第15話 恒久の平和
ウォームレット砦――
「魔王ジャーニスだ!」
「討ち取れ!!」
魔王自らのお出ましで、兵士たちは浮足立っていた。
しかし何とか戦意を維持できている者は手にした弓や銃を構え、あるいは石を持ち、魔王に向けて放つ。
魔王はゆるりと、それら兵士の方へ目を向け……
「退け」
ギンッ!!
甲高い音が鳴った。
魔王は変わらず城壁に向かい悠然と歩き続けている。
矢や銃弾を意に介したような様子すらない。
え?何が起きたんだ?
「弾を……斬り落とした……!」
その様子を見ていた兵士長が身体を震わせながらぼやく。
そんな漫画みたいなこと出来るのかよ?!あの大剣で?!
ってか兵士長それ視認できたのか?俺よりはるかに強者じゃね?!
そして魔王は、城壁まであと30mほどの場所にまで移動すると、手にした剣を無造作に一閃する。
バゴォォォンン!
「なんだ!何が起こった?!」
「兵士長!!壁が!城壁が!斬られました!!」
「何ぃぃ?!」
混乱する兵士たちが騒ぐ中、真っ二つに叩き切られた城壁と城門が音を立てて崩れ落ちていく。
その瓦礫に巻き込まれて兵士の何人かが生き埋めになっていくが、それを助けている暇はない。
っていうかなんだよあれ!一人だけパワーバランスおかしいだろ?!
いや俺も、人のことは言えないけどさあ!
「魔王軍、進軍!」
「「「うおおおおお!!」」」
そして魔王から号令が発せられると、斬り開かれた城壁へと一気に魔物たちが突っこんでくる。
生き残りの兵士たちが必死に弓や銃を撃つが焼け石に水だ。
もう耐えきれない!城内に入られたら皆殺し確定だ、どうにもならない!!
くそっ!何かないか!打開できる手段は!!
俺は必死に脳内で
威力や攻撃範囲、もうこの際多少味方を巻き込んでも仕方がない覚悟でスキルを調べる。
該当スキルはいくつもあるが、しかし消費糞量がネックだ。
先ほどのスキル連打で俺の腹の中に残っている糞はごくわずか、感覚でいえば【
糞量が足りなくて、これらの極悪なスキルは使えないのだ……!
……ん?まてよ。
【
レベルを上げれば上げるほど威力もあがるが……しかし、消費糞量に変化はない。
これしかない。
俺は残っているスキルポイントをすべて【
そして魔王軍に尻を向け、一か八かの攻撃を仕掛ける―――!
「【
キ ュ ボ ッ
フンボルト王国 首都ウォシュレット――
「では、ここに署名を」
「わかった」
王城にて、ベンデル国王は書類に自身の
その相手とは魔王国の第一王子……いや、2代目魔王トートその人である。
青い肌と白と黒目が反転したことを除けば線が細く、だがそれでいてしっかりと鍛えられた身体を持つ美男子である。
彼もまたベンデル国王にならい、和平の書類に署名を行った。
そう、人間と魔物の戦争は終わったのだ。
ベンデル国王は、ふう、と息を吐いて目を閉じる。
あの時の光景は目に焼き付いている。
ウォームレット砦の城壁が破壊され、今まさに魔王軍に蹂躙されようとした瞬間。
勇者が放った攻撃が、その場に居るものすべてを薙ぎ払ったのだ。
あの瞬間、スキルレベルを上げて極限を超えて強化された【糞射出】は、その発射速度は光速にまで至ってしまった。
光の速さで糞が移動したことにより、理論上無限の重量に至ることで局地的なブラックホールが発生。
魔王軍のすべてを飲み込み、スパゲティ化現象が防御魔術もミスリルの鎧も関係なく引き起こされ、粉微塵に変化させた。
さらに想像を絶する衝撃波が発生、城壁は引っぺがされる。
魔術の防御がなければ、おそらくは人間もここで全滅していただろう。
結果として、魔王軍を失った魔物たちはもはや戦いを続けることができず。
砦も失いもはや戦う意思もない人間たちも戦いを続けることは望まず。
こうして和平を結ぶことができた。
握手をする2人。
それだけの大惨事は、ただへき地の話だけにすまなかった。
衝撃により、この星の地軸がズレ、環境が大きく変化してしまったのだ。
今まで温かく農作に適していた場所が極寒の地になってしまったり、逆に雪山が一気に温かくなって洪水を引き起こしたりと大変な時代になっている。
めちゃくちゃになってしまった世界を生き延びるには、もう人間が、魔物が、などと言っている場合ではなくなってしまった。
手を取り合い、ともに生きていくしかないのだ。
「……今まで戦をしていて何を、と思うかもしれませんが……どうか、ともに協力しましょう、ベンデル国王殿」
「なんの、それはこちらも同じ気持ちですよ、魔王トート殿」
手を取り合った人間と魔物たちは、ともに助け合いながら生きていくことになる。
数十年後には人間と魔物同士で結婚しあうものも出てきて、混血も進むことで種族的な偏見や差別も解消されていった。
環境は変化してしまえど、争いはもう起きなくなった。
世界は、平和を手にしたのだ――。
うんこマンLv100 三二一色 @321colors
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