第4話 #レベル1でラスボスに挑んでみた


「......くーりんぐおふ?というのがなに分からないけれど、あたしの力が必要なのかしら?」


父と母が倒れてたら数時間後、なんとか意識を取り戻した、二人は誰も居なくなった、お店のカウンターに座り、レイシーをもてなしていた。

「……あーあ、っと。ごめん、やっぱなんでもない」

私の言葉の意味が伝わらないことをいいことに、口から出した言葉の訂正をする。

「とりあえず、あたしとあんたはこれから王都の東にある神殿に行き、洗礼を受けるの。それで、無事に、魔力の保持が認められたら魔法学校に入学ができるわけ!」

レイシーは出されたお茶を飲み干すと立ち上がり、三度私の背中を押した。

「ってことで、パパ、ママ。美味しいお茶をありがとうっ。この子を借りるわね!」

私に口を挟ませないように、今だに呆然としている両親を置いてけぼりし、家を出る。

「……って、なによ。なにか不服そうな顔してるわね、あんた」

「不服と言いますか、ついていけないと言いますか……」

神殿に向けて、王都内を歩きながら、自分の置かれている状況を考える。

まず、その1。理由は分からないが、異世界転生を果たした。

その2、推しと恋愛したい、あわよくば結婚したいと思い、会合を目指した。

その3、その結果、運悪く、犯罪者に間違われ、万事休す。

その4、不憫に思った、この国のトップオブトップ精霊のおかげでギリ耐える。

そして今、よく分からないまま、この美少女精霊と契約を結んだ←今ココである。


「あら、あたしが美少女なんて。よく分かってるじゃない」

「……私の心を読むのやめてもらってもいいかな?」

私の纏まりきらない思考を、こう何度も読まれていては、下手に変なことを妄想できない。

「とにかく!神殿で、洗礼を受ける。それで、受かったら魔法学校の入学試験を受ける!これで行くわよ!レオンと結婚したいのならこれが最短よ!」

「……レイシーは、私に敵なの、味方なの?」

私がレオンと付き合いという煩悩の塊にも関わらず、この子は私に対して比較的に、好意的な行動を取ってくれる。

「あたしたち精霊は、基本契約者の味方よ。それに、あたしに力で人間を幸せにするのなんて、面白そうじゃない!」

前言撤回、この子は私のことをきっと玩具のように思っているのだろう。

「なに、気に食わないのなら頭で思ってるんじゃなくて口に出しなさいよ!……まあ、いいわ。それよりも着いたわよ」

レイシーの案内でたどり着いたのは、王都の東地区にある。この国で最も大きい神殿だった。

「……この神殿って」

間違いなく、初めてみるもの。でも、そんな気がしないのは画面越しで何度も見たことがあるものだった。

「もしかして、セントワーヌ神殿!?」

「他に何があるって言うの?」

「だって、だって!セントワーヌ神殿って、レオンルートのバッドエンドで出てくる所じゃん!ここで、ヒロインはネオボルトの策略に巻き込まれて、催眠にかけられて大好きなレオンを襲ってしまうの。レオンだけではなくて、王都の人も巻き込もうとしたヒロインに、レオンは」

