第12章 ナクユとぬいぐるみ

第52話 新しいナクユ

 ナクユから戻って数日が経過したころに、パズル業界に激震が走る。安藤先生が漢字のオリジナルパズルの盗作を告白した。プロとしてのけじめみたいで、安藤先生なら心を入れ替えて頑張ってくれると思う。


 ソフト会社の鈴木さんから、後日正式なナクユのジュエリーを送ってくれると連絡があった。それまでは今のナクユのジュエリーを使って構わないみたい。

 もうひとつ鈴木さんから、ナクユのパズルを監修してほしいとの依頼があった。嬉しかったけれど丁寧に断りを入れる。理由は明白で、自分が監修したパズルで遊ぶのはつまらないからだった。ナクユで思う存分遊びたい。


 キリリキくんとロクヨちゃんは、今まで通りに私の家へ出現できた。私もナクユのジュエリーを使ってナクユへ行けるけれど、特別な課題は終わったので高難易度パズルを解く機会がないのが寂しい。


 ナクユの事件から1ヶ月が経過すると、パズル業界も落ち着きを取り戻した。

 私と綾音ちゃんは、今まで通りに若手四天王として頑張っている。とくに綾音ちゃんは凄くて、安藤先生の代わりにパズル雑誌の看板となった。パズル数も増えたのに締め切りは守っていると聞いているので、私も負けていられない。


 綾音ちゃんとは前よりも頻繁に会って遊んでいる。パズルの話題はもちろん、ナクユについても気兼ねなく話せた。裏技が使えなくなって綾音ちゃんはナクユへ行けないけれど、毎回ロクヨちゃんの質問が多かった。猫好きの綾音ちゃんらしい。


 ソフト会社の鈴木さんから荷物が届いた。正式なナクユのジュエリーで、鈴木さんからの手紙もあった。

 崩壊現象はヲンの仕業と判明して、崩壊現象の修復も完了したみたい。ナクユの世界へはどの大人でも参加可能となって、大人向けの高難易度パズルもあるので、ぜひ遊びに来てほしいと書いてあった。


 綾音ちゃんにもナクユのジュエリーが届いたみたいで、ロクヨちゃんに毎日会えると喜んでいた。ナクユのジュエリーが届いた日は1時間おきにメールが来て、それほど綾音ちゃんは嬉しかったみたい。翌日には綾音ちゃんと一緒にナクユへ行った。


 仕事を早めに終わりにして、綾音ちゃんを誘ってナクユへ行った。中立国の文字と数理の国に着くと色々な種類のぬいぐるみがいる。人間の子供も大人も大勢いた。

 見慣れたぬいぐるみが目の前に現れて、キリリキくんとロクヨちゃんだった。私と綾音ちゃんに課題を出すのがキリリキくんとロクヨちゃんの仕事みたい。綾音ちゃんはロクヨちゃんを抱きしめる。ナクユに来たときの挨拶になっていた。


「並戸も菊池も来るのが遅いぞ。感覚的にわかるだろ」

 いつも通りにせっかちなキリリキくんだった。

「新たな課題がいくつかあるにゃ。ふたりと一緒に解くにゃ」

 ロクヨちゃんはうれしいのか、片足を軸に回転した。


「どの課題から進めますか」

 綾音ちゃんが私の腕を取って聞いてくる。

「綾音ちゃんが1番好きなパズルからで構わないかな」

「どのパズルも好きですので、1番好きなパズルを選ぶのは迷います。でも1番尊敬しているのは、みーなさんです」


 理由は不明だけれど、綾音ちゃんは私を尊敬している。その言葉に恥じないようにパズルにも挑戦していきたい。

「それなら全部の課題に挑戦よ。今日も思う存分にパズルを解きたい」

 私たちはナクユの世界を堪能するために歩き出した。


(第1部 了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝石が奏でる不思議な世界 色石ひかる @play_of_color

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画