第5話 ゲームの世界で、モブを見つけるのは難しい


「それでは、実践形式での試験をはじめる。ルールは簡単。今、この広間には受験生56人がいる。そのうち、15人までに生き残れば、第一試験クリアだ。意識を失ったり、魔力を使い果たしたものはその時点で脱落となる。なにか、質問があるものはいるか?」


試験官が淡々と呟く言葉に、広間は静けさに包まれる。


「......56人中15人ってやばくね??」

私の頭上で浮かぶレイシーと顔を見合せ、彼女にしか聞こえないように、脳内でやり取りをする。

「実践なんて聞いてないし、そもそも私、魔法が使えて数日のひよっこなのに、いけるのこれ?」

「あんたね、あたしをなんだと思ってるの。レイには及ばないけれどこれでも、名前のある精霊なのよ?」

「いやいや、この前言ってたじゃん。いきなり大きな魔法が使えるわけないって」

「それはそうね」


はい、詰みである。

レオンルート攻略を目指し、動き始めたモブ。

そもそも、土俵に立てずに詰みである。


「質問が無いようであれば、早速で悪いが試験を開始する!はじめ!!」  


試験官の声と共に、辺りから魔法を発動する詠唱の声が聞こえる。

一人状況についていけず、置いてけぼりの私を残して、入学試験は始まった。



「ぼさっとしていたら、やられてしまうよ」


さて、どうするかと一人悩んでいると、例のイケメンに声をかけられた。

「......あなただって、ライバルなのにこんなぼさっとしてる私に対して攻撃をしないんですね」

「無抵抗な人を攻撃するのは僕のポリシーに反するだけさ」


彼は微笑み、そう言うと戦闘の中心部へと行ってしまった。

「......行動までイケメンかよ」  

「そこの女、覚悟しろよ!!女だって手加減しねぇからな!!」


私がイケメンのいけてる行動に浸っていると、私とそこまで顔面のレベルが変わらない男が声をかけてくる。

きっと、きみはモブだな。私と仲間だ。なんて、考えていたところ、彼が私に手を向けて魔方陣を描く。


「フレイア!!」


赤く光る魔方陣共に、火の呪文を唱え、火炎放射が私に向かい放たれた。


「普通に死ぬが!?これ!?」

一人、なにもできずにテンパっていると、レイシーが冷静に声をかけてくる。

「......はあ。ほんと、あんたはあたしがいないとなにもできないのね。......今回だけの特別よ」


レイシーは大きく空に向けて手をあげると、そこには広間を覆う大きさの魔方陣が作られた。


「ほう、あの魔力は......」


遠くの方で、魔法学校の教授が私の方を見て感心してる声が聞こえるが、待ってくれ。私はなにもしていない。


「行くわよ、大量の水!!!」


「......だっっっさ」


とても、ださい詠唱だった。

しかし、そのだささ加減とは反対にレイシーが声をあげるのと同時に、空からダムの大放出並みの勢いで水が溢れだした。


私一人だけその水の放出に巻き込まれること無く、他のもの達が大量の水によってできた渦の中心へと引き寄せられていく。

そして、レイシーが指を鳴らすと広間から一瞬にして水は消え、その中心には巻き込まれて気を失っているもの達で溢れていた。


「......え、死んでないよね??」

「失礼なこというわね!?あたしが、そんなことするわけないでしょ。それに、なんなの、さっきの言葉。あたしの魔法をださいって言ったわね!?」


確かに言った。だって、本編のストーリーではいつもかっこいい魔法の詠唱ばかりだったからだ。

「とにかく、あたしのお陰でほら!ほとんどの敵はいなくなったのだから!」


レイシーの言う通り、彼女が発動した魔法により

広間の中には立っているのは、私を含め5人のみだった。


「.......15名を切ったので、第一試験はここで終わりとする」

 