「うっるさいわね!!あんたって、頭の中も煩いのに、口に出しても煩いのね!」

レイシーの甲高い声が神殿前に響く。

その時、遠くから小さな男の子が私を指さし、隣の母親に問いかけた。


「ねぇ、ママ。あのお姉さん。誰もいない場所に向かって話してるのなんで?」

「こら、人の指ささないの!」


レイシー。この声が聞こえていますか。聞こえていたら教えてください。貴方の姿は私にしか見えないのでしょうか。

目の前にいるレイシーの姿を確認すると、彼女はコクっと頷いた。

そういう大事なことはもっと早く教えて欲しい物だった。

「……わーっと、ここがかの有名な神殿かー。すっごい、中楽しみだなあ!」

少しでも、始めてきた観光客感を醸し出し、親子たちの冷たい視線から逃げるように駆け足で神殿の中へと入って行った。


「……ここが、あのバッドエンドの」

神殿の中は、とても静かで聖職者だと思わしき、人たちが数人、忙しそうに歩いていた。


「中心にある、胸元に緑のハンカチを入れている人がいるでしょ。あの人に声をかけて、洗礼を受けに来たことを話しなさい」

私にしか聞こえないレイシーの声に、頷き、中央にある台座に座っている神官に声をかける。


「あの、すみません。洗礼を受けに来たのですが……」

「あー、洗礼。洗礼ね。きみの年齢で、今更洗礼なんて……っ、いますぐ受けようこちらに!!」

わずか、数秒で掌返しされたことに困惑しながらも、神官の目が私ではなく、私の頭上に浮いているレイシーを見つめていたことからなんとなく状況を把握する。

「……ほかの人には見えなんじゃなかったの?」

「あたしの契約者が舐められたら困るから姿を見えるようにしてあげたのよ。次は無いわ。さっさと、洗礼を終わらせることね」


神官が私を手招きで呼び、神殿の奥に繋がる大きな扉が音を立てて開くと、そこには豪壮なステンドグラスがあった。

「……やっぱり、ここはあのエンドの……」

「さぁ、お嬢さん。はやく、こちらへ」

オタクが聖地巡礼に感極まる瞬間もなく、神官に手を引かれ、中央の台座まで近づく。台座の上には、盃が置かれていた。

「この盃の上にきみの血を」

「……は??」

神官に差し出されたナイフを、目を丸くして見つめる。

「さあ」

押し付けられて受け取ってしまったそれを、私は見つめる。

「早くしなさいよ」

目の前の神官からも、頭上のレイシーからも即され、仕方なくナイフをそっと指に突き立てる。ちくっとした一瞬の痛みと共に、ぽた、ぽたっと血が溢れ出す。

溢れ出た血が一滴、盃に落ちると盃は青く光り出した。

「……たしかに、きみには水魔法の属性がある。以上で、洗礼は終了だ。では」

神官は、定型文のように言葉を述べると、広間から去って行った。

「え、終わり?」

「そうよ、終わりよ。これで、あんたはただの平民から魔法が使える平民よ」

レイシーは、詰まらなそうに髪の毛をいじると、ため息をついた。

「終わったのだから、早くここを出るわよ」

「……そっちが無理やりここに連れてきたのに、そんなに早く帰りたいの?」

「……帰りたいわよ!行くわよ!」

レイシーが来た道を羽ばたかせながら戻る。その姿を見ながらも、せっかく聖地に来たのだ。神殿なんて、滅多に来れないと思い、じっくり観察しようと見回った瞬間、頭上にある天井画に気づいた。

「……なるほど、これは早く帰りたいわ」


そこには、ゲームの中では見えなかった、この国の象徴である大精霊レイをはじめとする精霊たちの姿が描かれていた。



「さてと、洗礼も終わったし、次にすることは魔法学校入学ね」

家に帰って来た後、未だに現実が掴み切れていない両親をよそ目にレイシーは、残り物のデザートを平らげると、私に私室のベッドの上に横たわった。

部屋の主である私は、床に座っていた。

「魔法学校って、王立のだよね?」

「それ以外にあるのかしら?受験資格は魔法が使えるもの。だから、平民のあんたでも受けることができすはずよ。……受かるかは知らないけどね」

「そこは、最後まで補償すべきでは??」

「……平民は元々魔法が使える人が少ないのよ。だから、魔法学校に通う子たちも貴族が多いの。割合としては多く見ても8対2ね」

ふああーっと、可愛い声を発しながら、欠伸をしたレイシーは、眠そうに目を擦っている。

「……あの、私そもそも魔法学校に入るなんて」

「レオンと結婚したいんじゃなの?」

「……それはそうだけれど、いまの私とレオンの関係知ってる?関係値最悪よ??」

「あら、そうなの?それはあたしが知ったことじゃないけど。それで、嫌なの?」

「嫌ではないけれど、いきなり魔法学校はレベルがたけぇっというか、モブがストーリーに介入しちゃってもいいのか……」

「もう!さっきから、よく分からないことを言うのね。はっきりしなさい!あんたは、レオンと結婚したいのでしょ!?」

「はい、したいです。ずっと、夢女子をしていました。同担むりです」

「その言葉もわからないけれど、そうと決まれば、魔法学校入学、そして卒業し、魔法騎士団に入る。それが最短よ。どうやら、明日。入学試験あるみたいだし、行くわよ。それじゃ、あたしは寝るわ」

レイシーは、オタク顔負けの早口を決めた後、姿を消してしまった。

「……明日??」


部屋に一人、脳内がスペースキャット状態の私を残して。



「……ってことらしいので、魔法学校の入学試験を受けてまいります」

翌朝、少しくらいは落ち着いたと信じ、両親に昨日会ったことを改めて話をしていた。

「……ごめんなさいね、アリサ。あなたの話がまだ理解できてないのだけれど、とにかく。魔法が使えるようになって、結婚したい人を追いかけるために、魔法学校に入学をしたいのね」

