地獄墜

@azumari

第1話 天使の遣いと閻魔の遣いなクラスメイト

 えーっと、皆さんこんにちは!私、鬼潟和樂おにがたかずら!好きなアイドルグループはなにわ男子、よく観るYoutuberはヒカキンさん、最近の悩みはたまにメガネをかけたまま寝てしまいかけちゃうこと!な、抬州だいす高校一年生女子です!……早速ですけども、ワタシ……今、ものすごくピンチです!なぜかというと……


 「待てや女ぁ!!俺の炎で燃やしてやるから、苦しんでいる様子をよーく見せてくれやぁ!!」学校から帰ってる途中、いつもの通学路を歩いていると、こんなことを叫びながらライターの火を思いっきり燃やして刀みたいな形にして、掲げて追いかけてくるとっても怖いおじさんに追いかけられているからです!!


 それは私が今日も普段通り、少しだけ退屈な学校での授業を終わらせて、早く帰ってApple Musicでなにわ男子の曲を漁ろうと考えながら帰ってる午後3時半ごろの事。学校から家に帰る途中にある、ため池の横を通る小道のルート。その道を通り過ぎた後にある丁字路のところで、変なおじさんに声をかけられたのだ。

 「なぁ、姉ちゃんヨォ。燃やさせてくれねぇか?姉ちゃんを燃やして、苦しみながら死んでいく様子を見せてくれねぇか?」

 何でそんなことをこの人がしようとしてるのかわからない。でも、この人の言葉は冗談でも何でもなく、『やる』人の言葉だ……そう直感で分かった私は、一目散に走り出した。

 後ろからは怖いおじさんが大声を上げながら追いかけてくる。……逃げなければあの人に私は殺されてしまう、絶対に。それが分かっているから、私は足を絶対に止めなかった。

 私の頭の中は『死にたくない』の想いでいっぱいだった。当たり前だ。まだまだやりたいこともいっぱいある。まだまだ世の中の知らないことはいっぱいあるし、美味しいものだって全然食べてないし、旅行だって行けてないし、そして何より恋だってしてない!!

 とにかく生きるために必死に走る私。しかし相手は成人男性。どんなに力一杯必死になって走っても、その身体能力の差は埋め難いものがある。怖いおじさんと私の距離は、だんだんと縮まってくる。やがて、刀を振り下ろせば私の背中に届くくらいまでの距離におじさんが『居た』。

「イヒヒヒャァァアッハァァァァァー!!!!さぁ俺の炎の刀で切り裂いてやるから、燃え苦しんでる様子を拝ませてくれよぉ!!」

炎の刀が振り下ろされる音がする。もうダメだ!助けて、ママ、パパ!



 そう思った時だった。空の上から『何か』が急に降ってきたのだ。それは、私とおじさんの間に降り立って、おじさんに立ちはだかるようにしていた。そしてそれが降ってきて驚いたことにより、おじさんの刀での攻撃は中断されていた。振り返って見てみると、見た目は間違いなく『人』……それも、多分私と同じくらいの年恰好。青いボーダーのTシャツ、大きな帽子、その帽子についた青い羽と、帽子からはみ出たツンツンとした天然パーマがとても印象に残る、男の子だった。


 「なんだぁガキぃ?邪魔してんじゃねぇ!それとも何だ?お前もこの、ウリエル様から授かった炎の刀、【火事場之馬鹿刀ファイアワーク・ソード】で燃やし斬られてぇかぁ!?」


 その男の子は、後ろから見ていてもわかりやすいくらい大きなため息を、呆れたようにひとつついてから言葉を返す。

「そんな大層な名前のヤツから借りた武器振り回してやる事が、女の子追いかけ回して燃やそーとする、とか。やることが最低すぎんだよ、そんなんだから死んでも牢獄に入れられるんだよ。なぁ、天獄脱獄囚No.72、連続放火殺人魔、火焔崎カエンザキ リュウ。」

 そう言った後、彼は私の方を向き、私に話しかける。

「大丈夫かー鬼潟。アイツに結構追いかけられてたろうよ。怪我とかしてねぇか?」

 そうして彼の顔を見て、私はようやっと彼のことに気付けた。

「……川嶋くん?」

彼は川嶋カワシマ レンくん。陸上部所属の、抬州高校一年生。……そして、私のクラスメートの男の子。

……あれ?なんで川嶋くんが空から降ってきたの?ってか、なんで私を?私、あんまり川嶋くんと喋ってた覚えがなかったと言うか、彼はどっちかと言うと明るいグループの方に属してる人ってイメージだったから、そもそも覚えられてる自信がなかったんだけども……

 ……などと、要らないことを考えていると、怖いおじさん__川嶋くんは『火焔崎 隆』って呼んでた?__が、怒って叫ぶ。

「何だとこのクソガキ舐めやがってぇ!!よぉし分かった、まずはお前から火祭りに上げてやるよ!!【火事場之馬鹿刀ファイアワーク•ソード】、フルパワー!!」そう叫ぶと、持っていた炎の刀の刀身が、さっきよりも3倍近くの大きさに膨れ上がる。見ていてものすごく怖い。

