【オマケディスク2】お約束のバレンタイン②
「……も、盲点だった……」
そう、頭を抱えて座卓に突っ伏したのは、
「そうギョリュな」
「でも改めて考えると、まぁ当たり前な気もするヌミョな」
座卓を挟んで
「ボクはまさかって感じ」
珍しく困った顔をしている
「俺は断れなかった」
何故か一人、得意げな顔をする
「? 盲点でもないだろう? いつも通りだ」
一人、
その様子を、今しがた帰宅したよし子が、冷めた目で見下ろしていた。
その両隣には、狛犬よろしくお座りして従う
バレンタイン当日。
よし子の「当日は無理。次の土日に順延な」という言葉を受けて、佐藤家のバレンタインデーは、その週の土日へと後ろ倒されたが──
居間の座卓の上には。
それぞれが貰ったプレゼントやチョコが、山積みされていた。
「俺たちへのよし子の態度に慣れ過ぎてて、自分が乙女ゲームのキャラだって忘れてたわ……」
前髪を掻き上げつつ、ゲッソリという顔をする
「どういう事ピュシャ? バレンタインデーに、よし子以外からもらう事を想定してなかったピュシャ?」
よし子の肩に留まった
その言葉を受けて、
「まさか、お客さんとかバイト仲間とかから貰う事になるとは思わなかった……」
「なんでだ? ゲーム中はアホみたいに沢山貰ってたんだろ?」
よし子の足元にお座りした
「まあ、我々のゲームでは、女性から男性へ贈り物をするイベントではありましたが、体質的にチョコは食べられないので、クッキーでしたけどね」
自分の耳をカイカイと後ろ足で掻いた
「……あれ? お前らってケット・シーとクー・シーって妖精じゃなかった? 普通の犬猫と同じでチョコNG体質なん?」
二匹の言葉に、引っ掛かりを覚えて、腕組みして二匹に問いかけるよし子。
「プロデューサーのこだわりピュシャ」
「お前達のゲームの開発会社とかプロデューサーって、こだわるトコ間違ってね?」
「間違ってないピュシャ」
「いや、本物の犬猫じゃないのにキャラが体質的チョコNGとか、ナビキャラが音速で飛べるとか、なのに世界観と魔法設定がザルとか、変だって」
「変じゃないピュシャ! それがあの会社のアイデンティティだピュシャ!」
「アイデンティティの出す場所が違ェんだって」
羽をバタつかせて反論する
「ゲームで山ほど貰ってたハズなのに、なんで今日貰う事想定してなかったんだよ?」
ギャーギャー言い合うよし子と
「なんでだろーなァ。よし子以外眼中になかった、から、かなァ……」
困ったように、ガリガリと頭を掻く
「それは事実だな」
座卓の前に腕組みして座る
「乙女ゲームのキャラって事は、ハイスペなんだよね、ボクたち。特に、外見と、声。
それさ、うっかりすっかり忘れてたんだよね。かくいうボクも、なんだけどさ」
珍しく困惑した
特に
「俺と
「岡田さんと……篠原さんと……あとは、誰だヌミョ? あんまり話した事がなかった人からも貰ったヌミョ」
「俺は、会社同僚の奥様方や娘さんたちからだそうだ。あとは、現場近所に住む女性か。断ったが……どうしても、と言われて。俺にはよし子という心に誓った
「俺も、朝のジョギングの時や、夕方の
唯一、
「……アタシは予想してたけどな」
呆れた顔をしたのはよし子。
「顔面偏差値と声帯偏差値が天元突破してっから、まぁそういう事になるだろうなァって」
ため息とともに、そんな言葉を漏らした。
「え?! よし子は俺たちの顔が好きなのかっ?!」
彼女の言葉に食いついたのは
「別に好きとは言ってねェよ」
「顔が整ってると思ってるんだろう?!」
「思ってるよ」
「なら──」
「好みじゃないけどな」
「女性であれば、誰しもがイケメン好きではないのか?!」
「顔が整ってる事は分かるよ。バランスの問題だから。でもそれが好みとは限らんて」
