幾つになっても…。
鈴ノ木 鈴ノ子
いくつになっても…。
冬の風邪に身を攫われ、熱の大河に魘されて、意識は微睡に吸い寄せられた。
魘されながら夢をみた。
懐かしい幼き頃のこと。
懐かしい温かみの手が、優しく頭を撫でてくれた。
失われて久しい温もりに固まった身が解れた気がした。
目を覚ますと熱は引き、看病してくれていた妻が壁にもたれてうたた寝をしている。
立ち上がった私はそっとカーディガンを肩にかけてやり、重たくゆっくりとしか歩めない足取りで部屋を出た。
冷えた廊下を進み、やがて、仏間へと入る。
夜明け間近の薄闇の部屋、ぼんやりと浮かぶように位牌が並ぶ仏壇の前に腰を下ろした。
マッチを擦ると柔らかな火が棒先に灯り、それを灯明の蝋燭へと宿らせた。
淡い小さな灯りが五光を放つ。
線香花火の火線のように光の筋が四方八方に伸びゆき、位牌や仏様が照らされていく。
線香を焚き止めて煙がゆっくりと位牌の周りを揺蕩う。
鈴から放たれる音が部屋の静寂を揺らした。
そっと手を合わせて合掌する。
懐かしき温かみの手を差し出してくれた。
母の面影に感謝して。
幾つになっても…。 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます