第6話 選択肢を間違えても、リカバリーはできますか
「......お前ら、全員やっぱりモブじゃねぇじゃん......」
次の試験のために、空き教室でレイシーの魔法を耐えきったメンバーと話をしているメンバーはみな、恋ライのシリーズ作の登場キャラだと把握した私は、大きくため息をついていた。
「あんたね、そんなため息ばかりをついていたら、幸せが逃げるわよ」
「......それは、困る。幸せを掴むためにこんなところまで来たのだから!」
レイシーの声につい声を出して反応する。
すると、部屋のなかにいた彼らは私を見た。
いや、ずっと見られていたがもう何度目かもわからないくらいに、私を見た。
「精霊に話しかけられたのかな?」
私のとなりに立つ、ルキ・サルタン。私の記憶が正しければ、彼はシリーズ作の攻略キャラクターだったはずだ。
「......ルキ様は、私をヤバイやつだとは思わないですか?」
「ルキで構わないよ。どうして、そう思うのかな?」
「いや、だって、平民だし。それなのに、精霊と契約を結んでるなんて......」
それに、推しに国家反逆罪をかけられている(冤罪)の人間にここまで、優しく接してくれるなんて裏があるようにしか思えなかった。
「......身分なんて、そんなのただの肩書きのひとつだ。きみが気にすることなんてないよ」
優しく微笑んでくれる、彼の姿を見て、その身分だけで人生が決まる人だっているのにと反論したくなったが、彼の名前がサルタンだということを思い出して、口を閉じた。
「それで、僕からもひとつ聞いて良いかな?」
「答えられる範囲なら」
「それで、十分だよ。きみはどうして、この入学試験を受けようと思ったの?」
「......それは、」
きっと、ここにいる誰よりも無粋な理由には違いないため、言葉にするのには抵抗があるが、素直にいってしまってもいいのだろうか。私が、返事に困ってると頭上のレイシーが深いため息をついた。
「あんたね、もっと自信を持ちなさいよ!!このあたしがついてるのよ!ほら、さっさと言いなさい!」
彼女の声に背中を押され、悩みながらも口にする。
そうだ、こういうのは口にした方が叶う、そんな気がする。
「それは、最推しレオンと付き合って結婚したいからです!!!」
私の宣言が空き教室内に響いた瞬間、コンコンっと、静かになった部屋にはノックの音聞こえて、ガチャっと重厚なドアが開いた。
「.......ごほん、どうやら全員揃っているようだな」
部屋のなかに入ってきたのは、先程一次試験の時にもいた、おそらく学校の先生と思われる人2名と、魔法騎士団の制服を着た人が3名。
その中に、推し姿があった。
「.........終わった」
次こそ、誰にも聞こえないようにボソッと声をだし、ルキ様もとい、居心地が一気に悪くなり、ルキの背中に身を隠す。
「......どうして、身を隠すんだい?」
「無粋な理由で受験しているので」
「......僕は、それもそれでりっぱな理由だと思うけどな。好きな人に近づきたい。ちゃんとした理由だよ」
背中越しで、彼の表情は見えないが、聞こえてくる声色から、私のことを否定してないことだけはわかる。
「雑談はそこまで。全員揃っているため、2次試験の内容を説明する。本来ならば、3次試験が最後の予定であったが、人数が絞れたからこれが最後の試験とする。......試験内容は実践だ」
先生が持っていた杖を床に叩くとそこには、このライネドル王国の地図が広げられた。その地図の中には、5つの星が描かれていた。
「この星が描かれている場所で実践を行ってもらう。試験内容は場所によってさまざま。1人ひとつ、選んでもらうため簡単に説明しよう」
そうして、2次試験という名の最終試験の内容が説明された。
「ひとつ、西方にあるルードギア砂漠にて、盗賊被害が報告されている。その、実害を調査すること」
「ひとつ、南方にあるサラニー海岸にて、魔法海洋生物が暴れていると報告あり。被害を確かめ、害をなすと判断した場合討伐すること」
「ひとつ、同じく南方にあるスーラニ地域にて酷い干ばつが多発し、田畑がだめになっている。その原因調査」
「ひとつ、東方にあるサルート地域にて、謎の犯罪者集団による事件が多発。その調査、および解決」
「ひとつ、北方にあるマーマレ地方にて生息しているマーマレウサギが密漁により数を減らしていると報告あり。その密漁者確保」
淡々と述べられた、その説明を聞いてこの場にいる受験者4人はわずかに顔をしかめるのを私は見逃さなかった。
