第3話 一粒の種 それぞれの想い

あれは確か数年前僕がまだ未熟な頃だった話。

「僕からしたら最初で最後の大親友だった」

アイリスは息を呑み込む

彼はそうだなぁ一言で性格を言い表すとするなら

「旅好きな馬鹿(ヒーロー)」でもこいつのおかげで僕の人生は180°いや360°変えてくれた

「今日も早く旅に行こうぜ! 俺たちならなんでも出来る!」

陽気な彼(マカ)から発せられる言葉には不思議と力がいつも湧いた

どん底で絶望の淵にいる僕を救ってくれた”ヒーロー”

「流石に毎日は疲れるよ〜」

「ふははは! そんな弱気じゃ元気も便も出ないぞ!」

「僕は便秘じゃないわ!」

「そこ突っ込むのかい!笑」

バカ丸出しの会話を繰り広げるそんな毎日が一生続けばいいと何度思ったことか。

「なんでマカはそんなにポジティブでいられるんだ?」

2人は道を駆け抜けながら語り合う

「聞きたいのかい?」

言明をするとマカはニヒルな笑みを浮かべる

「別にいいたくないならいいし。」

「まぁまぁそんなツンツンするなって〜!」

「うーん。そうだなぁそんなこと聞かれたことがないから具体的には言えないけど」


その時だった大きな揺れと共に殺気を感じ、アイルをすかさず突き飛ばす

「何が起こっt痛っ!」

見えない軌道で飛んできたナイフがアイルの頬を掠める

「今のに気づくなんて君やるじゃないか」


僕とマカはすかさず戦闘態勢をとった。


「お前は何者だ! 何が目的で俺たちを襲った!」

「そうだなぁ、恨みや怒りを晴らす為にお前らを殺しに来た魔物の1人だ」

「俺たちはお前と出会った記憶が無い!人違いだ」

同時に赤褐色の無数のナイフが飛んでくる

シールド

「盾 危ねぇな」

マカはギリギリで身を守る

「自分たちの犯した罪をも忘れる大罪人共が生きて帰れると思うなよ。」


さっきの発言がやつの逆鱗に触れたのだろう先程よりも数段空気が重くなる..


「急にナイフ投げて襲って、お前はなんなんだ!」

アイルはふと思った

(この緊迫した空気 死を連想させるような殺気とても2人で倒せそうな相手ではない。)

「アイル...」

「あぁ分かってる...」

「どうせ2人とも死ぬんだから潔く死んでくれよ!!」

マカは敵に突進を試みる

「うおおおおおおお!」

ダンゼツノクリスタル

「断絶の六水晶」

現実は無情にも厳しく、瞬く間にマカの体は血だらけとなる

「顔に余裕がなくなってきたなぁー!」

(なんだあの魔法は今まで出会ってきた魔術使いの比じゃない。)

アイルの言った通り奴の技は完成系に近いものを繰り出していた

「逃げろお!」

マカは叫ぶ

「そんなことできるわけないだろ!一緒に考えればきっと、」

僕の言葉を遮って叫ぶ

「馬鹿野郎!ここで逃げなかったら俺たちごと死ぬんだよ!」

「で、でも」


それ以上アイルは何も言えなかった。共に何年も旅をした仲間、辛いことも全てを一緒に乗り越えてきた竹馬の友であり ”ヒーロー”である彼を見捨てるなんてそんなことできるわけが無い。


「逃がすはずないだろう君は邪魔どけ」

ツララ

氷柱がマカの体中を斬りつけた

「いいから走れ!」

般若のような形相に押され震える足をたたせて走り出した。

(それでいいんだアイルあとは頼んだよ。)

「でもよ、ただではやられねぇよ」

マカはニヤつきボロボロになりながらも奴のからだを掴む

「離せよ雑魚てめぇじゃおれにかてねぇ」

(もう1人のガキには逃げられたか。でもこいつだけは殺す。)


俺の全存在をかけた最後の魔法


ファイナル ギカンテ

「最終 虎死地雷」

奴の顔が真っ青になる

「まさかお前、自爆する気かぁ!」

「せっかくだから一緒に逝こうぜ!」


そう吐き捨てると同時に、爆発音と断末魔が一帯に響き渡る


「くそがああぁああ!」

決死の思いで逃げたアイル

「僕が弱いばかりに、マカ…ちくしょう」


マカを失った怒りと自分への不甲斐なさで腸が煮えくり返りそうだ

俺がもっと強かったらこんなことにはならなかった。


「あの魔物たちは絶対に許さない。必ず”奴を殺してやる”」


不退転の思いを爆発させ魔物への憎悪、吐き気が湧くような怒りの種はここからだった。


そこから数年我武者羅に生きた自分は弱い。

自分は大切な人すら守れないクズだ

でも、

「マカの想いは僕が引き継ぐよ」

”共に永遠に旅をしよう” その約束を頼りに必死に後悔と憎しみに抗いながら生きる。

自分にはそれくらいしかできない。

せめてものマカへの”罪”の償いのつもりだ。


長くなったがこれが過去に囚われている一つの理由

「情けないだろ? あはは…」

その笑みには深い哀しみのようなものが窺えた


「私はとても立派だと思いますよ」

あいるさんから聞いた話は心が締め付けられるようなそんな痛みがあった。

癇癪を起こして会社を飛び出した私とは訳が違う。 あいるさんはなぜ自分を責め立てるのだろうか? 私は不思議で仕方がなかった。

「ありがとね。」

一言アイルが呟いたあとしばらく沈黙が続いたのであった。










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