「で、王立魔法学校は定期的に入学生を募っていて、その試験が今日あって、取りび入り参加おっけーらしいので、行ってまいります」

現状を説明した後、母はなんとなくを理解したみたいだが、父はまだ唖然としていた。

「とりあえず、頑張ってきなさい。お店のことは大丈夫だから」

「う、うん。行ってきます」

「行ってくるわね、ママ、パパ」


母から持たされたサンドイッチを鞄にしまい、王都に西にある魔法学校へ向かう。

きっと、貴族たちが多いと思い、少しでも見栄えするように、まだ一度も着ていないおろしたてのワンピースを着て、少しでも気合を入れる。

「まあ、馬子にも衣装ね」

「うるさい」

今日も今日とて、私の頭上を浮かぶ、レイシーは昨日と打って変わり、機嫌がいいようで笑顔だった。

「てか、今日はなんでそんな機嫌がいいの?」

「精霊の機嫌を伺うなんて、頭が高くなったわね。あんたはさっさと、入試に受かればいいのよ」

私に対する辛辣な言葉は何ひとつとして変わらないが、それでも今日のレイシーは昨日とは異なり、頬を緩めていた。

「ここよ、王立魔法学校は。もう、受験の受付をしてるわね」

王宮に引けを取らない、大きさを持つこの国唯一の魔法学校には、入学の募集要項は、魔法が使用できるもののみということもあり、老若男女さまざまな人が簡易テントのようなものの下にある、受付台に列をなしていた。

「……まじで、ほぼ貴族じゃん」

並んでいる人たちの身なりが、普段私が着ている服と異なることから、すぐに身分の格差を察する。

「早く並びなさい」

分かっているよと声を出しかけたが、彼女の姿は今は私にしか見えていないため、脳内で返事をし、長蛇の列に並ぶ。

「次の方」

「あ、はい」

「ここにお名前を」

魔法騎士団特有の黒い制服を着た人が、差しだした万年筆を握る。

「……アリサ・ルナロット。きみはたしか、反逆罪の……」

「無罪です!!まじで、白です!!!!」

そういえば、レイシーの流れに流され、ここにきてしまったが、自分の置かれている状況を完全に忘れていた。

「……とにかく、受付を完了した」


受付をしてくれた人の長い間が少し気になったが、無事に事務的処理が終わったことにとりあえずは安心し、他の受験生たちが待つ広場へと移動する。

広場には、既に30人ほどの人が集まり、入ってきたものを吟味していた。

その中で、私を噂する声が聞こえる。

「あの子は平民の子?」

「さぁ?お茶会でも見たことないわ」

「平民ねぇ……。まぁ、魔法が使える方も一定数いますしね」

やはり、私が平民だということが気にかかるようだった。


「……王立というのに、影口が絶えないとは。落ちたものだな」

私の背後から声は聞こえて、咄嗟に振り向く。そこには、私が見たことない顔をしたイケメンがいた。


イケメンがいた。

「?どうしたのかな?」

「あ、イエ……」

この王都に出会う人たちは基本、顔が良い。しかし、中には飛びぬけて顔のいい女と男がいる。それが、このゲームの関係者、キャラデザがあるものといったところだが、私に声をかけてきた、めちゃくちゃ顔の良い、暗めの青髪をしたこの青年を私は見たことなかった。

「ならいいけど。これから、試験だし。お互い、緊張しないようにがんばろうね」

爽やかな笑顔と共に、去って行ったその青年をどんなに思い出しても、思い出せなかった。

「……あれだけ顔がいいのに、モブとかある……?」

誰にも聞こえないように、小さく囁いた言葉を彼が聞いていたなんてこの時は思いもしなかった。






「それでは、入学試験をはじめる。今回の試験を執り行うのは、我々第一師団と、きみたちが将来世話になるであろう魔法学校の教師たちだ」

私が広間にやってきてから、約一時間後。受付を締め切り、広間の中には約50名ほどの人が集まっていた。

「早速で悪いが、今ここで第一試験をさせてもらう」

試験を取り仕切る、第一師団所属の隊員が、声を上げる。


「その名も、実戦だ」

「初戦から詰みーーーーっ!!」


魔法学校に入れば、その後はイージーとまではいかぬとも、ノーマルモードくらいにはなるかと思いきや、この世界はやはり私にとってはハードモードだった。


ハッピーエンドまで -550

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