第7話 序章で詰むわけがない
「うちで、泊まるかい?それとも、野宿するかい?」
絶対に間違えてはいけない選択肢がいま吹き出しに出てきてしまった。
「......え、え、ーっと、」
レオンは私の背後に立っているため彼の表情を確認しようとしてもそれは振り向く方法しかなく、だからと言って、付き合ってもない男女同士が同じ屋根の下なんて良いものなのだろうか。
私が返事に悩んでいると、レオンの声が聞こえてきた。
「女将、一部屋で構わない。その部屋はこの女に割り当ててくれ」
そう告げると、彼は一人で宿を出ていってしまった。
「選択肢もくそもねぇってこと......?」
残された私は、女将に部屋を案内され、涙で枕を濡らしながら眠りについた。
翌朝、
まだ太陽が顔を出していない時間に目を覚まし、宿の前の広場に移動する。
「レイシー、出てきて」
誰もいないことを良いことにに声をかけると、眠たそうな目を擦りながら精霊が姿を現した。
「なによ、こんな朝早くから」
「もちろん、2次試験突破のために今日から動くから、手伝ってほしいのよ」
「......?もちろん、手伝うわよ」
「うん、ありがと。だから、教えてほしいの。いまの私ってどこまで魔法使えるの?」
犯罪者と拳を交える。それに備えて、実際に自分がどこまで自らの身を守ることができるのか、そして、相手を捕まれることができる魔法が使えるのか、私自身のことを知りたかった。
「......そうね、水魔法の基本魔法は一式使えると思ってもいいわ。その応用で氷魔法も使えなくはないはずよ。呪文は知ってるでしょ」
「氷魔法は前試した、グラレリウスでしょ?でも、あのときは粉雪程度しか発現してないし、それじゃ犯罪者討伐どころか、秒でこっちが倒されるのだけれど」
私のマジレスにレイシーは深くため息をつき、腰に手を当て説明し始めた。
「......未だに、精霊と契約がなにを意味するのかいまいち分かってないあんたに改めて教えてあげるわ。魔法使いが精霊と契約するメリット、それは精霊の力を借りれることよ」
「だから、私は魔法を使えるようになったんだよね?」
「そうね、あんたの場合、はじめは魔力がなかったから、まず体内に魔力が精製された。そして、あんたのその少ない魔力にあたしの力を上乗せするの。あんたが、はじめて魔法を使ったときはあたしの力を上乗せしてないから粉雪程度だったけど、犯罪者と戦うときは力を貸すわ、安心しなさい」
一通り、説明したあと、レイシーは眠たそうに欠伸をし、私の頭上に乗ってしまった。
「ふぁ、っ......あんたのことだから知ってるとは思うけど、あのレオンだってお兄様と契約を結ぶまでは魔法使いとしては言っても中の上よ。お兄様と契約をしたから上の上になったのよ。それじゃ、あたし寝るわ。何かあったら呼びなさい」
そういうと、再びレイシーは消えてしまった。
「......そういえば、知らないかも」
レオンが水の精霊と契約を結んでいるということは、本編で明かされていたが、どうして契約をするまでに至ったのか、そこまでの過去は私が知るなかではそんなシーンは見たことなかった。
「準備はできているようだな」
時刻は、朝9時。宿で簡単に朝食を食べ外に出るとそこにはレオンの姿があった。
「なにぼーっとしている、急いだ方がいい」
「と言いますと、」
「聞いていないのか?今回の試験には制限時間がある。期限は明日の夜までだ」
そんなの聞いていない!!と叫びたくなる気持ちを押さえて、言葉を飲み込み、ただ頷く。
そして、サルートの中心部に向けて歩きだした。
中心部への道のりは、道が歩道されていたこともあり、道中はそこまで困ることなく到着することができた。
強いていえば、レイシーも姿を消したままのため、レオンと二人っきりの道のりとなったわけだが、この思い空気のなかで会話をするほどのメンタルはなかったため、無言が場を包んでいたことだった。
「......さてと、ここが中心部だけれど......人いなくね?」
地方都市とはいえど、その中心ならある程度、街は栄えているかと思ったが、街並みは栄えていたが人の気配がなかった。
いや、性格には人はいるが家のなかに籠っているようだった。
「......第1ミッションから失敗じゃん」
まずは、どんなことが起きているのかその情報を得るために街の人に話を聞くことからはじめようと思っていたが、その人がいなければ話が進まない。
とりあえず、誰かいないのか街を歩いて少しでも情報がないか探ってみる。
「ここは、」
街の大通りがら一本路地裏に入った場所は、貧民外となっているようで、数名の人が外からやってきた客を物珍しそうに見ていた。
「あの、すみません」
一番私たちの近くに座っていた、老齢の女性に声をかける。
すると、彼女は目を大きく開け、喋り出した。
「あんたら、魔法騎士団の人かい!?だったら、助けてくれよ、娘が孫と一緒に連れ浚われて、戻ってこないんだよ!私の子どもだけじゃない。この街では、定期的に人が消える。だから、みんな家から出なくなっちまった」
「......教えてくれてありがとうございます。あなたの娘さんたちは私たちが探します」
知りたかった情報を一発で引くことができたおかげで、この街の状況は理解することができた。
だとしたら、問題は浚われた人たちがどこへ連れていかれたかだ。
「あの、レオン、様」
「なんだ」
少し気になったことがあり、緊張しながらも彼に声をかえる。
「ここで、事件が起きてるのは間違いないと思いますが、あなたは動かないのですか」
「今の俺は貴様の試験官だ。それ以上の動きはしない」
そういえば、先程の女性も私の背後には魔法騎士団の制服を着たレオンの姿があったのにも関わらず私に助けを求めてきた。
