第3話 モブと生徒会会計(悩み)
桜が散り始めた季節のこと。
ある高校生、西木田茂は悩んでいた。自分の彼女のことで。
容姿端麗、成績優秀という最強スペックを持ち合わせた柄崎天葵と
付き合うことになって二週間。今日は彼女の誕生日ということで、
プレゼントを用意してきたのだが…今思えば何が好きかを聞いたことが
無いのに、自分のお手性のぬいぐるみは喜ぶのだろうか、と。
一応ぬいぐるみの他にアクセサリーを購入しているのだが、
彼女の性格を見るに絶対隠し事はNG行為。隠し事をした日には
家に泊まりに来るのだ。親と姉は、初めてできた彼女ということで
何なら大歓迎で迎え入れたのだ。そのせいでいつも寝る時に
こちらを見てくる天葵が「今が食べ頃…いやまだ駄目。冬くらいなら…」
と意味のわからないことを呟いているせいでいつも眠れないのだ。
「でもよく考えたら僕も僕だな…うん。」
そもそも今のカレカノ関係は、半ば強制的に作られたものなのだ。
2週間前に天葵に謎の場所で拉致監禁され、脅迫された挙げ句
折れてめでたく(天葵が)カップルが成立してしまった。
最初の一週間は恐怖したものの、放課後に少しデートに行ったりしている中で
彼女は確かに愛が重いものが有るものの決して悪い奴では無いのだ。
そうこう悩んでいる間に時計の針が8時を指した。
「ヤバッ…早く行かないと…。」
仕方なくぬいぐるみとアクセサリーをカバンに入れた茂は
大急ぎで家を出ていった。
国立矢崎高校
茂と天葵はクラスが違うので、
いつも朝は高校のエントランスに広がる自由広場で待ち合わせをしている。
茂は靴を脱ぎ、下駄箱から上靴を取り出した。すると上靴の向こうに
何かが入っていた。
「何だコレ…?手紙か?」
ピンク色と紫色の柄が目立つ封筒が入っており、裏側をくるりと
裏返すと、西木田茂くんへという自分宛てだと分かる手紙だった。
「これって…所謂」
「ラブレターだね。」
後ろからいきなり声がしてビクッと体が跳ねる。
「…天葵…。」
「茂くん。ちょっとそこの広場で話そうか。あと今日泊まっていく
からね。」
後ろにいたのは、茂に出来た初めての彼女柄崎天葵。
普段は大人しく綺羅びやかで可愛らしいのだが、
激重スイッチが完全に入った彼女はたちまち淀んだオーラを撒き散らす
激怖彼女へと豹変するのだ。
「茂くん。心当たりは?」
「無いです。そもそもクラスの女子と喋ったことがありません…」
自由広場のど真ん中で、ヤバめのオーラを放つ女とそれを正面から
受ける男の気まずい空間が広がっている。
「うおっ⁉何だあれ?」
「ああ…二年生の新カップルだな。片方が何かとやらかしてるとか
噂されてるけどな。ほら、だって男の方頼り無さげじゃん?」
通り過ぎる二年生たちにも憐れみの目を向けられている茂は口を開く。
「いや…ホントに。だってこんなに見せつけてる感凄いのに
ラブレターが降臨なされるなんて分からないじゃん…。」
「ま、今日泊まりに行くのは確定したとして手紙を見てみようか。」
茂の前からラブレターを奪い取り、封筒を力強くビリリと破り、
中に入っていた紙を広げた。
「…コレって…」
「茂くんは大変だね。まさか生徒会の人に恋文送られるなんてさ。」
書かれていた内容は、見た目は完全に重要な書類なのだが、内容が完全に
恋文なのだ。
【西木田茂様 私は貴方の姿を見るたびに心が、体が疼くのです。
これは恐らく恋だと私の中では認識しています。ですので、
お付き合いの方をしたいと考えておりますので放課後生徒会室に
てお待ちしておりますので何卒御理解の上来ていただけると幸いです。
生徒会会計。】
「会計の女子って誰だっけ…。」
「二年生の水島さん。去年のミスコン一年の部での優勝と
多くのファンを持ったことで生徒会会計立候補時に他の生徒と70票以上の差
をつけたことで話題になった子ね。でも茂くんと接点は無いはず…。」
そんな事を考えている内に、ホームルーム五分前の予冷が鳴る。
「げ。もうこんな時間か…。」
「また昼休みに相談しようね。」
一旦切り上げた茂と天葵は各自自分のクラスへと向かっていった。
「ここから考えてもらいたいことは、漱石のこの時の気持ちや…。」
昼休み前の一時間の授業で茂は朝ラブレターの件で話していたことで
誕生日プレゼントを渡していない事に気づいた。
(昼休みはなんか中途半端だから放課後にしとくか。)
そう考えながら授業を聞いていたときだった。
「失礼します。生徒会の急用連絡で今から呼び出した生徒は
今すぐに来てください。」
ドアがガラガラと開き、出てきたのは生徒会の腕章を付けた
背の高い丸刈りの男子生徒だった。
「桔梗紗季、逹駒東屋、西木田茂。以上3名は今すぐ生徒会室へ。」
名前を呼ばれたので席を立ったが、廊下に出た時、何か嫌な予感を感じた。
(あれ?桔梗さんと逹駒さんって確か…まさか…)
教室のドアがピシャリと閉められた瞬間、共に出てきた桔梗さんと逹駒さんに
肩を掴まれる。抵抗しようとしたが、生徒会の丸刈りが近づいてきて、
腹に思いっきりパンチを入れられた。
「カッ…。」
視界がどんどんぼやけていき、抵抗していた体も動かなくなる。
「連れて行け。さもないとお前らの彼が痛い目に遭う。」
ぼやけていく意識の中で見たのは、
悔しそうに拳を握りながら自分を運んでいく桔梗と逹駒の姿だった。
「ん…もこがほほ…」
謎の密閉された空間の中に茂はいた。
以前天葵にされたことがあったので恐怖は無いものの、
口と手足に縄のようなものが付けられており、引っ張っても
千切れる感じは無い。
一旦逃げることは諦め、何か脱出できる方法が無いかと
考えていたところ、何か話し声が聞こえてきた。
「お願いします…。言われた通り西木田茂を連れてきました。
なので…渡辺くんを返してください…。」
「私も協力しました…小宇木くんを…返して…。」
外から泣き縋るような声、おそらく声の主は桔梗さんと逹駒さん。
この二人は生徒会安全管理委員会に所属しており、一年の頃から付き合っている
彼氏がいた。それが
どちらも一年生の頃は選挙の手伝いを積極的に行っていた。
「…水島さん…お願いです…。」
その言葉を聞いた瞬間、朝のラブレターが脳裏によぎる。
生徒会会計を決める際、瞬く間に票数が集まった二年生。
「良いでしょう。彼らは私の雇ったボディーガードのサンドバッグ
になっていた割にはあなた達の為に耐えてましたからね。」
そう彼女が言った直後、2つの足音が向こうへと消えていった。
自分を拉致したのは水島であることがわかった以上、下手には
出られない。ただ息を殺して待つ、それだけ。
ギュッと目をつぶり、開ける。その瞬間、いきなり密閉された空間に
光が差し込んだ。
「もう起きているのでしょう?茂さん。」
いきなり眩しくなった空間に目を慣らせていくうちに
見えてきたのは、ツインテールにメガネをかけた女だった。
この女が、水島。水島に口に付けられていた縄が解かれる。
よくよく自分がいるところを見ると、大きい色の付いた箱の中に
自分は閉じ込められていたことが分かった。
「…貴方が水島さん…。」
「はい。そうですよ茂さん。そして今から貴方の彼女に
なる女です。」
誰もいない状況の中、少し不味いと感じた茂の目に写ったのは、
自分を連れ去った天葵と同じ様な目をした水島だった。
「少しお話、しましょうか。」
一方生徒会室会議ルーム
「今から5秒以内に茂くんの居場所を吐いて。
吐かなかったら貴方のそのキレイな目くり抜いてあげる。」
多くの生徒会男子役員が鼻や口から血を出して倒れており、
副会長の女子役員が今、目に刃物を突きつけられている状況である。
「いーち、にーい、さー…」
「奥に!奥のイベントルームの二階にいます…!」
怯えながら情報を吐いた女子役員から鍵を奪い、1人の女が
奥へとどんどん進んでいく。
「許さないからね…水島さん。」
そう言いながらスタンガンとナイフを腰から下げているのは、
現西木田茂の彼女、柄崎天葵だった。
続く。
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