「まだ、生徒でもない、受験生にここまでのことをなさるのですか?」
この試験内容に開講を切ったのは、私に喧嘩を売ってきたシャラだった。
「もちろん、君たちを一人で行かせはしない。各試験においては、ここにいる我々が試験官および非常の際に君たちの保護を勤める。......他になにか質問は?」
その言葉を聞き、全員が黙った。
「無いようであれば、早い者勝ちだ。好きな星を選べ」
お髭のはえている一番、立場がありそうな先生がそう告げると地図上の星は浮き上がり、形になって現れた。
「じゃ、俺は砂漠での盗賊被害だな」
一番に星を取ったのはレオドールだった。
「なら、わたくしは、北方へ行きましょう。密漁なんてする愚か者を看過できませんわ」
次に、星を取ったのはシャラだった。
「なら、これにするよ」
そして、ノアが南方、スーラニ地域の星を取る。
この時点で残った星は、VS海洋生物または犯罪者だった。
「どっちも、無理ゲーじゃね??」
星を選んでいないのは私とロキだけであり、彼の方をチラッと見てみると、残り物でいいのか、私に目線で先に取るよう促していた。
「ねぇ、あたしに良い案があるのだけれど」
「なにかな、レイシー」
声には出さず脳内で彼女と会話をする。
「東方、サルートを選ぶのよ。そして、犯罪組織とドンパチする。それをすることによって、あんたにかけられている嫌疑を晴らすのよ」
その言葉を聞いて、私は真っ先に東に浮かぶ星を選んだ。
「なら、僕はこれで」
そして、残った星をロキが取ると、試験官は口を開けた。
「それでは、全員選んだな。詳細は、貴殿らが持っている星のなかに書かれている。それを参考に準備するがよい」
そう告げると、試験官たちは全員部屋を出ていった。
残された受験生は各々星の中身を開いて詳細を確認する。
「ぼさっとしてないで、あんたもさっさと開きなさいよ」
レイシーの声に、持っていた星を開くと、そこには集合時間と集合場所の記載があった。
「......って、あと15分しかないじゃん!?」
書かれていた詳細は、正門前に15分後の時間だった。
それだけだった。
準備もくそもする時間もない。なにも用意できず、いまの装備のままで出かけることになる。
「時間がないわね、せめて水と食べ物だけでも買いにいくわよ」
「わかってる、確かに冒険には必須アイテムだ」
私はこのお世辞にも居心地が良いとは言いきれない、空き教室を逃げるように出ていった。
「......面白い方ですわね、あの方」
「そういうのであれば、あまりいじめなければよかったのでは?」
「だって、気になるじゃない。平民が精霊と契約を結べるなんて。たしか、最近魔法学校に入学された光の魔力を持っている女性でさえ、契約は結んでないはずですわ」
「......本人がいない場所で噂話はよくないよ」
「兄貴は、どうしてそこまで、あの女の擁護を......」
私がいなくなった部屋でされていた会話を私が知るのはまだ当分先のことであった。
「レイシーが買い物しすぎたせいで遅れたじゃん!時間!!」
レイシーの言葉で冒険に備えて買い込みをしようとしたら、想定の倍よりも売店が遠かったのと、彼女が買うものに悩みに悩みまくったせいで、思わぬ時間を消費してしまい、気づけば集合時間を15分以上遅れていた。
私が出せる全速力で集合場所である正門前に向かうとそこには、黒い制服を着て立っている青年の姿が見えた。
「......遅刻とは、上からの命がなければ失格にしていたぞ」
「......申し訳ございませんでした」
そこには、見間違えるわけがない。推しの姿があった。これから、推しと一緒にワクワク犯罪者捕縛作戦ってこと??え、こんな突発イベント聞いていませんし、レオンルートでもなかったなと思っていたがそもそも、私はヒロインじゃないから、ゲームと同じシナリオで進むわけがなかった。
「やったわね!思った通りよ、東を選べばレオンがくると思ってたのよ!」
推しに会えた私の喜びよりも、レイシーのほうが何倍も喜んでいた。
「......なにをぼーっとしている。試験はもう始まっているぞ」
「あ、っ、はい!......はい......」
そう言われても、これからどうすれば良いのか困る。
とりあえずは、被害が起きている東方サルート地域に向かうべきだが、いざ困ったことにサルート地域が一切わからない。
ゲーム中では、細かい地方名が出ることはなく、全て南北東西で、この国の地理が説明されていたため、地域名を出されてもなにわからなかった。