「じゃあ、よし子の好みは?!」
「塩顔。純和風」
「ッ……無念っ……」
よし子の返答を聞いて、
「あ。忘れないウチに、はいコレ。
アタシが後輩と部下の女の子たち、あと料理男子の後輩の子からもらったヤツな」
座卓の上に、手にした紙袋をドンと置くよし子。
「……結構な数を貰うんだピュシャな」
予想以上に紙袋の中の箱の数が多い事に、
「だから言ったろ、お返し考えるの面倒臭いって」
毎年の事なので、特に困った様子もないよし子。むしろ、自分たちが貰う事を想定していなかった、他メンバーの態度に呆れた顔をしていた。
「バレンタインは、乙女ゲーム必須のイベントじゃなかったんかい」
いつか言われた
「そう、なんどけどさ……」
困った顔をして
「メインは主人公とのイベントだから、モブの女の子達から貰うって……まぁ言うなれば、ゲーム中の演出?」
「そうそう。お返しとかも、イベントの延長としてお決まりって感じだったから、特に考えた事とかなかったし……」
立ったまま腕組みして少し考えるそぶりを見せたよし子は、フムと一つ呟くと、台所の方へと言って自分用のお茶の準備をし始める。
「以前、アタシの貰った分のお返しについて、アンタ達に考えてもらうってしたけど、アレ、やっぱナシな」
そう居間にいるメンバーに声をかけながら、電気ケトルに水を
「アタシが貰ったんだから、アタシが考える。やっぱくれた相手に失礼だし」
お湯が沸くのを待ちつつ、よし子は居間で難しい顔をしているメンバーの顔をそれぞれ見ていった。
「だから、アンタ達も自分がもらった分について、ちゃんと考えな。お返しは一か月先だし、時間的余裕もあるしさ。
人生で初めて、貰った人の事とかもらった物の事を思いながら、お返しについて考える。うん、いい機会じゃん。人生はそれの繰り返しよ」
そう言ったよし子は、ウィンクを一つ、居間のメンバーに飛ばした。
その飛ばされたウィンクを、掴みにいった
「まだまだ甘いな、ハルト」
「くっ……次こそはっ……」
悠然と、物理的には存在しない空虚な「ウィンク」という概念を笑顔で飲み込む
もう、金輪際ウィンクとかしない、と心に誓うよし子だった。
***
「……」
「……」
「……」
とっぷり暮れた土曜日の夜の居間にて、座卓の前には
「なんかァ、この浮ついた空気が
居間の端っこに置かれた猫用ベッドの上に丸まった
「……じっとしてられん!」
「ラファエル! もう一度散歩へ出よう!!」
そう言って、ストーブの前に伸びていた
「えー……さっきも一時間たっぷり走ったではないですか」
首をゆっくり持ち上げ、
「足りない! 足りない!! 体からエネルギーが溢れそうだ! 走って解消したい!!」
それでも食い下がる
「フッ。若いな」
そんな
「そう言う殿下も、さっきから貧乏ゆすりが止まってないヌミョ」
ツッコミは
「地震かと思うからヤメて欲しいギョリュな」
その貧乏ゆすりの揺れが、微妙に座卓をカタカタ揺らしており、
「イグナートも一緒に走るか!?」
「……大丈夫だ。俺は大人だからな」
そう、余裕の笑みで断った。
「余裕なそぶりは顔だけヌミョな。貧乏ゆすりが酷くなったヌミョ」
「エネルギー有り余ってるようだギョリュから、イグナートも走って来るといいギョリュよ」
ハァ、と分かりやすい溜息を一つついた
「何度も何度も連れ出されてはかなわないので、全力疾走しますよ。お二人とも、ついてこれますか?」
仕方なさそうな顔をしつつ、
そしてそれを
「大丈夫だ! まかせろ!」
「
ハーネスとリードを受け取った
「どっちが犬か分からないピュシャな」
棚の上にある鳥かごの中から、
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