試験官のその淡々とした声にはっと、我に変える。

周りの視線が私に突き刺さる。


「あの、レイシーさん」

「なによ」

「いま、レイシーの姿って、見えてるんだよね?」

「そんなわけないでしょ。あたしみたいな精霊がのこのこと顔を出すわけないじゃない」


その言葉に改めて、自分に向けられた視線に気づく。

「.......カムバック、転生前の私」


こんなにも、行きたいと願った世界なのに、やはりここまでの転生特典はいらなかった。



それから、第2試験が始まるまで、別室で待機するように命じられ、勝ち抜いたというか、レイシーの魔法に耐えきったメンバーは、空き教室へと案内された。


「........」


勝ち残ったメンバーの視線が突き刺さる。

こんなとき、例のイケメンがいればよかったものの、彼も勝ち残っていたはずなのに、いまはこの場にはいなかった。


痛い、とにかく痛い視線が私に突き刺さる。

少しでも、冷静になろうと辺りを見渡し、レイシーの水爆弾を生き残った面子を観察する。


あの、イケメンと合わせて4人。

私とそこまで年齢が変わらなそうな、きれいな白銀の髪をした女の子。彼女はあまり私のことに興味がないのか、本を読んでいた。読んでいる本はどうやら、いまをときめく、恋愛小説のようだった。

 

そして、黒髪と、茶髪の男性。この二人はよく見たら顔が似ているため、双子または兄弟なのかもしれない。年齢は、私より少し上ぐらいだろうか。20代前半くらいの様子に見受けた。


