第3話 双子の姉
生徒会室を後にして記念講堂に向かっている最中、並んで歩いていた葉山さんが急に立ち止まった。
「……申し訳ありません、会長」
「??? どうかしましたか?」
「姉さんのことです」
「姉さん……? あっ」
ふと雷鳴のように事実が浮かび上がった。朱里は生物学的には女性という設定があったのだ。
日常にはなかった異分子的なものであってつい忘却してしまっていたけど、重大なことである。
「葉山さんが気に病む必要はありませんよ。あなたはあなた、あの人はあの人です」
「いえ、本当にお恥ずかしい限りです……」
葉山さんはそういって畏縮してしまった。
確かに朱里は葉山さんの実姉だから、きっと家族として責任を感じているのだろう。
野球場に水着きてゴルフしに来るような破天荒な人だ。
僕でも身内にあんな人がいると思うと恥ずかしい。
「いえいえ。あの人は一度葉山さんの爪の垢を――っ!」
そこまで言いかけたとき、急に背後から殺気を感じた僕は反射的に避ける。
僕が元いたところには、竹刀が閃光のようにして振り落とされていた。
「――ちっ。外したか」
舌打ち混じりにそう呟いたのは、渦中の人物だった。
「……朱里さん。いまの一撃は当たっていれば、確実に頭蓋骨が割れていたところでしたよ」
「ふっ、千明なら避けられると信じていたぞ」
自家撞着を起こした朱里の物言いに、僕は怒りで目の前が赤くなる。
「……ん? そういえばなんで敬語なんだ? ああ、会長モードか。たいへんだな」
大本の要因に投げやりなフォローをされる。
ドーパミンが分泌して幸せになれそう。
僕の知る限り、素の数値は一番高い。
顔は葉山さん――副会長と瓜二つだけど、長い黒髪をポニーテールに結んでいるのが特徴だ。
そして幼い頃から同じ剣道場に通っていた僕の第二の幼馴染み。
……甚だ不本意ではあるけれど。
ちなみに彼女に双子の妹がいたことは、ずっと聞かされていなかった。
おかげで葉山さんとの出会いは最悪で、朱里とまったく同じ顔をした人が急に『26』という数字を背負って現れるのだから僕はとにかく狼狽え、その人に詰め寄った。当然、物凄く怒られた。
後になって本人(姉)に問い詰めたら「聞かれなかったからな!」とゲラゲラ笑ってきたので、いつかこの借りは絶対倍にして返すと心に誓っている。
小中と学校は別々だったし、知る機会がなかったといえばそれまでなんだけど、だからといって納得できることじゃない。
「で、どんな御用で?」
「なんか厄介払いしたいみたいな言い草だな」
「ぶっちゃけ、さっきので半分冗談じゃないかも」
周りに来賓や関係者がいないことを確認して僕は敬語をやめた。
僕は性格上、たとえ同学年や子供相手でも基本的に敬語を使う。
別に敬語やタメ口がその人との親しみやすさを測る物さしとは思わないけれど、鏡花と朱里の二人は子供からの習慣で、なかなか変えられない。
「…………いいなぁ、姉さんは」
僕と朱里の少し後ろで、葉山さんがぼそっと呟いた。
いったい朱里のどこに彼女が羨ましがる要素があるか僕は理解できない。
朱里は朱里でふふん、とドヤ顔で鼻を鳴らしてるし。
「いいか、よく聞けよ千明」
疑問に思ってると、どうやら朱里が本人の代わりに答えてくれるらしい。
僕としても気になるところなので耳を傾けることにした。
「悠里はな――」
朱里はもったいぶって大きく息を吸った。そして――
「言うわけないだろこの唐変木~~!」
頭上で両手の指をピロピロピロピロと動かしながら朱里は言った。
普段どんな生活をしていれば、こんな腹立たしい動きを思いつくのだろうか。
僕は人の『運』を換えることが出来る がおー @popolocrois2100
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