ごり

第1話

ラジオの音、体操をする筋肉バカ二人。朝の静けさに躍動する肉の喜びが響く。

「はい!!マッチョ―!!。はい!!チェスト―!!。次は筋肉体操いってみよう!!さんはい―」

汗がフローリングを濡らし、二人はまた変な噂を子供たちに広められていることを二人で笑い合う。朝焼けの指すベランダには霜とパタパタと小鳥たちがおりている。ある程度の所で一人がテレビをつけ、もう一人がベランダに出る。ベランダに灰が降る。ふるふると体を震わせ、タバコを吸いながら歩いていく子供たちを見守る。そうしているとその子たちの親にでもなったような気がする。テレビを見ていたバッド松本が言う。「おーいゴッド、もうすぐ大会だろ、身体に悪いしタバコやめなー。」

「いやいや、こんな気持ちのいい朝に我慢する方が体に毒だよ。」バッドはチンピラみたいななりをしているのに変にまじめだ。どこか、女性的な。いや女性なんだけれど、男性的な部分の方がよく目立っていて性別を忘れそうになる。女性の部分が悪目立ちしている位には男らしい、僕より男らしいくらい。

 バッド、いや妻が見ていたテレビに映るのは誘拐事件。それも残酷な、凄惨な、そんな言葉を並べるにふさわしい事件。子供にお菓子をあげてある程度懐かせた後に、一人ぼっちでわけのありそうな子供には親身になってやり、お菓子の他に玩具やら女の子なら髪留めやらを買ってあげるなりして、親しくなったあと家に連れ込んで殺す、あるいはそれ以上の事をするといった手口だった。それを見たとき僕はそれが気づかないだけで目の前でも起こっているのではないか、という錯覚に襲われた。いや、これは錯覚ではない。確信だったが気弱だったがため何もしないでいた。

2人がアパートに越してきたのは2年前、近所付き合いは子供たちの面倒を勝手に見るくらいで、ほとんどない。アパートの親たちはどこか皆影を持っていて後光が差すような筋肉を持つ僕らには話しかけてはこない。ただ子供たちにとって僕らは誘蛾灯のようだったらしく、よく懐かれている。ふと僕は子供たちがコンビニでのたうち回って死ぬ蛾の様になってしまわないかと考えるときがある。嫌な予感がする。その予感の主がこのアパートにはたくさん潜んでいるから。はげたでかい入道みたいなオッサン。こいつは名物おじさんで一番危険視している。平坦などこか人間味のない笑い方、何より口数が少なくて人間性が分からない所もそれに拍車をかけている。少ない口数の癖にブツブツと独り言は多い。子供に変な模様と写真の付いたお菓子と本をよくあげているのも勘に触る。もう一つは子供の下着だとか、靴下が盗まれた事件だ。

あまり大事にしたくなかった住民たちによってこの事件はうやむやになった。住民たちと書いたが、正確には個人でしわがれたばあさんの鶴の一声誰もなにも言わなくなった。きっと誰もが犯人はあいつだといった目をしていた。ばあさんの一言はこうだった。「生贄に選定されたのです、光栄でしょう。衣服たちは天へと上り我が神への捧げものとして献上されたのです。光栄でしょう。ああすぐに迎えが来ますとも。そうです。そうなりますとも。」

 それを聞いた主婦たちは何も言えなくなった。鶴でも何でもないただの狂気。狂人に誰も関わりたくなかったから、誰もこのことを話さない。


 ある日あの入道、正道というらしいおっさんの部屋に子供が二人入っていくのを見た。その時は妻も一緒だった。

「あれどこの子かしら。」

「さあ、にゅうど、正道さんの息子さんなんじゃない」

「あのおっさん正道っていうの」

「らしいよ。主婦さんたちが名前聞いたって」

「ええ、よく話しかけられるわね。あんなでかいおっさん。」

「僕ら筋肉バカでも無理なのにね。その主婦さんいわく家の中には3人子供がいたって。」

「え、家に入ったってこと。」

「そうらしいよ。なんか変な祭壇と天井が鏡になっていて変な気分になったって、ここにいるのにいないみたいな。」

「どうかしましたか?」

「あ、主婦さん。丁度いいところに、いまあの正道さんの部屋にお子さんが二人入っていくのを見て」

「へ、そ、そうなんですか。」

「女の子二人だったわね。」

「三人子供がいるって聞いていたので何か、手がかりをなんちゃって。探偵ごっこですね。夕飯前の。」

「夕飯は鍋にするんですよ。良かったらどうですか。お子さんにお世話になってますし。」

「いや、そんな悪いですし。大丈夫ですよ。」

「遠慮しなくていいんですよ。ね。ゴッド松本もそういっていますし。」


(空回りするマッチョ二人、筋肉との対話はうまくても人との会話はド下手クソなのである。2人はいわゆるコミュ障だった。ゴッドは大学時代、ヒョロガリのいわゆるガリ勉タイプ、バッドは腐女子だった。BL、百合、ケモナー、ゴスロリ趣味すべてを併せ持っていた。まあ今の二人にはそんな面影なんてこれっぽちも無いので今見たいなことが起こる。っとはなしに戻ろう。僕の思考で遮ってしまった。)


「女の子はいませんでしたよ。あの部屋の中に」

三人は何も言えなかった。そのまま何も言わずにそれぞれの部屋に戻った。

そして誰一人朝を迎えることもなかった。



僕は子供が好きだ。あの伸びる余地を残したぷくぷくとした手足、まんまるの目、純真さの写った。何の疑問も悩みも持たずただ生きているだけで幸せで、元気に生きる事だけが仕事な子供たちが。おいしい物も楽しいことだって僕よりも知らない、知らないままでいてほしい。そう思うことがある。そのため僕は特に不幸な子供が好きだった。誘拐しやすいのもそうだけど何より、死にたい死にたいと言っている子供でもいざ本当に殺されるとなると殺さないで、助けて。と自分を不幸にした親と生に縋るところが愛しい。愛しくてたまらなくなる。そんな子供には何度も死なない苦しみを与えてやる。何度も安堵した顔を見せてくれる。今日も生きている。と実感している苦痛に歪み切った顔を。そんな子供もすぐに死んでしまう。死んだら僕の腹の中。

 何より好きなのは仲の良さそうな男の子と女の子にまぐわいをさせてそのあと、殺し合わせる事。これはリスクもある。普通の家庭の子供を誘拐するのだから当然だ。きっと僕はもうすぐ捕まる。最近は警察も主婦たちの目も厳しくなってきた。ならいっそ見せてしまおう。かと二人がまぐわいをしている間、考える。女の子が泣きだす。男の子が動きを止める。男の子を部屋の四隅の鉢植えの観葉植物を持って殴る。さっきまであんなに動いていた男の子は動かなくなった。そしてまた、目の前で男の子を捌き女の子にそれを手伝わせ、一緒に食べる。料理をするのは女の子で、泣きだしてしまったので女の仕事だろ。と言って殴ると泣くのを我慢してフライパンで男の子の腎臓を焼いた。うまかった。

 残った分は冷蔵庫で保存をし、何度かに分けて食べた。お菓子も作った。そして配った。

女の子が邪魔になってきたので二階に住む同じ趣味を持つババアに預けた。そのあとの事は知らない。


追加で3人誘拐する。物心の付いていないような子供。3兄弟のようだった。それぞれ10歳、9歳、8歳。このころには美味しそうなことも子供を選ぶ条件に入り始めていた。特に面白いこともなく三人は僕の腹の足しになった。ああそういえば主婦を招いた。まるで恋人同士だった。


ちょっと前に二階のババアが僕を庇ってくれた。

ババアに預けていた子供と、ババアと一緒に住んでいた孫を誘拐。いや強奪して部屋に連れて帰る。ババアは部屋で血を流して倒れてしまった。僕は何だか死ぬべきな気がした。部屋に二人を連れていく途中でボディビルダー夫婦とあの主婦に姿を見られてもうどうしようもないといった焦り、ここまで誰にも見られていなかったことの反動が来たのか。そう思った。それに、心中に興味もあった、三人で心中なんて素敵とも思った。2人には上等で可愛らしい服を着せてやり、夜中ガソリンと灯油を部屋中に撒いた。ガスの栓も開けて、震えて何も言わない2人にマッチを渡した。まるでマッチ売りの少女のようだった。つけろと、恫喝した。震える手ではマッチが付かない。代わりにライターを渡し、つけさせた。

 大爆発だった。胃の中まで燃料でパンパンだった三人は良く燃えて灰も残らないほどだった。古いアパートで木造だったから、全焼して全員亡くなった。近くの家にも燃え移り大騒ぎになった。また燃えたアパートから子供13人ほどのDNAが見つかってそっちでも大騒ぎとなり。そこそこの有名人、ネットのミームにもなったことのある二人のボディビルダーの死には全米が涙した。その朝は灰がよく降っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ごり @konitiiha0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