神よ許したまえ

新巻へもん

新巻は不信心者です

 皆さまは信仰している宗教ってあります?

 新巻は無いですね。

 少なくとも何々教の信徒ですとはっきり名乗れるほどのものは無い。

 でも、いわゆる神さま仏さまと呼ばれるヒトよりも高位の存在を全く信じていないかというとそうでもありません。


 まあ、お正月には初詣に行きますし、お墓の前で手を合わせることはする。

 なので、無神論者ではありません。

 そして神仏混交した日本式の何かを尊重はしているけれども、その教えを忠実に守っているかと言えば守っていない。

 在家の仏教徒は本当は酒飲んじゃいけないけど新巻は飲んでるから。

 これを一言で言い表せば不信心者ということになります。


 それで、この酒を飲んではいかんという戒律を破っても日本の仏教ではペナルティは大きくありません。

 般若湯とか言っちゃうぐらいです。

 でも、世界の中には戒律が厳しめの宗教があります。

 イスラム教における飲酒や豚肉の摂取の禁止は割と良く知られているでしょう。


 パレスチナ紛争におけるもう一方の当事者であるユダヤ人が信仰しているユダヤ教では鱗の無い魚は食べられません。

 だから鰻のかば焼きを食べることは禁止です。

 学術的にはウナギには鱗があります。

 でもはっきりと目で見て分からないのでユダヤ教的には鱗が無いと分類されるようです。


 鰻は鱗ありに認定替えされたという説もあるようですが、ユダヤ人を鰻屋に連れていきトラブルになったという話は最近でも聞きます。

 他にもさらに複雑なものがあって、チーズも牛肉も別々に食べることはできるのにチーズバーガーはアウトだったりするんですね。

 なんともややこしい。


 ちなみに鱗の無い魚は食べられないというのはイスラム教でも同様です。

 調べてみると食事に関してかなりの規制があります。

 今後の人生においてカツ丼とうな丼がダメとなると思うと、新巻にはこれらの宗教への改宗は相当難しい。

 これも見方によってはたかが食事ごときで正しい道を歩かない愚かな行為なのかもしれません。


 というわけで、現代日本においては宗教的な規範はかなり緩くなっていると思います。

 では宗教的な規範はまったく不要なものかというとそう単純な話ではありません。

 例えば人を殺してはいけないという命題を考えましょうか。

 これを理屈だけで万人に簡単に納得させるのは実は難しいんですよ。

 極悪人も殺してはいけないのか?

 

 その点、宗教的な決まりごとであれば神様が定めたことであるからということで、所与の条件にしてしまえるので調整がスムーズです。

 法律があれば十分という考えもあるかもしれません。

 でも、法律は現時点では国家という枠の中でしか機能しませんし、罰則で縛っているだけなので、失うものがない人には効果が薄いです。


 それなら、宗教的な規範が強ければいいかというとそれも俄には首肯しかねます。

 規範に違反する者は背教者なわけで、規範が強い拘束力を有する場合は他者を排斥する方向に働きかねません。

 行きつくところは、規範を守らない者とは一緒に社会を営めないということになります。


 歴史の教科書を紐解けば、信仰を異にする者同士の凄惨な争いには事欠きません。

 現代においては異教徒には死を、とまではいかなくても、結婚生活に支障をきたすということはあるんですよね。

 実際、新巻の知り合いでも宗教が違うことが尾を引いて離婚につながった事例が二組ほどあります。


 どちらも本人はそれほど熱心な信者ではなかったように見えたのですが、親御さんが納得できず確執の原因になったとのことでした。

 まあ、実際には他にも理由があったのかもしれません。

 でも離婚してからも知人本人は引きずっていたので、根は深かったのかなと想像しています。


 それと宗教的規範に関してもう一つ困った点があります。

 基本的に当該宗教への勧誘は善行とされることは厄介ですね。

 新巻が小学生の頃、近所の子供を家に集めている子供好きのおばさんが居ました。

 おやつなども出してくれて割と多くの子供が集まっていたようです。

 話の流れで分かりました?

 そう。このおばさんは家に来た子供たちに有難いビデオを見せていたのです。


 誘われていった子供の一人が親に変なビデオを鑑賞させられたと報告して大騒ぎになりました。

 まあ、判断力の低い子供を洗脳しようというのだから悪質ではありますよね。

 おばさんからすれば正しい道を教えようとしていただけなのでしょうけども。

 その親にチクったガキというのが新巻です。


 実際のところは良く分からないどころか、おばさんの意図を正確に理解していました。

 愛読書が三国志だったせいか、冒頭の黄巾党の場面のお陰で宗教団体とその勧誘活動に凄い不信感を抱いていたんです。

 指導者が扇動すれば個々の信仰とは別次元で物事が動いてしまう。

 それって怖いなと思っていました。

 

 ということで、どことは言いませんがその宗教団体の信仰している神様ゴメンね。信者獲得の邪魔しちゃって。

 まあ、でもあのやり方は今でもないと思っています。


 ちなみに警備員をしていたときにも、同じ宗教団体の信者である先輩から機関誌を渡されて熱心に勧誘されました。

「新巻くんは見どころがある立派な若者だ。これを読むともっと素晴らしい人間になれるよ」

 この先輩は個人としてみれば良い方なんです。

 でも、俺は過去にあなたの信じる神様の勧誘活動を妨害した悪人だぞ、と心の中で呟いて丁重にお断りしました。


 なお、別の宗教団体の話なのですが、高校のときの真面目な先輩に素晴らしい教えに興味がないかと聞かれたこともあります。

 が、受験でそれどころじゃなかったのでお断りしました。

 その宗教団体は後に大騒ぎになります。

 あのとき誘いに乗ってノコノコ出かけていたら新巻の人生変わっていたかもしれません。


 自殺を考えるほどに人間関係に悩んでいたのに、なんで行かなかったんだろうな。

 今考えるととても不思議です。

 まあ、不信心者なのでご縁が無かったんでしょう。

 あ、そうだ。

 拙作をベストセラーにしてくれるっていうなら信じてもいいかも。

 新巻はこれぐらいのいい加減なスタンスでこれからも生きていこうと思います。

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