第11話

 志村は、ウォーキングしながら、文京区に初めて住んで以降、もう10年以上も経過したのかと、様々な出来事を回想していた。

 2023年12月2日の土曜日の早朝、志村は、久しぶりに、ウォーキング途上、以前、住んでいたロイヤル小石川周辺を訪れた。そのマンションの1階には、いくつか店舗が出店しているのだが、10年前と比べて店舗の一部は入れ替わっていた。雑貨のアンティークを扱うお店は小さな調剤薬局に、お酒屋さんは1,000円カットの散髪屋さんになっていた。

 9時オープンを前にして、その簡易散髪屋さんの前には行列ができていた。志村は、先頭から6番目に並んだ。昔ながらのひげ剃りとシャンプーが付いたフルサービスの散髪に慣れていたので、興味深々だ。

 9時になり、自動ドアが開いて、お客さんは自動販売機でチケットを次々に購入していく。きっかり1,000円ではなく、1,350円だった。まあ、この物価高のご時世に1,000円はないだろうと自分を納得させた。

 店員は4人もおり、1番目から4番目のお客さんは早速カットしてもらえるようだ。5番目のお客さんと志村は、番号が付された待合席に座ったが、先客は10分程度でカットされ、ひげ剃りとシャンプーはなく、頭を掃除機で吸い取られて終了となるので、すぐに順番が回ってくる。

 志村は、チケットを店員に渡して、リュックサックや手提げカバンを備え付けのスペースに置いた。

「裾周りにバリカンを入れて、全体を漉いてください」

「バリカンは標準では9ミリです。それより短いバリカンもありますが、いかがいたしましょうか」

「9ミリで結構です。あまりこだわりはありませんから、適宜、カットして整えてくれればいいです」

 若い男性スタッフは、あっという間に手際よくバリカンで裾周りを整えて、ハサミで全体を漉いてくれた。一応、カットし終わってから、手鏡を後頭部に当ててくれて、髪の長さに問題がないかの確認を求められた。志村は、この値段で確認もないだろうと考え、こちらで結構ですと口にした。その後、掃除機でカット仕立ての頭を丁寧に吸い取ってくれた。

 トータル時間は15分ほど。タイパを重視する若者、節約思考の中高年、更には、年金暮らしのお年寄りには、この種の簡易散髪屋さんは流行するだろうなと、志村は思った。

 

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