第68話 社畜は仕事と共存する

 卵は光るのを止めています。大きさは朧丸と同じで駝鳥の卵よりひとまわりくらいおおきくて色は水色に紫の大きな斑点が二つ浮かんでいます。


 色はともかく大きさはグリフォンと同じって事は大型のモンスターの卵って事でしょうか?


 土属性のダンジョンから出てきた暗赤色の卵から風属性のグリフォン、火属性のダンジョンから出てきた水色の卵からは何が出て来るのでしょうか。


 水色から連想できる属性と言えば水か氷・・・グングニルの力を借りる絃紫さんが操る魔法は氷魔法。態々重複なんて無粋な事はダンジョンちゃんもしないでしょうからここは水属性のモンスター・・・和風モチーフのここお化け屋敷ダンジョンから出てきそうなものと言えば河童とかアマビエとか船幽霊ちょっと大物だと海坊主、他所のダンジョンで出て来るやつならスライム、マーメイド、ケルピー、キラーフィッシュ、サハギン、ローレライ・・・出て来るだけでここだと死亡確定しそうな感じですよね。


 だったらここで出てきてもおかしくない火属性なら・・・朧車?火の玉、割れ提灯、サラマンダー、ファイアアント、フレアバット・・・ここでは豆腐小僧ですら火属性ですけど、まぁアレは戦闘には向きませんよね。


 黙ってても卵に変化は無いようですんでへっぴり腰で卵ににじり寄り優しく天頂部を撫でてみます。それでも彩お嬢様は僕の膝枕をしっかりと掴んで離しませんでした。


 卵は丁寧に扱わないとね、だって生まれて来てからあの時扱いが酷かったなんて逆恨みされて大暴れで日本沈没、なんて事にでもなろうものなら僕はA級戦犯として市中引き回しの末に八つ裂きの刑なんて事になるかも知れないじゃないですか?


「・・・出てきませんね。もうちょっと小突いてみます?」

「心臓に悪いから思ってても言わないで・・・カラなんて事はないですよね?」

「これだけ魔力をむしり取られてそれは無いと思いますよ?」

「ばあや、あとじゅっぷんでいいから・・ねか・・・せ」


 一人とってもシアワセなヒトがいるのがとっても腹立たしいんですけどヾ(○`з´)ノ!!!


「なんでこの子がここにいるか教えていただきたいんですけど」

「それを僕に聞いてどうするんです?ずっとダンジョンで一緒にいたじゃないですか」

「あたしだって師匠旦那さま♡の膝枕で微睡まどろみたいんですけど!

 これってNTR案件なんですけど!!」

「こんなに出てこないなんてもしかして幻獣とか聖獣とか神獣とかって部類が入っているんでしょうか?」

「そんなファンタジーな分類がある訳無いじゃありませんか!

 あるのは敵か味方か格上か格下か!

 そんな事より師匠の膝が領海侵犯されている現状の打破なんですけど!」


 いつまでたっても出てこないモンスターに対する怒りをいつまでたっても起きてこない彩お嬢様へのものに変換して発散しているんですかね?


 仕方がありません、僕はいつまでも割れる事の無い卵を抱えそっと囁いてみます。


「寝坊助さんですね。お父さんもお母さんもそろそろここから出て行かないといけないんですよ。

 置いて行かれたくなかったらそろそろ出てきてくれませんか?」


 すると卵が左右にパカッと割れて中から珠のような女の子が出てきたではありませんか。


 これが男の子だったら桃太郎ならぬタマ太郎って名前になってましたよ?


 彩お嬢様のちょうど顔の上で卵が割れて女の子を受け止めるのに必死になった結果、僕は中腰になってしまいました。


 当然それはそれまで僕の膝の上で惰眠をむさぼっていた彩お嬢様に報いを与える事になります。


 割れた卵の欠片と中に残っていたわずかながら残っていた羊水が顔を直撃し、後頭部を床へ叩きつけられてしまったのでした。


 前半はともかく後半は僕のせいですから謝るしか無いんですけど、彩お嬢様は後頭部を抑えながら言葉も出ない様子で床を転げ回ってます。


 とにかく世界初のモンスター誕生の瞬間をカメラは捉え、こうして僕は二児朧丸と女の子の父となったのでした。


 人間としても未熟児サイズのモンスターの誕生で遠巻きに見ていたお化け屋敷ダンジョンのスタッフはどんちゃん騒ぎを始め、その興奮がリリーさんを産気づかせると言う副次効果を呼び、産婦人科に担ぎ込まれる間際のリリーさんからの的確な指示のおかげで僕たちは今回の探索を終わる事が出来ました。


 その間、ダンジョン所長は何も具体的な指示は出来ずただの空気のように扱われていました。


 本当にここにリリーさんが常駐してくれていてよかったですよ。他のヒトだったらただパニックが発生するだけだったでしょうから。


 ここにリリーさんを常駐させていたという慧眼だけがダンジョン本庁が今回の一件で世間に誇れる唯一の得点だと思います。


 ところが世間での評判は、ダンジョン本庁がついに迷宮氾濫オーバーフローを止めたという一点で賛辞を集めグリフォン事件での様々な失点を帳消しにした事になっています。


 僕たちが表に出たくないとごねたのが抑々そもそもの原因ではありましたがこれで大庭誠実一味の復権を意味するのでしたら僕としては面白くありません。


 森野首相の手腕を信じるしか無いのが心残りですが今は前を向いて行くしかありません。


 森野首相に一報してダンジョンに潜ったおかげか、僕と絃紫んさんは会社をクビになる事も無く平穏な日々を送れる事になりました。


 平穏イコール社畜の日々の復活ではありますが、平和が無くなれば仕事も無くなると思って新たな扶養家族たちの為にも社業にいそしむ日常が僕を待っています。


 そして週末には、一家総出でダンジョンちゃんの待つどこかのダンジョン目指して繰り出していくのです。


 そして今、僕と絃紫さんの探索者カードには甲級の文字が躍っています。


 でも僕たちは一泊二日の小旅行しかしません。


 それが僕たちにとって日常と非日常の適正な構成だからです。


―――――――――――――――――――――――――――――


 取りあえずの一区切りです・・・ん?


 何か忘れているような・・・謎の回収?女の子の正体?


 小さい事に気を取られると何も解らなくなりますよ?・・・すいません


 回収を忘れていました∑(=゚ω゚=;) マジ!?


 女の子の正体も含めて後の楽しみとさせてください・・・ヤバい!!


 次を書くチャンスがあるかどうかは・・・未定です


 とにかく最後までお付き合いいただいたみなさんありがとうございます

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社畜おじさんはダンジョンとおともだち 虎と狸の蚊は参謀 @center2

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