50マイルの笑顔

わたくし

噂を確かめに行く

「ねぇ、知ってる?」

 イキナリ悪友のAが話しかける。

「何の事?」

 オレは答える。

「ターボばばあ!」


「たーぼばばあ?」

「何それ?」


 Aは話し始める。

「峠の旧道トンネルにT市方面に向けて時速80kmで入ると、ちょうど中間地点で窓の外から老婆が運転手に向かって笑いかけるそうだ」

「時速80kmで並走出来る老婆なので、『ターボばばあ』」


「本当かよ!」

「本当だって!」

「何人も見たって、SNSで報告が上がってるよ!」

 AはスマホでSNSの画面を見せる。


「噂は本当だった!」

「中間地点で見ると、婆さんが笑っていた!」

「時速80km以下だと現れない」

「SUVやトラックなど、車高が高い車では見れないみたい」

「それは老婆の背が低いからでは?」

 などの沢山の書込みがあった。


「俺たちも確かめに行かないか?」

「俺の車はSUVだから、オマエの車で行こう!」

 Aはオレの袖を引っ張る。

「しょうがないなぁー」

「まぁ、行ってみるか……」

 オレは面倒くさそうに答える。

 でも、心の中では興味津々だった。



 オレは愛車を走らせ、問題のトンネルに近付いた。

「時速80kmだから、時速50マイルか……」

 オレは愛車のスピードメーターを確認する。

 メーターの針は50mile/hを指していた。

「トンネルにはいるぞ!」

 オレはAに言う。

 愛車はV8エンジンを轟かせてトンネルに進入した。


「ここが中間地点だな」

 オレは運転席の外を見る為に少し向く、Aも助手席から運転席の外の向く。


 しかし、『ターボばばあ』は現れなかった……


 オレはトンネルを抜けた先の駐車場に愛車を停める。


「結局、出なかったじゃないか!」

 オレはAに怒鳴る。

 Aは冷静に事態を分析する。

「オマエの車は左ハンドルのアメ車だったから、運転席の外のに注目していたが、本当は右ハンドルの運転席の外のに出るんじゃないのか?」

「もう一回トンネルに入って、今度はに注目しよう!」


 オレは愛車を走らせる。

 反対側からトンネルに入り抜けた後、適当な所でUターンをしてもう一度トンネルに進入する。

 速度は時速50マイルだ!


「ここが中間地点だ、右側だぞ!」

 オレはAに言う。

 Aは右側をじっと見つめ続けた後、

「ああ、なるほど!」

 と叫んだ。

 オレには何も分からなかった。


 さっきの駐車場に愛車を停めると、Aが説明してくれた。


「あのトンネルは、中間付近から外壁保護の為にビニールみたいな塗料が塗ってあったよ」

「その塗料が運転席の運転手の顔を反射していたんだ」

「塗料の壁面が微妙に凸凹していたので、自分の顔が老婆の顔に見えたみたい」

「時速80km以下だと見えないのは、それ以下だと冷静に自分の顔だと認識出来るからだと思う」

「時速80km以上だと運転に集中しないといけないから、反射した顔が自分だと確認出来ないのだ」

「助手席からだと遠すぎて顔があるとしか確認出来ないからだ」

「今回、左ハンドルの助手席でじっくり観察したお陰で『ターボばばあ』出現のカラクリが分かったよ!」

 Aは得意満面の表情をしていた。


「それをSNSで発表するの?」

 オレはAに問いかける。

「しないよ!」

「こーゆー事は自分で見つけ出さないと!」

「信じる人は信じていれば良い!」

「それを他人がバラすのは野暮な事だよ!」

 Aは胸を張る。

「それもそうだな……」

 オレも納得する。



 家に帰る為に例のトンネルに入る。

「『ターボばばあ』は、結局いなかったんだな」

 オレはつぶやく。



「それは、どうかな?」



 右と左から同じ声が聞こえた。

 助手席のAが叫び声を上げた。


 時速50マイルで走るオレの愛車のに同じ老婆が笑っていた!


 以後、SNSで話題沸騰になる


『ツインターボばばあ』


 が現れた瞬間であった!



 とっぴんぱらりのぷう

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50マイルの笑顔 わたくし @watakushi-bun

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