「っと、鬼潟下がっててくれ。危ねぇから。」そう言って私を下がらせようとする川嶋くん。

「ま、待って!川嶋くんも危ないよ!逃げよう!」……自分で言うのもなんだけど、こんな状況なんだ、まともな判断だと思う、逃げる提案を川嶋くんにする。

 けれども川嶋くんは、ニコッと笑って私の方を見る。「大丈夫。向こうと同じなんだよ、俺も。戦う力は借りてるんだわ!」そう言うと川嶋くんは、帽子につけた青い羽に手を伸ばす。

「目覚めろ!【青天乃武器靂スカイフェザー・ウェポンズ】!!」

そう叫ぶと、川嶋くんの帽子のワンポイントの羽根が大きくなる。その羽根の先端に、剣先みたいなものがつけられて、ひとつの大きな武器になる。

 火焔崎はそれを見て狼狽える。「な!そりゃあ『あいつ』の……天獄の閻魔の野郎の【武器ウェポン】じゃねぇか!閻魔は俺らが天獄を脱獄する時にぶっ倒したはず……そのあいつの【武器ウェポン】を、なんでてめぇが持ってやがる!」

「こっちにも色々とあんだよ。……ま、差し詰め今の俺は、天獄から脱獄したお前ら外道を天獄へと再び送り返し再収容する、『閻魔の代理人』ってとこだな。つうことで、お縄についてもらうぜ、火焔崎!」

「うるせぇ!!俺の【武器ウェポン】、【火事場之馬鹿刀ファイアワーク・ソード】だって使いこなしてんだ!!今更閻魔の【武器ウェポン】が出てきたところで負けるかぁぁぁ!!!」

 火焔崎は激昂して、川嶋くんに襲いかかる。

火焔崎が川嶋くんを殺すため、がむしゃらに炎の刀で斬りつけようと、右肩、右手、左肩、胴体への突き、様々な場所に向けて攻撃を試みようとする。けども、川嶋くんは羽根の武器の先端につけた剣で炎の刀を受け流し、いなしてる。

「残念だけども、こちとら閻魔サマから一通り戦い方はレクチャー受けてんだわ。殺意満点の刀の動きなんて読めないわけねーだろ!」

「だったらこれはどうだぁ!!」叫ぶと同時に、火焔崎は川嶋くんの足めがけて炎の刀で薙ぎ払うようにして攻撃を仕掛ける。「そのお留守な足元焼き斬って、一生歩けないようにしてやるよクソガキィ!!」

「よっと。」軽いかけ声のような一言と共に、川嶋くんはぴょんと飛び跳ね、炎の刀の薙ぎ払いを易々と避ける。そして、ジャンプして得た高度を利用し、勢いをつけ、気合の叫びと共に火焔崎の脳天に羽根先の剣の一撃を叩き込む!

「和樂ちゃんを、怖がらせてんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」……何でそこで私の名前なのかはわかんないけども!?えっ、ほんとになんで!?

 「ぐぉ……がぁぁぁ……クソガキが……!」川嶋くんの渾身の一撃が脳天に叩き込まれ、悶絶する火焔崎。次なる手を打つため、川嶋くんが帽子のリボンに留めてある、手錠の形のピンを手にして叫ぶ。

「アタッチメントチェンジ!ソード→ワッパー!」

叫んだあと、川嶋くんの持つ、羽根の先にあった剣が手錠の形の武器に変わる。

「連続放火殺人魔、火焔崎 隆!天獄脱獄の罪に加え、現世での47件の放火殺人、そして1件の殺人未遂の罪により……」そう言いながら、手錠の武器がガチッと火焔崎を拘束する。

「ま、待て、やめろ!嫌だ、またあの牢獄に連れて行かれるのは……あんなクソッタレの牢獄なんざ行きたくねぇ!!やめろ!!はなせぇー!」火焔崎は、どうやら自分の運命を察しているようで、ジタバタと足掻いている。

「炎天天獄収容、3000年!!水も残らぬ炎天の牢獄で、しっかりと反省してきやがれー!!」

手錠型の武器から出てきた光の柱のようなものに瞬時に火焔崎が連れて行かれる。現世に叫び声だけを、残しながら。


 戦いが終わって、川嶋くんが力が抜けたように地面に座り込む。

「…怖がらせてごめんな、鬼潟。もうちょっと早くに来てやれりゃよかったんだけども、襲われてるのを知ったのがついさっきだったから…」

「ううん、大丈夫。助けてくれてありがとう。…それよりも、なんで川嶋くんが私を助けてくれたの?それに、そんな戦う力なんてどこで……」

「ま、そういう詳しいことは追々『向こう』に行ってから話すよ」そう言いながら川嶋くんは立ち上がり、先ほどの手錠の武器を私と川嶋くんに着ける。

「あ、あのー、川嶋くん……その、これは一体……」

「あぁ、これ?今からちょっと、天獄に来てもらうから!これが一番移動が早いんだわ。」

「天獄って、さっき火焔崎って人が連れてかれた、あの?」

「そ。」

「な、何でぇ〜〜〜!?」

叫ぶと同時に、私と川嶋くんはさっきの火焔崎と同じように、光の柱に包まれ、ワープを始める。この瞬間、流石に私も気づいてしまったのだ。……何だかとっても、とんでもないことに巻き込まれてしまったんだって。



次回に続く

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