カミサマラシサ(カミサマノセカイより)〈コミティア146 サンプル〉

ワニとカエル社

カミサマラシサ〈コミティア146サンプル〉


三笠みかさくんてさぁ……ホントに悪魔なの?」

 幼稚園に似付かわしくない二人だった。それにお迎えには時間が早すぎる。なにより、二人とも子供がいるような年には見えない。

 口を開いたのは、女性。豊満なバストを見せ付けるようなチューブトップにパンツが見えそうな短いスカートを履いていて、その格好から母性は程遠い。

 対して横に立っているのは、まだ中学生になったばかりの男子。学生服が真新しい。

「失礼な! この僕は正真正銘、純血の煉獄生まれの貴族院出身ですよ。この黒髪が証拠ですっ」

 誇らしげに自分の髪を指差す三笠。つまらなそうに女性は目を閉じて、欠伸を一つ。

「残念だけど、貴族証明である黒髪も、この東洋人エリアだと目立たないんだよね、世間知らずくん。

 そういう高飛車なところ、主から嫌いだっていつも言われてなかったっけ?

 それよりきゃんきゃん吠えないでよぉー…二日酔いなんだからさぁ」

「この僕が主探しで奔走していたのに、ゆいさんはお酒を飲んでたんですか!」

 そんなやりとりをしながら、二人は幼稚園で、神様を待っていた。この世界を統治する神を支える二柱として、三笠は悪魔、結は天使。神が『生まれ変わった』と知り、二人は探していたのだ。

 …否、正確には三笠が、だ。結は片翼の天使のくせに全く働かず、すっかり娯楽を楽しんでいた。対して三笠は、忠犬のように主探しであちこち奔走し、勉学も力を抜かない品行方正な悪魔だった。

「結さん、何度目か分かりませんが、いい加減もう酒は止めてくださいね。主の前でそんな胸をさらけだすような格好もいけません。一応大学生なんですから、学生の本分としてきちんと授業に出て勉学に勤しむべきです。それから…」

「いーじゃん、セックスアピールくらい。心は真っ白よん。せぇっかく色っぽい女として創ってくれたんだから、主人の要求にはきちんと応えなきゃ。つーか悪魔が天使に説教するなんて変なのー」

 三笠がくどくどと注意をしているのに、結はケータイゲームに夢中でほぼ聞いていない。

「天使のくせになんですかその態度は!

 定期報告で七天使に言い付けますよ!」

「あんたの報告は煉獄官庁でしょ」

「結さんが報告してる時に、横からチクります!」

「そういう所は悪魔っぽいね」

 とかなんとか二人でやり取りしていると、昇降口の扉が開く。

 さすがに一瞬、口を閉じる二人。だが、予想に反して出迎えたのは園の幼児だった。

「ねーちゃんたち、松まつさまの下僕?」

 松、というのは彼らの主の名だ。しかし彼らに下僕と言った覚えはない。

「あるじ…えーと、松くんは中かな?」

「うん。松さまが中入れって」

 友達に様付けをさせる幼稚園児は、間違いなく彼らの主の仕業。靴を脱ぎ、呼ばれるがまま中に入る。

 中にはイチゴポッキーを食べながら、女の子たちに囲まれている一人の男の子がいた。

「松さまぁー、みきのお菓子も食べてよぅ」

「松さまに話かけないでよ、いまユッコと話してるんだから」

 ……異様な光景だった。異様にモテモテなその男の子は、固まっている二人に気付く。

「よく来たな、オレ様の下僕共。

 もっと遅くたってよかったんだが、

 ……これも『特別待遇』というやつか」

 幼稚園児ではない黒い笑い。にやり、と効果音がつきそうだった。

「下がれ。……後で続きをしようぜ」

 黄色い声がする。二人は目の前の幼稚園児がどんな生活を送っているのか、想像したくもなかった。

「主さぁ…色欲全開なのは高校になってからにしなよ。 幼稚園児にしちゃ、違和感ありすぎだよ」

 さすがに天使の結は呆れている。三笠はもっと憤慨していた。

「なんですかあれは! 幼稚園児といえば無邪気にかけっこでもすべき年頃でしょう! お菓子もダメです!

 こんな怠惰で堕落しきった生活では、円滑な人間界の管理などできませんよ! 生活態度から改めてください! ここの所属しているはずの幼稚園教諭はどうされたんですか? まさか設定変更していませんよね! 本来であれば園教諭の指導の下、生活態度を更生していただくべきですが、一体管理体制はどうなっているんですか?」

 天使の結より、かなり厳格な悪魔の三笠。主は不快そうに眉を釣り上げて、三笠を見る。

「ああ? 悪魔の癖にくどくどうるせぇなぁ。この世界をどーしようが勝手だろ。下僕のクセにオレ様に指図するな」

「そーだよ、三笠くん。モテないから羨ましがらないの。さらにモテないよ」

 主の言葉にちゃっかり結が便乗してきた。二人の態度に我慢がならないようで、顔を真っ赤にしながら三笠はわめく。

「結さんもなんなんですか、その態度!

 だいたい、お二人とも万物の上に立つ自覚が薄すぎなんです!

 そもそもシヴァ様が、主に人間界の管理を命じているのは天界で起こした主の罰則の為で…」

「はいはーい、いつもの口上ご苦労サマ、三笠くん。この続きはまた今度にしましょー。

 長くなるので簡単にご挨拶しちゃいまーす。

 この小煩いのが悪魔で、三笠。あたしはキャピかわな天使の結でーす。

 じゃあ、主。これからよろしくー」

「ホントうるせぇな、三笠は。何回生まれ変わっても性根が変わらねぇし。お前の方はいい女に創って正解だったぜ、せいぜい俺の言う事よく聞けよ」

「んー、自由選択の意思は残ってるんで、よろー」

 三笠くんの怒号が園に響く。

 こうして神さまの日常が、はじまる。

 

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