ディア・ディア
文重
ディア・ディア
ぴくりと耳を動かして鹿が振り返った。野生動物は空気の微妙な動きにも敏感だ。息を潜めて自分の気配を隠す。秋深まる森の中で、少しかじかんでくる指先にも自ずと力が入る。狙った獲物は逃がさない。
森には必ず単身で入り万全の装備で挑む。附属部品など細かい持ち物が多いので、サファリジャケットは必須のアイテムだ。森の奥へ奥へと分け入り、お目当ての対象を見つけると、透明人間にでもなったかのごとく森と一体化してその時を待つ。
チャンス到来! その一瞬を逸さず、ついに大物を仕留めた。
「本年度のジャパンフォトコンテストの最優秀賞は『Dear Deer』に決まりました。おめでとうございます!」
私は猟銃こそ持たないが、生命の躍動の瞬間を切り取るため、そのワンショットに全身全霊を籠める。奇しくも写真にも銃と同じく「ショット」という言葉が使われる。実際に命を戴くわけではなくても気持ちは猟師と一緒なのだ。
親愛なる鹿よ、ありがとう。
ディア・ディア 文重 @fumie0107
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