「......揃いも揃って顔がいいやつしかいないの、なあぜ??」


つい、心のなかでずっと思っていた言葉が口から溢れてしまった。

あの、イケメン含め、生き残った人たちは皆、顔がよかった。そして、これだけ顔がいいのに私には一切彼らの見覚えがなかった。

こんなにも、顔がいい人たちが私と同列のモブとは思えないが、覚えがないものをは仕方がない。


だからといって、この緊迫した空気をぶっ壊して、仲良くなるには、ハードルが高すぎる。


「なに、頭をなかでごちゃごちゃ考えてるのよ」


レイシーの言葉が頭の中に響き渡る。

それに、反応できるほどの元気はもうなかった。


「試験中とは思えない、重さだね」

ガチャっと、音を立てて一人の青年が部屋に入ってくる。例のイケメンだ。

「誰のせいだと思ってるんだ。ああ?」


そのイケメンに食いついたのは、兄弟疑惑がある茶髪の男だった。

「......僕のせいかい?」

「ちげぇーよ!!あの女だろ!?」

茶髪の男が私を指差し、睨み付ける。

「......は?」

突然、リングに乗せられてしまい、小鹿のように足が振るえるのは冗談だが、この場にいる全員の視線が改めて私に刺さる。


「確かに、彼女の魔法には驚いたが、なんの不思議でもない。この魔法学校の受験資格は魔法が使えるものであっても、誰にだって与えられるものではないのだから」

「だとしても、おかしいだろ!?あの、魔力量は、魔法師団長並みだぞ!?そんなやつが、今さらなんで、」 

どうやら、茶髪の男は私の力が、気に入らないようだが、それについては私も同意である。

......ここまで、大きな力をいらなかった。


「......悪かったわね。このあたしの力が大きすぎて」

私の頭にレイシーが座り、少し居心地悪そうな顔をする。

「いや、別にあなたを攻めているわけじゃ。そもそも、よくわからないのに、自己完結を決めて、あなたを召喚した、あの大精霊に原因が......アっ」 


つい、落ち込んでいる彼女を慰めるために、声に出してしまった言葉を飲み込んだが、時すでに遅し。

この場にいる四人が、呆然と私の方を見つめていた。


「......ねぇ、あなた」  


凛とした、きれいな声が響き渡る。

その持ち主は、白銀の髪を持つ美女だった。

「......はい」

「そうかしこまらなくても、わたくしの名前はシャラ・フランドーラ。どうぞ、よろしく」

シャラと名乗った彼女は読んでいた本を閉じ、立ち上がり笑顔で私に手を差し出した。

その様子はまるで、天使と呼んでも相違がなかった。

「ど、どうも。アリサ・ルナロットと申します」

その手を握り返すと、シャラは微笑みこう告げた。


「......平民の癖に、精霊と契約を結んでるなんて。なんて、生意気なこと」


何度目かもわからない前言撤回である。

この女、天使は天使でも、堕天使であった。


「この女、ムカつくぅーーー!!姿を表して、この女のきれいな顔に水掛けてやろうかしら!?」

私の頭上で、座っていたレイシーが立ち上がり、私の顔の前に飛び出す。

お願いだからやめてくれ、これ以上私の肩身を狭くしないでくれ。


「あら?ご自身が精霊と契約を結んでいることについては、なにも反応しないのかしら?」

「まあ、まあ。フランドーラ嬢」


この重たすぎる空気の中、言葉を切り出したのはあのイケメンだった。


「精霊との、契約は守秘義務があることもあると言うし、人の秘密をむやみに暴くものではないよ」

「......それもそうですわね、失礼しましたわ。でも、わたくしは、納得いきませんよ。あの巨大魔法が精霊の力だとしたら、この方実力ではないのですから」


シャラはそう言うと、私から離れた席に座り、手に持っていた本を再び開いた。


「その通りだ!!」


ずっと、私とシャラの様子を静観していた茶髪の男が声をあげた。


「きみは、たしかライトン家の、」

「レオドール・ラントンだ。で、こちらが、兄のノア・ラントンだ」

「それで、きみは彼女のなにが不服なのかな?」

「それは、その女が精霊の力で、試験を突破したことだ!その女の精霊の力で、一次試験で活躍するという俺の計画は台無しだ!!」

「......と言っているけど、なにか反論はあるかい?」


イケメンくんは、私を怖がらせないためか、優しい口調で話しかけてくれる。

その優しさが身に染みていまにも、泣きそうになる。

「......まあ、とくになにも」

ここで、そうですと肯定すれば、怒鳴られるだろうし、否定すればそれはそれで、騒ぎが大きくなるには違いないため、どうとでも取れる答えをする以外に選択肢はなかった。

「なんなんだ!その中途半端な答えは!」

「......やめな、レオ。みっともない」

いまにも、私の首もとを掴む勢いで、私に近づこうとしたところ、黒髪の青年。もとい、ノアが間に入ったきて私とイケメンくんの前に立ち塞がった。


「兄貴、でも、」

「女の子を怖がらせたらダメだよ。それに、精霊は誰とだって契約を結べる訳じゃない。彼女は精霊と契約を結べるその力があってこそだよ。......怖がらせてごめんね」


ノアの微笑といっても、過言ではない微笑みを食らう。なんなんだ、この顔の良さ率は。きみたちは、本当にモブなのか。


「......とりあえずは、落ち着いたかな」

私の前に立ってくれていた、イケメンくんが私の方を振り向き、手を差し出してくる。


「え、っと、」

「自己紹介がまだだったからね。僕の名前は、ルキ・サルタン。どうぞ、よろしく」


その名前を聞いて、私はまた悲鳴を上げた。




ここで、皆のもの。「恋歌のライネドル」には、続編があることを知っているだろか。


正確には、恋歌のライネドルの世界線で別の国視点でプレイできる、所謂パラレルワールドみたいな感じのストーリーを体験できるのが、「恋歌のライネドル ~another version ~」だった。


大好きな、恋ライのシリーズ作ということもあり、気にはなっていたが、私にはすでに心決めた推しがいたため、浮気はよくないと思い、少しだけキャラクター紹介を眺め、ゲーム自体はプレイをしていなかった。


しかし、いま。その名前を聞いて完全に記憶が蘇った。


「......お前ら、全員やっぱりモブじゃねぇじゃん......」


この世界で、飛び抜けて顔が良いやつらは、やはりみんなゲームのキャラだった。



ハッピーエンドまで -550


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