【オマケディスク4】お約束のバレンタイン④
取り残されたメンバーはそれぞれ、座卓の上に並べられた料理に改めて視線を落とした。
「……この準備、全部よし子がやったのかな」
ブドウをチョコに浸した
「そうだギョリュ。俺たちは買い物すら手伝ってないギョリュ」
バケットをチョコに浸しながら、
「いつの間に。そんな暇はなかった筈だが」
ローストビーフをつまみながら、
「……夜中、仕事から帰ってきた後に、車で二十四時間やってる量販店に行ってたみたいだよ」
「俺たちの為だけに……そこまでしてくれたのか」
手にしたマシュマロを皿の上に置き、
「基本、よし子はお前たちの為ばっかりだぞ」
そう付け足したのは、座卓の上にあるローストビーフを狙って手を伸ばす
「実は、仕込みは昨日から始めてたピュシャよ」
「カレーとローストビーフは昨日、仕事からお帰りになった後から作ってらっしゃいましたね」
そう言いながら、
ソレを聞いた瞬間、
「どっ……どうしたのっ?! 大丈夫?!」
その様子に心配した
「……よし子が
胸を両手で抑えながら、
「そうヌミョな。俺たちに何も興味はないと言いながらも、そんな事をするヌミョからな」
「コレが愛情じゃなきゃ何なんだろうな、全く……」
冷蔵庫から缶ビールを何本か持ってきた
「愛情だピュシャな。ミーにも望みはありそうだピュシャ」
「ないよ」
嬉しげにそうさえずる
「よし子もミーを愛してるって言ったピュシャ!!」
「よし子は誰にでもああ返事すんのっ!」
「全股プレイピュシャ?!」
「よし子はボク一筋だよっ!」
「それは百
「鳥類に言われたくないね!」
「よし子は、『寒い』って言うと手のひらや服の中に入れて暖めてくれるピュシャよ?!」
「そんな事してんのっ?! エロインコ!!」
「悔しかったら鳥になるピュシャ!」
「悔しくも羨ましくもないねっ! やる事やれない体になんかなりたくないもん!」
「ピシャア!!!」
ガルガル言い合いをする
「……何してんの」
そこへ、大きな紙袋を抱えたよし子が戻ってきた。
「エロインコを焼き鳥にしてやろうかと思ってた」
「寝てる間にその黄緑の眉毛全部抜いてやるピュシャよ」
「よし子は塩とタレ、どっちが好き?」
「眉毛ナシの顔はさぞかし滑稽ピュシャな」
「喧嘩しないの。何が原因?」
よし子は紙袋を傍に置いて、今にもお互いの羽と眉毛を
「……面倒臭い嫉妬のしあいだよ」
呆れた顔で、
「ところで、その紙袋は何だ?」
カサカサと音のする紙袋に、興味津々で首を突っ込もうとする
彼の体を抱き上げて自分の膝に乗せたよし子は、紙袋をゴソゴソと漁った。
「ホラさ、みんな、一応戸籍作る時に誕生日書いてたじゃん? なんだかんだで去年誕生日、祝えなかったから、今回まとめてやっちゃおうかと思って」
紙袋の中から、さらに紙袋を取り出したよし子は、ソレをグイっとまず
「ハイこれは
その言葉を、目をまん丸にして驚く
「……俺にギョリュ?」
「そうだよ。ハイ、どうぞ」
彼は、目を
「開けてもいいギョリュ?」
紙袋を覗き込んだ
「勿論」
よし子が笑って頷いたので、
「……おお! コレはっ……」
「欲しいって言ってたから」
「ありがとうギョリュ!」
彼は嬉しそうに、ボディバターの香りを嗅いでいた。
「こっちは
次に取り出した封筒を、今度は
「俺にもあるヌミョ?
「当たり前じゃん。コレは
いつも
「いいのかヌミョっ?!」
「うん。前にテレビCM見た時に、行きたいって言ってたでしょ?」
よし子のその言葉の通り、
「チケットは二枚あるから、誰かと行ってもいいし」
よし子がそうニコニコして告げると
「嬉しいヌミョ。よし子ありがとうヌミョ!!」
「俺もか?!」
さっきまで畳を突っ伏していた
「勿論。ハイ、どうぞ」
そんな
「……コレは……」
「開けてみなよ」
手を震わせる
「いいのか?! 本当にいいのか?! こんな素晴らしい物を!!!」
「そうだよ。ハルトへと誕生日プレゼントだからね」
よし子がそう笑うと、
畳みに突っ伏した状態でモゴモゴと
「これでよし子に毎日愛の詩を
そう呟いた
「それはウザいからやめろ」
スンとした顔で、よし子はツッコミを入れていた。
「で、コレはナーシルの」
次に取り出した少し大きめな箱を、
「……ありがと」
少し照れた様子で唇を歪ませた
「……コレ……」
「バリスタになるには、まずは道具でしょ?」
「……高すぎるんじゃね?」
「いや、正直、そこまで良い物は用意出来なかったんだ。だから、コレを手始めとして、そのうち自分で良いのを選んでね」
そんなよし子の言葉に、
「次はボク!!」
そう言って、畳に突っ伏す
「ハイ、これはスヴェンへ」
よし子はまた封筒を取り出して、ウキウキしている
物ではなさそうな事に少し肩を落とした
「いいのっ?!」
「勿論」
「よし子っ! コレ、一緒に見に行ってくれるっ?!」
「アタシでいいの?」
「よし子がいいのっ!」
「了解。今度タイミング合わせようか」
膝立ちになって興奮する
「イグナート」
座卓の前から動かなかった
ゆっくりとした動作で立ち上がった
「……ハイ、コレ、プレゼント」
若干眉根を寄せて微妙ーな顔をしたよし子だったが、再度
今度は普通に
紙袋の中を見て、目を大きく見開く
「……イグナート、そういうの好きなのかな、と思って」
よし子が少し顔を歪めながらもそう言葉を続けると、
「前に、雑誌でそういうの眺めてたでしょ」
「気づいていたのか」
よし子の言葉に、目尻を下げて嬉しそうな顔をした
「愛してる、よし子!」
素早く箱を脇に置いてよし子を抱きしめようと腕を広げたが、その顎をガッとよし子に
「ガブリエルには……コレでいいかな」
「……なんだ? ソレ…………ッ?! それは!!」
「またたび入りのオモチャ。またたびって、ガブリエルにも効くのかな?」
「効く! 効く!! 効く!!! 早くソレ! ソレをくれ!!!」
よし子の膝の上からガバリと立ち上がった
その勢いに負けてよし子がオモチャを
「ラファエルにはコレ。……っていうか、本当にフリスビーでいいの? もっと他にも、色々あると思うんだけど」
よし子が紙袋から取り出したフリスビーを見て、
「いいんです! これが欲しかった!! 明日! 明日コレで遊びましょう?!」
興奮した様子でよし子からフリスビーを受け取ると、
「あ、うん。了解」
「そして、上手くキャッチできなかった私を
「それは嫌」
ウッキウキ興奮しながら言い募る
「最後はミーピュシャなっ!」
ウッキウキした様子でよし子の肩に飛んできた
「コレピュシャ! コレピュシャ!! コレピュシャっ!!!」
よし子の肩の上で、頭を上下にブンブン振って踊る
「……もう、心からインコになったの……?」
少し心配げにそう呟くよし子。
「この身体では娯楽が少ないピュシャ!」
「そ、そう……か? パズルで遊んだり、自分でDVDセットして映画とか見てたじゃん……器用に」
「身体を使って遊びたいピュシャ! この世界では音速で飛べないピュシャ。つまらないピュシャ!」
「……ゲーム世界では音速出して飛ぶ事が、娯楽だったの?」
「そうだピュシャ!」
ウッキウキする
すると、よし子の肩から畳へと降りた
全員に誕生日プレゼントを配り終わり、全員が嬉しそうな顔をしている事を確認したよし子は、満足気に笑った。
「遅くなってゴメンね。あ、誕生日プレゼントも今日のバレンタインも、アタシの普段のお礼を兼ねてるから、お返しはいらないよ」
そう笑ったよし子に、全員の顔がキッと険しくなったり驚きになった。
「何言ってんのっ!? お返し考える楽しさを奪うつもり!?」
速攻で首を横に振ったのは
「そうだぞ! よし子! 俺はこの万年筆を使ってよし子への愛を
「いや、愛を
「じゃあSNSに──」
「絶対やめろ。チラシの裏にでも書いとけ」
「分かった」
胸から溢れる愛情を言葉にしたいだけの
「よし子に贈り物をしたいという気持ちは否定しないで欲しい」
そう重く口を開いたのは
その言葉に、そうか、と思って
「いや、イグナートはお金気にせず凄いモン買って来ちゃうじゃん。そういうのはいらないって言ってんの」
彼が初給料日に高級ピンヒールを狩って来た事を思い出し、よし子は半眼でそう突っ込んだ。
「気持ちは否定してないよ。嬉しいし。でも無理しないでって事。アタシは形ある物じゃなくっても、毎日
そう苦笑するよし子。
さすが、乙女ゲームのキャラたち。分かりやすい程に分かりやすく、自分の気持ちを表現するよな、とよし子は心の中だけで思った。
世間の乙女たちがゲームに癒しを求めるのは、きっとそういうのが欲しいからなんだろうな、アタシはなんて贅沢なんだ、と続けて思う。
「じゃあ毎日、ミーはよし子に歌をプレゼントするピュシャ」
「いや、それも、ちょっと」
やっぱり面倒くさいわ。
それぞれが自分の思惑を胸に抱えて、プレゼントを
あの日と同じで、今日も楽しい日だったから。
社会人になってから、バレンタインデーは面倒くさい日だった。
若い頃は贈りたくもない会社メンバーや上司に対して、気を使って配らなければならない日であったし、部下が出来てからは、くれる後輩や部下から気持ちを害さない程度にやんわり断ったり、お返しに頭を
しかし、今日の為に色々準備したのは、よし子にとってクッソ大変ではあったが楽しかった。
どんなのを用意すれば楽しんでもらえるか。
相手は何が好きで、どんなものをプレゼントすれば喜んでもらえるか。
別に好きでやっているワケではない仕事に比べれば、それを考えている瞬間が楽しかった。
こういうイベントが、こうやって生活をより楽しむ為にあるんだって、忘れてたわ。
よし子はふとそう思い、頬を崩した。
「よし子」
「何?」
「よし子へのお礼として、インターネットで購入したいものがある。金はあとで支払うから決済してもらいたい。スマホにURLを送る」
「え? 何?」
スマホを手にした
「まぁ、正確に言うと、プレゼントを彩る為のちょっとしたスパイスだがな」
形の良い唇を少し引き上げ笑う
「……チョコソースは絶対買わんぞ」
「それは楽しむ為のスパイスだ」
「何のだよ」
「それは──」
「やっぱいい。言うな。聞きたくない。絶対聞かせるな。そして、買いたくない」
よし子は一瞬にして能面となり、
了
【カクヨムコン9】乙女ゲームの中に転移してしまったんだけど、普通に嫌なのですぐ帰りたい。 牧野 麻也 @kayazou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます