第2話 モブと船上の危険(危機)
三番監視室襲撃同時刻。
茂が
「何でこの子が茂くんのぼっちになった原因なの?」
現在殺人鬼として指名手配されている女について天葵は茂に追求していた。
「…賢は、元々金持ち一家の一人娘だったんだ。」
茂は、荷物を入れてあるリュックサックの中から小学校の頃の卒業アルバム
を取り出し、一番最初のページを広げて見せた。
「
小学校の頃に同じクラスになることが多かったんだけど…おじいさんに
頼んで裏で手を引いていたみたいで。」
「…ということは友人関係とかも…」
「うん。全部裏から手を引かれてたんだ。だから、小学校卒業するまでずっと
1人で。卒業の時も名前を呼ばれないまま終わったよ。」
「あの食品会社、裏の世界でも有名なくらいだし…力があったのね。」
卒業アルバムの最後のページを開くと、全員の集合写真が撮られている中、
茂だけが、その写真の中に居なかった。
「この時から、多分、賢さんはおかしかった。」
「どういうこと?」
「このとき、僕だけがこの集合場所に居なかったとき、」
僕は小学生最後の日に、拷問を受けていた。
「ん゙ぅ!ん゙ぅ!」
「…落とせ。」
忘れもしない、あの3月の半ば。皆が桜の木の前で、やりきった、楽しかった。
そんな表情でレンズの中にその記憶を映し出している時、僕は校舎から離れた
倉庫の中で、謎の黒服たちから、幾つもの苦痛を与えられていた。
最初はバケツたっぷりの氷水をかけられ、タバコの灰を肌に落とされたり、
少年だった頃の自分からすれば、まさに生き地獄だったのだろう。
足は震え、涙は塞がれた口の横を何度も垂れ落ち、この日のために揃えたスーツと
ズボンは、無惨にも破り捨てられていた。
「良いか?もう一度チャンスをやる。賢家の養子になると言え。」
当時の僕は、無駄に頭が良かった。そのせいで、余計に苦しむことがよく
あった。養子になれと言われた瞬間。僕は、首を横に振ってしまった。
その瞬間、髪の毛を思い切り掴まれたかと思えば、倉庫の中に居た3人の黒服たちが
一斉に茂の事を踏みつけ始めた。顔、腹、膝、くまなく全ての部位を傷つけていく。
茂の目からは大粒の涙。鼻と口からは溢れ出る血で倉庫の床のコンクリートが
色づいていく。
「このクソガキがっ!」
「分をわきまえろよ!たかが平民が!」
「恐ろしさも知らねぇガキが断って良いモンじゃねえんだよ!」
このとき、茂は死を確信していた。誰も助けに来ない状況の中、判断を
見誤った1人の子供がここで、今死のうとしているのだから。
そんな中、男の1人が足を止め、その場でズボンのベルトを緩め始めたのが見えた。
「おい、何してんだ?」
「コイツよくよく見たら可愛い顔してるからよぉ…1回ぐらいヤッても
問題ねえんじゃねえかって思ってな。」
「待て待て。コイツまだガキだぞ?」
そう。この男は、茂の中にある、血の影響を強く受け、その結果。
脳内で茂を犯すという選択肢に何故か辿り着いてしまった。
「やめて…やめて」
「こんぐらいのガキのほうが締まり良さそうだよな!」
恐怖で満たされた茂の心に負荷をかけるように、茂のズボンがゆっくりと
下ろされていく。
仲間の二人は茂の両手を抑えており、絵面から見ると、一人の少年を犯す
3人の中年の黒服という悪趣味なものになった。
黒い欲望がゆっくりと、茂を蝕んでいく。
「…まぁ。あの時はビックリしたよね。」
「茂くんは助かったの?」
「あぁ。うん。もうちょっとで危なかったところに駆けつけてくれたんだよね。
僕のい_」
茂の言葉が口から発せられるよりも先に、謎の爆音が客船を囲んだ。
「…何が起こってるのかな。」
「多分、ここらの島のパトロールで異常があったくらいだと思うけど…」
「そうだと良かったね。」
二人の座るソファの後ろから、少し低い女の声がする。
目を後ろにそらして確認すると、そこには謎のアヒルの顔が胸ポケットに
付けられた白衣の女が立っていた。
「や。はじめまして。西木田茂くん。」
「…茂くんの知り合い?」
「いや…多分違う。」
「ハハッ!そりゃあね。君が知らない人は沢山居るだろうけど…
君を知っている人は結構居るんだよ。」
女が言い終わると同時に、船がガンッと鈍い音を立てて大きく揺れた。
うっすらとプロペラ音が近づいてきており、船のデッキに、同じような白衣を
着た女や男が何十人も海の中から上ってきているのが見えた。
「これは…」
「茂くん。チャンスをやろう。君はよく断ってしまうらしいがねぇ?
今君を狙ってココに約200人の職員が集まった。君が我々についてくるならば、
君の大事な人には手を出さずに帰ってあげよう。」
「…もし、違う選択を取ったら?」
「そうだな。今まで生きてきた人生の中で一番後悔する羽目になるかな。」
船が少しずつ傾いていき、天葵と茂はそれぞれ違う方向へと倒れてしまい、
此処で選択を間違えば、最悪全員死ぬ。
(判断を、絶対に間違えたら…そうじゃないと皆が…)
精一杯思考を巡らせている茂の元に、少しずつ女が近づいてくる。
そして、バランスを崩せない状況で近くの手すりに掴まっていた茂の顔を、
思い切り蹴り飛ばした。
一瞬の出来事で何も判断が出来なかったのだろう。
茂は、そのまま何人もの白衣が待ち受けるデッキへと落ちていった。
「茂くん!!」
「見ときなよ、彼女さん。今からあの子がボコボコにされる、その瞬間!」
落ちていく茂の目に映る景色は、全てゆっくりと動いていた。
下に落ちるに連れてあふれるはずの恐怖感も、全く感じない。
さっきまで普通に、ただの日常の中で生活しているだけだった自分が、
今何日も、何時間も、かからない数分で自分に絶望が訪れるなど、
思っていなかったから。
そうして、茂は白衣達によってまた、死にそうなまでに追い詰められる。
そう思い、半分諦めながら目を閉じた。
「そんな面で彼女出来たのかお前は!笑うな!」
ハッと茂の意識が覚醒する。目を開けると、そこには白衣達が
立っているわけでも、さっきの女が立っているわけでも、海に落とされたわけでも
無かった。彼の目に写ったのは、長い金髪を揺らしながら白衣達を踏み台にして
自分を抱え込む、従兄弟の姿だった。
「よ!久しぶり!会ったのは8年ぶりか!」
「…
「説明は後だ。今はとにかく、アイツをどうにかするから。」
自分を救けに来た従兄弟の白子都は、茂を近くの安全な場所に下ろすと、
アンバランスながらも浮かぶ船のアンテナの根本でこちらを見下ろす
リーダーらしき女だった。
「さぁ。久々の茂の前だ。良いとこ見せてやろう!」
「…うっとうしいなぁ。この仕事の
二人の眼と眼の間で、火花が散る。譲れない戦いが始まるのだと、本能が
告げているように。
一方、天葵は。
「…ココ何処?」
謎の無人島に流れ着いていた。
続く。
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