「......冒険の書という名前のマップが必要だ」
冒険は、やはり準備が大事だという。
「......あの、これはもう私は自由に動いていいということですかね」
「俺は貴様を見張るだけだ。勝手にするがいい」
レオンの許可を取り、まずは装備を備えるために王都の商店街に向かうとした。
そして、この国のマップや、寝袋、サバイバルキットなどを一式買ったあと、ちょうどサルート地域まで行く馬車があったため、それに乗り込むことにした。
「もう、魔法使いなのだから空を飛べば早いのに」
馬車での移動が不服なのか、レイシーはずっと文句を言っていた。
ちなみに、移動開始するまでにすでに数時間経っており、時刻は夜に近づいていた。
「ここから、サルートまでは約6時間。日付が変わるまでには着くよ」
レオンには私が精霊と契約を結んでいることは気づかれているため、彼女も姿を隠すことなく、レオンの前に現していたため、気にせず口に出す。
ちなみに、ここまで、レオンは一切しゃべることなく私たちのことを見ていた。
せっかく、推しと一緒に同じ空間にいるというのに、この地獄みたいな空気は本当になぜなのだろうか。
「それは、あんたの行動のせいでしょ」
「私の心のなかを読むのやめてもらっていいかな?」
私が広げたライネドル王国の地図の上に座りながら、レイシーは私を見つめる。
「それで、どうするの?」
彼女はサルート地域を指差し、私を見た。
「......たぶん、大丈夫だと思う。考えがあるから」
もともと、あの5つの星の説明を聞いたときに私は東の星を選ぶつもりでいた。彼女の言葉がなくてもこれを選ぶつもりでいた。
その理由は、東方地域は基本どの攻略ルートでもあまり登場することがない地域であり、たった唯一話題あがるのは、追加コンテンツで登場したネオボルトのリーダーの攻略ルートだった。
「......ってことよ、わかるでしょ?」
あえて口に出さずに脳内でレイシーに言葉を伝えた訳は、目の前にレオンがいるというのに、ネオボルトの名前を出す訳にはいなかったからだ。また、疑われてしまう、もう疑われているが。
「......そういうことね、自分で晴らすと」
「そういうことって、なんかテンション下がってない?」
「気のせいよ」
馬車に揺られてようやく折り返し地点に着いた頃には、出発したばかりのあの高いテンションとは異なり、レイシーのテンションは明らかに下がっていた。
「あたし、疲れたから休憩するわ。あ、でも安心しなさい。契約がある以上は、あんたのピンチには助けたあげるから」
そういうと、彼女は私の視界から消えてしまった。
ここで、ふと思う。レイシーの口から何度も契約という言葉が出でくるが一体私と彼女はどんな契約を結んでるいるのだろうか。
すべて、あの大精霊レイによって、トントン拍子に話が進んでしまったため、未だに理解していなかった。
「......まあ、また聞けばいいか」
そっと、目の前にいるレオンの方をチラ見する。
整った端正な顔立ちに、似合う白い肌と漆黒の髪がなんとも言えない色気を醸し出している。
やはり、私の推し最高じゃね?
と心からの本音が口から出そうになるが、これ以上彼との関係を悪化されてしまったら、まじで人生が詰んででしまうのでなんとか、言葉を飲み込み、サルート地域に到着するまで窓に映る推しの姿を眺めていた。
それから、馬車に揺られて数時間。
「お嬢さん方、着きましたぜ」
なんとか、沈黙の時間を耐えきり、御者に声をかけられ、馬車から降りる。
「ここが、サルート......」
すでに、目的地に着いた時には陽は暮れており、夜空にはお月さまが出ていた。
さすがに、この時間からの探索はよくないと考え、御者のおじさんに、近くに宿はないか訪ね、教えてもらった宿に行くことにした。
「悪いけど、今日は二部屋は空いてないよ」
「......うぇ??」
宿の女将さんから、言われた言葉につい抜けた言葉が出てしまう。
「うち以外にもこの近辺には宿はないからね、サルート中心部までいけばまだしも、この辺りじゃね。どうする?うちで、泊まるかい?それとも、野宿するかい?」
私の背後に立つ、推し(好感度おそらく底辺)と同じ部屋の元で過ごすか、見知らぬと土地で人生初の野宿をするのか、間違えてはいけない二択が提示されてしまった。
ハッピーエンドまで -550
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