだけだ…。」

細胞の修正と破壊を繰り返しながら多くの賢を罠へと誘導した

39番は、額に大粒の汗をいくつも垂らしながら、運転席の背もたれに

背中を預け、そのまま眠ってしまった。


これが、6時間の間に起きた39番のクローン体の作戦の結果だった。




この事態に、本体が気づいていないなかったのは、

本体の方へ、ある人物が攻め入っていたからだった。


「全くさぁ…僕の茂に手ぇ出さないでよぉぉぉぉ!」

「うるさい!私は向こう公認なんだから…バーカ!」

そう。季奈達を海岸で待ち伏せていた賢のクローン体は、

本拠地からそのまま送り出された最強格の二人だったため、

地図から居場所を割り出した天葵、そして季奈の二人が

本拠地を襲撃していたからだった。

「ゲボっ…!」

「同じ人間が幾つもいたらさ…愛し方も歪むから面倒なんだよね〜。」

季奈の拳が勢いよく賢のクローン達の腹に突き刺さり、

勢いよく荒れた海の中へと、クローン達が落ちていく。

本体は天葵をただ殺すべく襲いかかったが、

それに乗じて天葵を集中攻撃しようとした彼女らクローンは

季奈に危険を察知したのか、全員束になって掛かるも、

ただただ暗く深い海の中へと落とされていくだけ。

死を与えるのが死神なら、賢咸の複製体たちに恐怖を与えるのが、

きっと季奈なのだろう。

「オリジナルに…近づけない」

「こんなの…どうやって勝てるっていうのさ…」

季奈に襲いかかったクローン達は次第に酷い攻撃を受け、海に沈んでいった。

10人目以降、季奈は賢の骨を粉砕しながら海へと投げ入れていくように

より残酷な手段で彼女らの心を折りにきたのだ。

「さぁ、これ終わらせたら、間抜けなアヒル顔の白衣を二度と作らせないように

させないといけないからさ。ごめんね?」

ゆっくりと近づいていく季奈を前に、複製体達は、動くことを諦めたのだった。




                             続く。



















                




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