オマケディスク編
おまけディスク バレンタインイベント
【オマケディスク1】お約束のバレンタイン
【前書き】
※時系列的に、まだ弟・健太は現れていません。
*****
「よし子! 今月のイベントといえばなぁーーーーーーんだッ!?」
夕飯時に耳元で叫ばれた
一旦箸を置いて嫌そうに顔を歪め、耳の中に指を突っ込んだよし子は
「年度末の追い込み」
そう、素っ気なく返答した。
土曜日の夜。まだまだ冷えるその時期の居間にはストーブが。
ストーブの前には、大型の黒猫──
座卓の前には夕食を摂るよし子、既に食べ終わっている
思ったような返答をもらえなかった
「よし、ヒントをやろう。ヒントは、二月の大事なイベントだ!」
腕組みして鼻の孔を広げた
「節分は終わっただろ」
よし子は呆れたようにボソリと
「ハルト、諦めるギョリュ。よし子はハルトが思っている以上に枯れてるギョリュ」
「突然のディスリやめろ
食後のお茶をお盆の上に乗せて台所から出てきた
「というか。どう見ても意図してその話題を避けてるだけヌミョな」
よし子は味噌汁をぐいっとあおると、両手を合わせて「ごちそうさま」と呟く。
そして盛大に溜息を一つついた。
「……バレンタインでしょ? よくそのイベント知ってたね」
そう言って心底『面倒臭い』という顔をしたよし子は、目の前に置かれたお茶を「ありがとう」と言って口をつけた。
「そりゃ知っている! バレンタインだぞ!? 乙女ゲームでは必須イベントじゃないかっ!」
『バレンタイン』の単語がよし子の口から出たのが嬉しいのか、
言われてよし子はふと考え
「……あー、確かに……」
今思い出したかのような複雑な表情をした。
「今年のバレンタインは水曜日だっ! この土日に用意しておかなくて大丈夫なのかっ?!」
「クッソ余計なお世話、どうもありがとう」
耳元でテンション高くウキウキする
よし子は一口お茶をずずっと
「じゃあ、欲しいチョコのURL送っておいて。通販で買っとくから」
そう、ため息と共に吐き出した。
「枯れてるにも程がある!!」
そう叫んだのは、ちょうど今帰宅したばかりの
彼は居間の
「バレンタインって言ったら盛大なお祭りだよっ! お菓子業界がこの日の為に数十億円動かしちゃう日だよっ?!
なのに通販て!!」
仕事上がりなせいで、いつも以上にテンションと声が大きい
「だからァ〜、その数十億円に乗っかって、お菓子業界と運送業界にわざわざお金落とそうって言ってるのに……」
本当に、心底面倒臭いという顔をしたよし子は、かなりの圧力で詰め寄る
「乙女ゲームの基本は手作りだよっ?! 攻略対象は、主人公の手作りチョコをゲットする為に、水面下で血で血を洗う戦いを繰り広げてんのにっ!」
両手をブンブン振ってそう抗議する
「え? そうなの?」
「嘘だけど」
「呼吸するように嘘つくなや」
よし子は思わずゲンナリ。
「いや! でも、誰が手作りチョコを貰えるかっていうのは、乙女ゲーム攻略対象には重要な問題なんだ! 主人公の中の自分の価値をそこで測るのだからなっ!」
よし子は、鼻息荒くする二人を半眼で見る。
「ここは乙女ゲームの世界じゃなくって世知辛い現実世界なんだから、アタシは手作りなんてしないよ」
恐ろしく冷めた目で二人を見て、よし子はそう吐き捨てた。
「「なんでっ?!」」
再度耳の穴を指で塞いだよし子は、まるでアメリカドラマのような呆れたジェスチャーをした。
「お菓子作りって恐ろしく手間がかかるんだよ。やりたくない。
市販のチョコだって開発研究製造販売した人の真心が込められてんだからいいだろ」
至極真面目な顔をしてそう諭すように話し、よし子はズズッとお茶を
「知らんオッサンの真心なんていらないっ!」
「そうだ! 俺たちは、よし子の真心が欲しい!」
「お前ら! 企業努力をバカにすんなよ! そこにどれだけの手間と時間と努力がかけられてると思ってんだよ?!」
『そうじゃない。論点はソコじゃない』
会話に加わらず傍観していた
「それは知ってるよっ! 男の
「お前、自分がソレしようとしてんのに、自分はされたくないってどういうこった?!」
「当たり前でしょ?! ボクは! よし子の、手作りが、欲しいのっ!」
「お前の客だって、スヴェンの手作りが欲しいって思ってるかもしれないよ?!」
「そしたら『ボクの手作りだよっ』って言って、
「エグい事すんなよ! 貰った客は、まさかそれが全裸のナイスミドルが作ったとか思ってないで食べるんだろ! 残酷過ぎる!!」
