【オマケディスク3】お約束のバレンタイン③
さぁ出かけようと、
「あれ? 出かけるの?」
台所から、よし子がひょいっと顔を出してから声をかけた。
「待ちきれないから、ちょっと散歩行ってくる!」
「少しエネルギーを発散しないと爆発しそうだ」
何故か顔を上気させた
「あー。待たせてゴメン。もうできるよ」
よし子は携帯コンロとガス缶を持って居間へと出てきて、座卓の真ん中に置いた。
「ナーシル、スヴェンはまだだけど、二人の分は残してあるから、お腹空いただろうし先にやるよ」
台所に戻りながら、よし子はポケットからスマホを取り出し、まだ仕事から帰ってきてない二人へとメッセージを送る。
よし子は、送ったメッセージアプリに「既読」のマークがついた事を確認すると、そのままポケットへとスマホを──
「「間に合ったァーーーーー!!!」」
スパンと開かれた玄関戸の所からあがったそんな叫びに驚いて、よし子はスマホを取り落とした。
声をあげたのは、スマホを握り締めて玄関先に仁王立ちして肩で息をした、
「二人一緒に帰ってきたのか!?」
驚いた
「同じ電車だったみたいなんだよね! 改札出たトコで一緒になったっ!」
寒さに晒されたからか、頬っぺたを真っ赤にした
「自転車めっちゃ漕がされたわ……膝ガクガク。車より先に、原付の免許とろうかなぁ……」
靴を脱いであがってきた
「間に合ったみたいだね。じゃあ全員分並べるよ」
スマホを拾ったよし子は、ソレを尻ポケットへと戻すと、台所へと引っ込む。
「手伝うギョリュ」
「俺もヌミョ」
そう言って腰を浮かそうとした
「今日はいいから。座ってな」
台所から大きな土鍋を持って現れたよし子が、そうヤンワリと拒否した。
よし子は手にした土鍋を座卓の上に置かれた携帯コンロの上に置く。
戻ってきた
「……これは」
目をパチクリとさせた二人に、切ったバケットが大量に積まれた大皿と、果物やお菓子等が大量に乗った大皿を両手に持ったよし子が笑いかける。
「チョコフォンデュだよ。リクエストだろ?」
そう言って、よし子は手に持った大皿を座卓の上へと置いた。
土鍋の中にはお湯がなみなみ入れられており、お湯の中に並べられていたのは、鍋の具材ではなく耐熱の器が三つ。
その三つの耐熱の器の中には、茶色い液体と白い液体が入っていた。
「こっちが普通のチョコ、こっちがビター。白いのがホワイトチョコだから」
土鍋の中を指さしながら、よし子はその場にいるメンバーにそれぞれ説明をする。
「フォンデュだと専用の器具が必要だけど、このためだけにそんなモン買ってられないから、これが代用ね」
そう言って、今度はよし子はその場に竹串や小皿など、必要そうな道具を並べていった。
「……とうとう来てしまったのか、この日が」
「大人への階段だな、ハルト」
「俺も昇るよ、イグナート」
「良かったな、ハルト」
「アホな事言い合ってんなよハルト、イグナート」
台所から出てきたよし子は、ピシャリと二人へとツッコミ。持っていたお盆に乗っていた器を、それぞれの前へと置いていった。
「……カレー?」
それを見た
「チョコフォンデュだけじゃ夕飯にならないでしょ? カレー作った。バケットはどっちに使ってもいいよ。ここにある以外にもまだあるから」
台所に戻りながら、よし子はそう笑った。
「いーなー! お前たちだけズルいぞっ!」
そう叫んで立ち上がったのは、猫用ベッドで寝ていた
「そうですよ! なんで貴方たちばっかりそんな羨ましい! 普段からよし子様を癒しているのは我々なのに!」
同じく不満そうな声をあげたのは、ハーネスを外してもらって体を震わせた
「完全同意だピュシャ! 動物差別だピュシャ!」
鳥かごの中から出てきた
「だってお前ら、チョコ無理じゃん」
台所からサラダを乗せたお盆を持って出てきたよし子は、お盆を置いて配膳しながら首を小さく横に振る。
「そりゃ食べられないピュシャ! しかし気持ちの問題ピュシャ! ミーたちも何か欲しいピュシャ!」
羽をバタつかせて抗議する
「誰がお前たちにはナイって言った?」
そう、少しイタズラっぽく笑った。
「えっ!?」
「あるんですか!?」
よし子の言葉を聞いて、
「コレはアンタたち用だよ」
そう言って、よし子は冷蔵庫の中から大皿と小皿を出して来た。
そこに乗っていたのはローストビーフ。
「コレは下味付けずに作ったから、そのままであればアンタたちも食べられるよ。人間は薬味付けて食べてね」
よし子は、大皿の方をテーブルの上へと置き、小皿の方は畳の上へと置いた。
すかさず皿に駆け寄った二匹に
「シット!!!」
よし子から鋭い声が飛ぶ。
声にビクリと体を硬直させ、
「いただきます、の声かけまで待ちな」
そう言われ、二匹はローストビーフが乗った皿の前で大人しく伏せをして『待て』の姿勢になった。
「ミーの分はないピュシャ!?」
「あるって。落ち着けって」
自分の耳元で
「!! これはっ!?」
信じられない、といった風に体を震わせ皿のフチへと留まる
「小鳥用のミックスナッツ。食べ過ぎるなよ?」
「よし子愛してるピュシャ!」
「ハイハイ、アタシもだよ」
そう言って、よし子は
最後に、全員分のコップと飲み物を持ってきたよし子は、全てをセッティングしてから、やっと自分の座椅子へと座る。
それ以外の全員も、座卓の自分の席へとついた。
「ハイ、お待たせ。夕食兼バレンタインデーのプレゼントです。どうぞ、ご賞味ください」
そう言って、よし子は自分用のお茶が入ったコップを掲げる。
「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」
その場にいた全員も、自分の飲み物が入ったコップを掲げて声を揃えた。
「お菓子は、まぁなんでもアリかな、と思って色々準備した。ポテチとかマシュマロとか、変わり種で煎餅とか柿の種とか。まぁ、色々。合う合わないは好みかな、と思って適当に。
果物はイチゴ、キウイ、オレンジ、バナナ、ブドウ。人間用のナッツもあるよ。あ、
チョコも具材もまだ沢山あるから、足りなくなったら言って?
今日はアタシが動くから、みんなは動かなくていいよ。
それも込みの、プレゼントだから」
よし子はお茶を座卓に置いて、指さしながら説明する。
言われてそれぞれが腰を浮かし、好みの具材を持って土鍋の周りへと集まった。
「よし子! コレうまい!!」
「おいしゅうございます!」
皿の中に顔を突っ込んだ
「このナッツ旨いピュシャ! 普段からもっと食べたいピュシャ!」
桃茄子も、ナッツを
「適度にオヤツとしてな」
喜ぶ
「あつっ!!」
チョコにひたしたイチゴを頬張った
「火にかけてるんだから熱いよ。気を付けて食べな」
まるで子供を見るかのような優しい目で、よし子はそう笑った。
「……イグナート。これではよし子の足に垂らせないぞ。よし子がヤケドしてしまう」
「そうだな。別途チョコソースでも買ってこよう」
「いらんわ。やめろ」
そんな
「……ポテチ、意外といけるな」
チョコがかかったポテチを一口食べた
「ボクはやっぱり王道のマシュマロだなー」
チョコから取り出したマシュマロをフーフーした
「よし子のカレー、美味しいギョリュ」
「
カレーにバケットをつけながら、頬を崩す
「あー、アタシのカレー、チョコとコーヒーとバターが隠し味で入れてあるんだよね。コレは佐藤家母のレシピ。あと、今日はご飯じゃなくてバケットだから、キーマ寄りに作ってあるし」
よし子はサラダをつつきながら、そう笑った。
「……よし子は料理ができるんだな」
そう、意外そうな顔をしたのは、チョコをオレンジにつけた
「そうか! イグナートはよし子が料理をしてるのを、ほとんど見た事がないのか!」
そう言って、
「この世界に来たばかりの頃は、俺は料理があまり出来なかったギョリュよ。
俺に料理を教えてくれたのは、よし子とオレンジ◯ージだギョリュ」
「いや、
適材適所で役割を決めたんだよ」
そう付け足したよし子の脳裏には、最初の頃の記憶が蘇る。
特に
人付き合いが上手く口調も普通である
「……みんなが来てから、もう一年か……」
お茶を一口飲んでから、よし子がシミジミとそう呟く。
アチアチいいながら、楽しそうにフォンデュを楽しむ
カレーに舌鼓を打ちながら、美味しい美味しいと笑う
「あ。そうそう。忘れないウチに」
そう言って、よし子はヨッコイショと腰を上げる。
「どうしたギョリュ?」
「何か手伝うヌミョ?」
そう尋ねる
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