真宵猫ー猫又

 れいがカレンとの戦闘を繰り広げている中、先生ことリリムは村長夫婦と対峙していた。


「ふむ、お嬢ちゃんは彼を助けに行かなくてもよろしいのですか?」

「ええ、怜なら大丈夫だと信じているから。」


 そう言って不敵に笑うリリムの表情を見た古佐目ふるさめの頬に何故か冷汗が流れる。


 なぜ私はこの子供と対峙するだけでこんなにも冷汗が止まらないんだ!?相手はただの子供だと言うのに……。


 古佐目ふるさめは村長と言う職について約四十年が経った。村長という職は考えていたよりも大変であり、多くの経験を培えた。


 神々しいあのお方とも村長という職に就いたおかげで出会うことができた。


 その経験を培ったからこそわかる。この子供は危険だと早く排除しなければと警鈴を鳴らしている。


「あまり子供を殺したくはないのですがあなたは私たちの計画の邪魔になりそうなので排除させてもらいますよ。」

「そう、まあ頑張りなさいな。私を殺せるように、ね?」

「ふふ、その減らず口をすぐに歪ましてあげますよ。来なさい、猫神!!」


 言うと鈴の音が鳴り古佐目らの後ろから拝殿ほどの大きさのそこかしこに穢れを纏った二又の化け猫が姿を現した。


「猫又……。」

「お嬢ちゃんは博識だね~そうだよ、この子はこの村の守り神だった子でね。無礼にもあのお方に逆らったから今はほら私に忠実な手足となっているんです。」

「……。」


 この神社の守り神をしていたというのは本当なのだろう。穢れに汚染されていて弱っているが半神半妖特有の神聖を少しだが確認できる。


 だからこそ不思議でならない。


 半神半妖は旅館で怜にも行ったことだが半分は神へと成りあがっているためそれ相応の力を持っている。


 例えばカレンの強さを人類兵器で例えると戦車や大砲レベルの力を持っている。怜だと片手拳銃程度だろう。それに比べて半神半妖は強さはまちまちではあるがほぼすべてが核兵器並みの力を持っていると考えていい。


 そんな半神半妖を支配しようなど普通の人間には無理だろう。逆に返り討ちに合うのは目に見えている、けどこいつらというかこいつらの言うあの方というのがカレンの時と同じように穢れを使って支配したのだろう。


 穢れを操る人間……まあ人間と決めつけるのは良くないが帰ったら調べるべきだろう。


「猫又よ!ここにいる雑魚ども皆殺しにしてやりなさい。」


 古佐目が猫又へと命令すると明らかに苦しむ様子を見せる。


「ぅぐっ!……た……す……ゖ……。」


 まだ意識はあるようだが体の主導権は古佐目に握られているらしくこちらへと牙をむく。


「――――ッ!……すぐにそこから解放してあげるからほんのちょっとだけ待ってなさい。」

「ははっ!面白いですね、どうやって解放するつもりなんですか?」

「こうするのよ。」


 言うと瞬間、猫又の地面から猫又の全身を覆うほどの大きな魔法陣が展開され光で猫又を包み込む。


「なっ――――!?」

「……仕留め損ねたわね。」


 光が消えるが猫又の姿が見えない。どうやら妖怪特有の自身を霧のように変える霊体化で逃げられたようだ。


「は、ははっ!お、驚かせないでください。」


 気配を探っていると怜がいる上空に気配が感じ取れた。


 急いで怜へ視線を向けるとどうやら怜もカレンを見失っているようで辺りに視線を向けている。


「怜、上!」


 魔法で援護することもできたがそれだと約束を破ることに繋がるので怜を信じて状況だけを伝えることにした。


 すると思惑通りその言葉だけで現状を理解できたらしく水の膜を張り二人の攻撃から見事に身を守る。


「あれは~怜のオリジナル魔法ね。たしか―――【二級魔法:死海領域しかいりょういき】だったかしらね。猫又の方には気づいていないようだけど上手く防御できているわね。」


 もう怜の心配はしなくてよさそうね。なら、私は私のやるべきことに注力しましょうか。


 改めて猫又に目をやると怜を狙えないと判断したのか怜から離れ、次なる獲物に狙いを定めている。今度の狙いは吊るされ気絶している荊芥らしい。


 爪を研ぎ澄ませ獲物へと飛び掛かろうとしている猫又を石壁を作って邪魔をする。


 さらに追い打ちで猫又を石壁で覆い閉じ込め、霊体化を無力化する結界を張る。

 

「グゥルア―――!?」


 もう猫又本人の意識はないらしい、早く楽にしてあげるべきね。

 

 最初の魔法は発動までに少し時間が必要だった。そのため回避が間に合ったのだろう。だから次は逃げれないようにすればいい。


「グゥルガアアッ!!!」


 時間稼ぎのために作った土壁を強引に壊し今度は霊体化阻止の結界を破壊しようと暴れ出す。


 このままなら壊れるのも時間の問題だろう。まあもう壊れる前に決着は着く。


 準備は終わった。すぐに楽にしてあげる。


「【一級魔法:楽園神犯ロト・レイナス】」


 先ほどと同じように巨大な魔法陣が起動し結界ごと猫又を飲み込む。


 もう逃げ場はない。光は一瞬にして猫又を飲み込むと猫又の悲鳴と共に結界と光が消える。


 光が消えると子猫ほどの大きさに縮んだ猫又が横たわっていた。


 近寄り猫又を抱き寄せて穢れを確認する。どうやら穢れは内部に至るまですべて浄化できたらしい。


「ど、どういうことですか!!??なぜ猫又が縮んで……!いや、それよりもあなたのそれは魔法……ですか?」


 何をいまさらなことを聞いてくるんだと首を傾げるリリム。


 あっちでは魔法をバンバン使い戦闘を行っているし、最初にも楽園神犯ロト・レイナスを使っていたのを目の前で見ていただろうに何でいまさらそんな質問をするのだろう。


「さっきから使っていたでしょ。」

「な!?ま、魔術ではないのですか!?」

「魔術?あんなちゃちなものとあなたは勘違いしていたの?」


 魔術は魔法の完全な下位互換、というか魔術は簡単に言えば手品の延長線だろう、超能力よりも格下の力だ。


 魔術とは人間が人間でも魔法を使えるように創りだしたものだ。


 まず魔法は魔女しか使うことができない。例外として怜やカレンなんかが当てはまるが普通の人間にはどれだけ魔法の理論に理解があっても使うことはできない。なぜなら魔法を行使するにはまず体内に魔力回路が無ければならないからだ。


 人間には魔力回路は絶対に発現しないため魔力回路がなくても魔法を使える手段を探し出し見つけ出したのが魔術だ。


 正直魔術を見つけたときは初めて人間に関心を持つことができたが結局は魔法の劣化版に過ぎず三級魔法以下でしかないため興味はすぐに尽きた。


「ま、待ってください!じゃああなたは魔女擬き《ウィッチクラフト》なのですか?」

「はあ~あなたは本当に勘違いしている。まあ無理もないかな、カレンを操れたことで天狗にでもなっているのでしょう。自己紹介、はしても私のことわからないだろうけど一応礼儀だししてあげる。私の名前はリリム=ヴェル=ヴァーミリオン、巷では災禍の魔女なんかの名で呼ばれているわ。短い間でしょうけどよろしくね。」


 スカートの裾をつまみ軽く会釈する。


 顔を上げたとき見えた古佐目の顔は恐怖と驚愕により青ざめ歪んでいた。


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