「気づかなきゃいいんだよ気づかなきゃ!」
話が逸れている事に気づかず、ギャイギャイ言い合う
その間、何故か
「バレンタインデー」
そんな言葉とともに、スパンと
うわ、ここで一番話題に入って欲しくないヤツが帰ってきた。
そう思い、よし子は露骨に顔を歪める。
「バレンタインデーといえば、チョコレート。チョコレートといえば、フォンデュだ」
若干汚れた頬に優雅で
「そして。チョコレートフォンデュといえば」
意味ありげに、一度そこで言葉を切る
「チョコレートフォンデュといえば?」
言葉の続きが気になったのか、
形の良い唇を引き上げ、輝くような笑顔になった
「そのチョコをよし子のその美しい足に垂らした上で、俺はそれを舌で──」
「気持ち悪い妄想を披露すんなイグナート!!!」
彼が全てを言い切る前に、よし子がすかさず言葉を被せて遮った。
しかし、タイミングが遅かったのか、
「とうとう、俺にもその日が来てしまうのか……っ!」
「来ねぇよ!!!」
「しかし、なんでそんなに面倒がるギョリュか? 手作りなら俺が手伝うギョリュから、そんな面倒でもないギョリュよ?」
よし子の隣に座った
頭が痛そうに額を抑えていたよし子は、視線だけを上げて
「もう、『バレンタイン』ってだけで面倒なんだよ……」
この数分で五歳ぐらい突然歳とったかのような顔のよし子。
「会社の後輩の子や部下の女の子たちが、結構凝ったチョコくれるから……お返しも、ちゃんとソレなりのものにしないといけなくて。
でも、そういうの分からないから、分からない事を調べて考えんのも面倒臭いんだよ。ただでさえド年度末で仕事立て込んでるっつーのに……」
そうため息とともに吐き出して、よし子はコメカミをグリグリと自分で揉みしだいていた。
『え? そっち? 貰う側として面倒臭がってたん?』
「さすがよし子だ! モテモテだな!」
「俺のよし子は同性からも好かれるのだな。鼻が高い」
三人の心のツッコミとは相反する事を、
「それにアタシ、お菓子食べる習慣がないから、チョコ貰っても消費すんのも大変だしさ……その後丸一年チョコ見たくなくなる」
そんなよし子の愚痴に
貰うのを拒否る、貰ってコッソリ捨てる、という選択肢が最初からない所に、人の良さ──というか、甘さがあるよなぁ。だから付け入りやすいんだけど。
なんて思った
「分かった! ボクたちがそのお返し考えてあげるから、いつもそっちに使ってた脳コストを、今回はボクたちに使ってよ!」
素晴らしい事を思いついた! といったテイで、ポンと手を打つ
「それはいい! 是非協力しよう!」
「スヴェンにしては良い考えだ。俺も賛成だ」
すかさず同意する
「あ、それはいいか──」
名案、と思って顔を輝かせたよし子は、すぐにその表情を苦々しいものに変化させた。
「いや待て。危なっ。危うくスヴェンに乗せられるトコだった。
お返し考えない代わりに、アンタたちへのヤツを考えないといけないんじゃん。
どっちみちアタシの面倒臭さは変わってねぇし。楽させてくれよ、たまには」
「チッ。気づいたか」
よし子のツッコミに、
「よし子が貰ってきたチョコなら、俺たちで消費すっからさ。その分楽になるとしてさ、俺たちの事考えてよ」
その声は廊下から上がった。
声に居間にいたそれぞれが振り返ると、
ナイスアシスト!
「おかえり。──ん? どゆこと?」
怪訝な顔をして、居間に入ってきた
「部下の女の子達から貰ったチョコ、よし子が食べきれない分は俺たちが消費するし、お返しも俺たちが考える。
その代わりに、俺たちへのバレンタインを考えてよ。
それなら、いつもよりは少し楽になるだろ?」
「……まぁ、それなら……」
よし子が、ボソリと呟いた言葉を、
「ハイ、って事で、決定な」
両手をパンっと叩いて、
「手作りしたいなら手伝うギョリュから、遠慮なく言うギョリュよ」
「なら買い物も必要ヌミョな。早速明日買い出しに行くヌミョか」
「あ、ボクも手伝っちゃうよ! 可愛いの選ぼうねっ!」
よし子が
よし子は
それに気づかない
「何を貰えるのだろうか……も、もしや、伝説の『プレゼントは私』とか……」
「服はナシでリボンを巻いただけの姿でも構わないぞ、よし子」
既に若干テンション高めにそう鼻の穴を広げる。
「……ホントマジ、考えるのヤメロとは言わないからさ、せめて言語化しないでくんないかな……」
二人に、よし子はゲンナリとした表情を向けた。
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