「もしかして、今のあなたの姿って......」
私の言葉に彼はなにも反応を示さなかったがそれが、答えを現していた。
「......そうですか」
彼の言葉にいささか、疑問に思いながらもいまはその答えを知ることはできないため、仕方なくなにかいい案がないか思考する。
そして、ひとつの方法を思いつき実行することにした。
「......やっぱり、あんたバカなのね」
時刻は夜になり、誰も外にいない静かな街を私は一人で歩いていた。
実際には姿をみることができない、レイシーやレオンも一緒のため、一人ではないのだが。
「バカって言わないでよ。これが手っ取り早いでしょ」
「だからといって自分から捕まりにいくなんて頭おかしいわ」
私の考えた作戦が気に入らなかったのか、レイシーは額に怒りマークをつけていた。
「さってと、ごほん」
ここから、私はアカデミー賞受賞レベルの演技を見せないといけないため、気合いを入れるため一息つく。
「あー、せっかくここまで着たのに泊まるところがないなんてこのままじゃ野宿だよ。どうしよ......」
ボソッと小さく呟く。夜遅く、この街を訪ねてきた旅人を装い、街のなかを歩く。
「人も、誰もいないし、どうしたら......」
どうか、食いついてくれと信じながら、呟きながら歩くこと15分。フードを被った男が声をかけてきた。
「あんた、旅人か?」
「そうです、この地域で採取できる鉱石を探しに来て、宿を探していたのですが見つからなくて......」
私が答えると男は、フードを脱ぎ、私を吟味した。
「.........宿を案内してやる。こっちにこい」
彼が発する言葉までにやけに時間があったが、第1関門突破と言ったところだろうか。
「ほんとですか!ありがとうございます!」
相手に怪しまれないように、善良な旅人感を出しながら、男について行く。
ちなみに、レイシーはいつも通り私の頭上にいるが、レオンの姿はいまは消えてた。
おい、試験官。どこに行ったとなるが、遡ること数時間前。
「悪いが、急用ができた。貴様の試験は俺の魔力で現状を探知する」
それだけを告げて彼はどこかへと行ってしまった。
「ついたぜ、お嬢さん」
「......ここが宿ですか?」
男の後を追いかけ、連れてこられた場所は深い森のなかだった。そして、彼の視線の先には洞窟があった。
「洞穴のなかに宿があるんだよ。ほら、入りな」
男に背中を押され、無理やり中に入らされそうになっ瞬間、レイシーが声をあげた。
「待ちなさい、確かにこの中から、人の気配を感じるわ。でも、簡単に入ったらだめよ。臭霧で埋め尽くされてるから、気絶するか、気を可笑しくするわよ」
彼女の言葉に足をとめる。きっと、レイシーが感じたことが正しいのだろう。
だとしたら、ここからは。
「レイシー、頼んだよ」
「任せなさい」
彼女の表情が自信満々の顔をしているのを見てから、私は男と向き合った。
「......なんか、増えてね?」
私に声をかけてきた男は一人だったが、気づけば4人フードを被った男たちに囲われていた。
「......お嬢さん、さっさと入りな。痛い目に合いたくなきゃ」
一人の男の手に魔方陣が写る。
「やーなこった!!私は、推しとハピエンを向かえるために、まずは己の無実を証明するの!ってことで、早速くらえ、グラレリウス・ランス!!」
私の詠唱とともに、浮かび上がった魔方陣から氷のつぶてが形成されて、男たちを襲う。
「こいつ、魔法使いかよ!?」
容赦なく、氷に襲われる彼らに少しだけ萎縮する。
そして、ゆっくり魔方陣が消える頃には、男たちの姿はいなくなっていた。
「とりあえず、第1関門突破ね」
レイシーがガッツポーズをしながら、私に笑いかける。
「......あの、レイシーさん」
「なによ?勝ったのに不満なの?」
「......もしかして、私、強い?」
「あんたじゃなくてあたしが強いのよ!今のところね!」
思いの外、上手くいき、恐らくネオボルトの構成員だと思われるやつらを無事に退治できたのは良かったが本題はここからである。
「......さてと、行きますか」
「...ちょっと、待ちなさいよ!生身のままで入るつもり!?」
私が、洞穴のなかに入ろうとすると、レイシーが腕をつかみそれを制した。
「だめなの?」
「言ったでしょ!?臭気がするって!こういうのは闇魔法の力なの。だから、相反する光魔法で身を守って行くのがセオリーなの!」
私の腕を掴みながら、レイシーは訴えてくるが、それについては、無駄な行動だった。
「光魔法って使えるの??」
私の素朴な質問に、彼女はスッと、表情を変え黙りこむ。そして、一息つくと口を空けた。
「悪かったわね!!あたしは水の精霊で光魔法なんて使えないわよ!!精霊のなかでもお兄様みたいに複数の属性が使える子もいるけど、あたしはそうじゃないわよ!悪かったわね!!」
マシンガントークのように、言葉を続けると、レイシーは機嫌を損ねてしまったのか、私の服のポケットに入ってしまった。
「ねぇ、この臭気って、精霊にも影響するの?」
「......全くしないとは言い切れないけど、心配されるほどのことでもないわ」
その言葉を聞いて安心した。それだったら、躊躇なく行ける。
「改めて待ってろ!こんな初期イベでゲームオーバーなんてありえないから!」
これが実際のゲームなら、きっとここで詰むようなシナリオではない。そう信じて、私は洞穴のなかへと進んだ。
ハッピーエンドまで -550
転生したので推しと結婚したいっ! 柊あか @yurun39
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