モブの青春に重い愛は必要ない

ゆきぃ

第1話 モブと告白(脅迫)

桜が咲き始めた3月のころ。

僕は青春を謳歌したい訳でも無い高校生だった。

普通に学校に行って授業を受けたり、帰り道に本屋によって

漫画を読む。友達などは作ったりせず、基本遊びに行く事はなく1人で

休日家でゴロゴロするか買い物に出るくらいの、そんな生活を送っていた。


「茂くん…私以外の女の子に目を合わせちゃいけないよ?分かってる?」

この女と会うまでは。








国公立矢崎高校。

多くの有名人を輩出してきた名門校で、1つ1つのクラスに一軍が溢れかえっており、

基本服は自由。そしてなによりカップルが多い高校としても有名なのだ。

そんな高校である目立たない生徒がいた。

前髪が目元を隠すような形をしており、服も白のTシャツ一枚の上に黒い

上着を着重ねており、スマホを触っている。

彼の名前は西木田茂。今年高校2年生になった彼は絶賛ぼっちだった。

一年生の頃、他人と話しかけるのが苦手でいつの間にか孤立していた。

彼はあまり気にしていなかった。元々1人で居るのが好きなこともあるだろう。

だが、彼には1つ悩みがあった。



「西木田ー。なんか柄崎さんが呼んでるって…あれ?西木田居なかった?」

「さぁ…?何処か行ったんじゃない?」

それはある女子生徒によってだ。

「お邪魔します。茂くん?隠れても無駄だよ。早く出てきて。」

柄崎天葵。2年生の女子生徒。成績優秀、スポーツ万能。更に美人という

欠点のないハイスペック女子。そして茂の悩みの原因である。

柄崎はクラスの中にスタスタ入ってきてそのまま茂の席に座った。

「良いのかな?茂くん?ここであの画像流出させても。」

脅すように手に持ったスマホを揺らしながら少しづつ人が入ってきた

クラスの中で誰にも聞こえない程度の声で囁く。

「…」

教壇の裏側から警戒しながら茂が出てきた。

「えらいえらい。後でお話あるから体育館裏、来てね!」

姿を現した茂のもとにそれだけを伝え、軽い足取りで教室を出ていった。

茂は震える体を保ちながら、自分の席に戻り、灰になった。

「アイツ…何したの?」

「噂も聞いたことねえからわっかんねー。」

(僕も聞きたいよ…。)

遠くで自分のことを哀れだったり羨ましそうな目を向ける同級生たちに

心のなかで叫んだ。


昼休み 体育館裏。

朝に体育館裏に来るよう呼び出されていた茂はとぼとぼ歩きながら

体育館裏に向かっていた。

(…これで呼び出し20回目…今までは放課後だったのになんでなんだろ。)

そんなことを考えてる内に体育館の倉庫の端を曲がり、体育館裏についた。

木が体育館を囲むように生えていて、暖かくなってきたのもあって最近は近くにあるベンチで食べるカップルが多いらしい。

着いたものの、柄崎の姿が見当たらない。まだ早すぎたかと思い、

ベンチに向かった。今は誰もおらず、囀る小鳥の声がとても心地よい。

「あ!もう来てたんだ。早いね。」

向こうからの聞き慣れた声によって小鳥の声がかき消されていく。

こちらに向かって小走りで何かが入ったビニール袋を持って柄崎が

やってきた。

「柄崎さん…どういった要件で…。」

「細かい事は後にしたいから…今は一旦寝てて?」

バチチチッという音がしたかと思ったら、自分の腹に少し大き目の

スタンガンが当てられていた。

「あ……。」

茂はバタッとその場に倒れて動かなくなった。

そんな茂を柄崎は近くにあった台車の中に入れ、上から袋の中にあった

ブルーシートを被せて運んでいった。

「フフフッ…。起きた時の反応が楽しみだな〜。」

光が宿らなくなった目を釣り上げながら、台車とともに体育館裏から消えていった。




茂は高校一年生になったばかりの頃。

万引きの冤罪を掛けられていた女の子を帰り道に見かけた。

「違います!私は何も盗ってなんか…」

「じゃあこのカバンの中に入ってるプリンは何だ!

普通は店の中で買った商品はレジ袋確認してから入れるだろうが!」

同じ学生のバッジを付けていたので、流石に見捨てるのは可哀想だと思い、

言い合いの間に割って入った。

「すみません。その子と同じ学校のものなんですが…何かありました?」

「あ?見りゃ分かるだろ。コイツが万引きしたのに認めないんだよ。」

「違う…!私は盗ってなんかいない…。」

どうしたものか…と、ふとプリンを見ると、ある違和感に気づいた。

「…万引きしたわけではなさそうですね。」

「何…⁉そんな訳あるか!じゃあ何でウチで扱ってるプリンが

こうやって入ってんだよ!」

「店員さん。カップの蓋をよく見てください。」

茂が指さしたのは、蓋の上に記載されている消費期限だった。

「これは…2ヶ月前のもの…⁉」

店員さんが驚く中、その女の子が喋り始める。

「近所のお婆さんが前トラックから落ちてたから届けてくれって

頼まれて…学校帰りに急いで来たからどうにも…。」

それを聞いた店員さんの顔が先程の怒りで真っ赤になってたのに、

一瞬で真っ青になった。

「すまない!こちらのミスなのに濡れ衣を着せようとしてしまって…!」

店員さんがヘコヘコと頭を下げて、何回も謝っている。

その様子を見て一件落着だなと思った茂は店から出ていった。

後ろで店員さんと女の子が何か言っていたが、目立ちたくはなかったし、

店員さんのプライドに傷がつかないように、そのまま家に帰ったのだった。






「ん…ここは…。」

「あ!目覚めた?」

目を覚ますと、仰向けの状態になっており、視線の斜めにはこちらを

見下ろしている柄崎の姿があった。

「ヒッ…。」

先程スタンガンを当てられたことで何をされるか分からなくなった茂は

逃げ出そうとした。だが、逃げ出そうと足と手を動かそうにも

全く動かない。上を見ると、両手が手錠に寄って動けなくされており、

両足は縄で縛られている。

「そうやって逃げ出そうとするのは分かってたから良いけど…

あんまり逆らうようなら殺しちゃうかもね〜!」

スタンガンをバチチチと光らせる柄崎への恐怖で体が動かなくなる。

今まではただ逃げてきたのに…代償が大きすぎないか?

必死に生き延びる方法を考えている茂の顔の前に柄崎の顔が寄せられる。

「茂くん。今から言う事を聞いてくれるなら何も痛いことは

しないよ?だから頷けば無事だよ?」

死ぬよりマシだと思った茂は息を整えながら柄崎が提示する

条件を待つ。そんな茂を見た柄崎は満足した顔をして、口を開いた。


「私の彼氏になって?」







続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る